213.【帝国】海戦
ちょっとしたトラブルに見舞われたものの、大事にはならずに出港できた。
海の上はやはり寒い、そして暗い。甲板の上のヒト達はモコモコと着込んでいるが、海に落ちようものなら、水吸って大変な事になるだろうな。
100人乗っても余裕の大型船で海を行くが、正直な所自分にはどっちに向っているのかさっぱり分らない。完全に舵はエイリークさん任せだ。
海は好きかといわれると、現状どちらともいえない。陸から見る風光明媚な海は勿論綺麗だが、こと【帝国】のどんより海はなんとも気持ちが沈む。
舵の前に設置されているロープを巻き上げる器具?数人がかりでぐるぐる回す、よく奴隷達が回しているイメージの何かの前で、ぼんやり目的地に辿り着くのを待つばかり。
行けども行けどもずっとどんよりしていて、このまま何処か世界の果てにでも着いてしまいそうと不安になった所で、船に大きな振動が走る。
事件かと思い大急ぎで舳先に出ると、いつの間にか下には氷が流れ始めていた。
「流氷が出てきたって事は、そろそろだな」
思わせぶりな事をいうエイリークさんに、これがフラグかと思いつつ流氷漂う海の先に目を凝らす。
少し待つうちに、また大きな振動を感じ、今度は船の何処に流氷が当ったのかと甲板上の仲間を見るが、誰も心当たりがない様だ。
小首をかしげて虚空を見ると、何故か雲の形がぶれてる?
透明な柱がうねりながら船の横に立っていると、理解した時にはもう遅かった。
透明な柱が甲板に叩きつけられ、数人巻き込まれたので、
治療術 救急
クリーンヒットを貰った【偵察兵】を一人状態固定して、戦闘態勢!
「相手は透明で視認しずらいが、慌てずに協力して対処すること!『行きます!』」
戦陣術 激励
船内で待機していた組も合流しつつ、全員周囲に目を凝らす。自分は<観眼>で周囲を確認する事で、色関係なく形を捉えて対応する事にした。
今、水上に延びているのは二本の触手、ウネウネと相変わらず艶かしく動く透明な触手に果敢にも【弓兵隊長】クラークが攻撃を仕掛けるが、ちゃんと矢は刺さる。
それを見て、攻撃が届く者は次々と透明な触手を殴りはじめ、それを嫌がるようにウネウネと船の周囲をぐるぐると逃げ回る透明な触手にちょっと拍子抜けだ。
しかし、あまり油断していると碌な事がないのは確かなので、ここは一旦隊列を整え、
戦陣術 円陣
移動を犠牲にした拠点防御に向いた陣形だが、移動は船任せなので、状況としては悪くないだろう。
そしていつの間にか更に二本増えていた透明の触手が、意を決したかのように船を捕まえ締め上げ始めた。
合計4本の透明な触手のようなモノに捕らえられ、船の動きが止まった所で一本の触手に対して、
壊剣術 天荒
思い切りぶん殴ると、跳ね上がるように船を放したので、更にもう一本の触手を狙って、ぶった斬る。
硬いような柔らかいような、妙にコリコリした触感が微妙に気持ち悪いものの、我慢して更にもう一本ぶん殴ったところで、チャーニンが残った触手を槍で突き刺して怯ませた。
一旦離れた触手に警戒しながら状況を確認すると、離脱の必要なヒトはいないが、全員生命力が減っていたので大急ぎで回復しつつ、エイリークさんに尋ねる。
「攻撃を喰らった訳でもないのに何で?」
「こいつらは海の悪魔だ。船ごと捕まえて中の乗組員の命を吸うのさ」
「見えない触手で捕まえて、気がついたら生命力が枯渇して死亡なんて、まるで都市伝説ですね」
「まあ、都市というか流氷浮かぶ海のど真ん中だがな」
「対応策はあるんですか?」
「まずはとにかくあの触手を攻撃して、相手を怒らせるしかないな。まだ4本だがそろそろ……おっと出てきたぞ」
更に二本増えて、6本に増えた触手が再び船を掴みにくるので、それぞれとにかく攻撃しまくり船を離すまで徹底的にやるしかない。
少し攻撃的になった触手は、今度は甲板上を適当にぶん殴ってくる。
「出来るだけ【重装兵】が受けるか、回避するかして、生命力の消耗に気をつけて!」
今のところ円陣を組んでいるので、攻撃力も防御力も悪くない筈だ。あとは堪えながら触手をひたすら叩くのみ。
思い切り振りかぶられた触手が甲板を殴ろうと、振ってきたところにカウンターの、
壊剣術 天崩
巨大化した重剣でぶった斬ると、ついに一本触手が折れた。
「よし!きっちり殴ってればあの触手折れるぞ!どんどんやれ!」
一本動かなくなった事で、この触手叩きが無限作業じゃない事がハッキリした。
これによって皆一気に畳み掛ける勢いで、バカバカ攻撃を当て始め、更に一本【重装兵長】ムジークがトドメの一撃を長柄鎌で切り裂いて、触手をブッ倒す。
自分も負けていられないと、弱って動きが鈍い一本に狙いを定めて 壊剣術 天破 のつもりで突いたが、今使っている重剣は【帝国】の初代皇帝の剣のレプリカを使用している為剣先が平らで刺さらない。
ただの 天荒 でぶん殴る形になってしまったが、そこから木を伐り倒すように、触手が折れた。
更にチャーニンが一本、スルージャが一本倒して、後2本という所で触手が遠くに逃げてしまう。
何気にこの間、ひたすら回復に専念してくれていた【衛生兵】隊が影の立役者だ。
「そろそろ、怒りますかね」
「ああ、本体が顔を出すぞ!」
流氷が割れ、水しぶきを上げながら、海面に顔を出すのは……。