214.氷海の厄介者
顔が無いな~。折角海割って出てきたのに、何か透明な中にオレンジの核のある不思議な生き物は、白スライムかな?
伸ばしてきた触手は頭から生えていたみたいだし、頭の下の体部?は何かヒラヒラしてる。
何をどうやってるのか浮いてる?と言っても尾の先だけは水に浸かってるので、厳密には浮いてない?
どんよりした曇り空を透過する白透明な謎生物は、まるで風に揺れる氷の花の様にも見える。
何の前触れも無く、まるで蕾が開くように頭部が割れて、船を丸呑みにする勢いで襲い掛かってきた。
壊剣術 天崩
重剣を巨大化して、思い切り殴って海に返す。大きさの割の大した重量ではなさそうだ。
すると、周囲が若干歪んで見えたと思った瞬間には、異様な臭いが充満して吐き気を催す。
普通の生物から出ちゃいけないような、化学物質臭いというか、塗装臭いというか、なんにしても頭痛がしてきそうな臭いに、思うように息が出来なくなる乗組員達。
しかし何の状態異常も出ないという事は、ただ臭いだけなので我慢する他ない。
頭がクラクラしてくるのを我慢して、体勢を立て直した敵に警戒していると、こちらの調子が悪いのが分るのか、余裕ぶって触手を伸ばしてきたので、重剣でぶん殴る。
それでもうろうろと周囲を探るように触手を動かすのは、あまり効いてないという事か?
よっぽど力が入っていなかったのだろう。ならばやる事は一つ。重剣を鞘に戻し、盾を背負う。
鋼鎧術 天衣迅鎧
重量を嵩増しして、
武技 踏殺
踏み付けなら力も何も関係ない。
踏まれた触手の先端を自分の足の下から抜く事が出来ずに、慌てて引き戻そうとする敵だが、こちらは臭いで味方の調子が悪いので、ここは時間稼ぎさせてもらう。
ただ押すばかりじゃなく、有利な状況になるまで待ちに徹する事も戦術だ。
徐々に臭いが薄らぎ仲間の動きが戻ってきた所で、重剣と盾を構え直し、
壊剣術 天荒
踏みつけていた触手をぶった斬る。
残るは触手一本と本体だが、さてどう来るか?
その時船首から、ロープ付きの銛が飛び白スライムに突き刺さった。
艦上舵の正面に謎の器具がついているとは思っていたのだが、帆を上げるロープでも巻いてあるのだろうと思ったら、突き刺さった銛を引っ張る為の器具だったらしい。
数人がかりで動かしても中々回らないので、自分が交替して入り、グルグル器具を回すとどんどん白透明の生き物が近づいてくる。
「とりあえず【弓兵】は削れるだけ削ってください『行きます!』」
戦陣術 激励
士気を高めると、それを利用してクラークが、
戦陣術 斉射
一斉攻撃でダメージを蓄積させていく。
スライムっぽいが、剣でも普通の弓でもダメージが入っているようだし〔竜の歯片〕とかは出さなくても大丈夫だろう。
もうあと一息かという所で敵の姿が完全に白くなり、白いエフェクトを発する。
何か氷精系の攻撃がくると、盾を構えたら流氷が水海から浮かび、そのまま飛んできた。
サイズは小粒なものでも頭くらい、大きなものでは大人数人分のサイズのも物が、次から次へと降り注ぐ。
【重装兵】が体を張って飛んでくる流氷を受け止め、隙間を縫って【弓兵】の矢で攻撃、自分はというと、
壊剣術 天崩
大きな重剣で攻防一体の範囲攻撃で加勢する。
敵の大味な攻撃の隙間を縫って、チャーニン、スルージャが突撃を仕掛け、あとは手数でちくちくと叩きまくり、力を失った白い生き物がまた透明になって、海に浮く。
「なんだったんだろこれ?」
「知らないのか?クリオネって言う貝の仲間なんだぜ。貝殻は無いんだがな」
「へ~」
頭の中にファンファーレが鳴り、
特定部位破壊 透明な素材×3
最大ダメージ 透明な中にオレンジ色の核風のポッチのついた篭手素材
の二つが今回の報酬だった。
まあこれもクラーヴンさん任せだな~と思いつつ、船を見回すとかなりダメージを負った様子で、あちこちボロボロだ。
甲板に穴が開いているのは、大きな流氷がぶつかった事で、足場を減らされたって事なのだろうが、貫通して沈む所までリアル表現じゃなくて良かった。
もしくは一定以上ダメージを受けたら、船も沈むのだろうか?だとしたら軍用船を借りられたおかげで、寒い流氷浮かぶ海に投げ出されなくて済んだのか。
何か思ったより綱渡りだったのかもな……。
ぼろくなった船で、元の港まで無事帰り、地面に降り立つと、足場がしっかりと安定している事に対する感謝を感じつつ、船の修理代を請求されたらどうしようと不安がよぎる
「船ぼろくなっちゃいましたけど、怒られますかね?」
「何言ってんだ。任務で氷海に住む厄介者を倒したんだから、褒められこそしても、怒られる事はないだろ」
それならいいが、借りた船がボロボロだし、できればもうあまり船上戦闘はやりたくないな。
一先ず中隊を率いて【古都】へと帰還する前に【帝国】の海鮮を味わおうと思ったら、イカが名産らしい。
微妙に白いその姿はクリオネになんか似てて、食欲が失せたので、今回は名産を食べなかった。