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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
213/363

212.【帝国】の海

 どんよりとした曇り空がはるか彼方まで続き、その下の海はなんとも言えない微妙な暗い色をしている。


 こんな場所でも雪が降っていて、一歩足を滑らせれば海へと真っ逆さま、下手をすれば心臓が止まるんじゃないかという寒さを連想させる。


 それが【帝国】最西部の海、多くに船が停まり他国からの荷物が陸揚げされているが、何でまたこんな場所にいるかというと、今度のレギオンボスが海上戦になるからだ。


 「ソタロー!そんなに海に近づいて、落ちたら死ぬぞ?」


 「分ってますよ。しかし、まさか海で集団戦をする事になるとは……」


 「まあそれは仕方ないだろ。この海だって【帝国】領である事は間違いないんだしな。それにしても東の端から西の端までよく遠征するなとは思うが」


 今回の案内人はエイリークさん。【帝国】の海を知り尽くした吹雪の侵略者だ。


 まあ二つ名はリングネームみたいなものなので、別に略奪を生業にしてるとかそんな事は全くない。普通に堅気の【上級士官】らしい。


 「それで、自分達はどの船で現地に向かうんですか?」


 「それについては、軍用船を手配してもらってるから、それを使う。何しろソタローの体重を支えられる船となると限られてくるからな」


 「自分はそこまで重くないですよ?雪道仕様の装備ですし」


 何故かじと目で、こちらを見たエイリークさんは作業に戻っていく。


 しかし、海や船の事が全然分からない自分には、やる事がない。のんびりと周囲の船や荷積み、荷卸を眺めるばかりだ。


 ふと、ヒトの騒ぎ声が聞こえるので、そちらを見やると誰かが追いかけられてる?


 「誰かそいつを捕まえてくれ!」


 追うヒトの服装が【兵士】とはまた違うものの官憲風の制服という事は、追われてる方が悪人かな?


 と考えている内に、自分の横を抜け船に飛び込む悪人?


 「船を出せ!すぐに出港だ!」


 と叫んでいる間にも船がジワジワと港から離れ始める。多分このヒトを待って、来たらすぐに出る算段だったのだろう。


 追いかけていた官憲風のヒトが、たたらを踏んで海に落ちそうになるのを軽く引っ張ってあげて、助けたものの、


 「クソ!海に逃げられたら、お手上げだぞ!船の用意はあるか?」

 「そんなすぐに出港できるような船はないですよ!あいつら準備してやがった!」


 数人の官憲の人達が焦っているものの、何事も進まない。


 「この船の人達って何か悪さでもしたんですか?」


 「ああ、碌でもない連中との取引に応じて、あれやこれやと悪さして稼ぐ連中さ!」


 これは官憲側についても大丈夫かな?と舫い綱というのだろうか?まだ港に残ってる一本が海中に入る前に拾い上げて、船を引っ張る。


 足元に舫い綱を引っ掛ける出っ張り、なんと言うのだろう?船乗りのヒトがよく足を乗せてるアレがあったので、自分もそこに足を引っ掛けて思い切り綱を引っ張れば、船が帰ってくる。


 何か官憲のヒトの目が飛び出しそうなほど驚いているが、10人かそこらしか乗ってない様な小さな船くらい、引っ張って引き上げちゃえばいいだろうに?


 ズン!と音がして船が岸辺に張り付くと、官憲の人達が中に入りこむのを眺めていると、


 「ギャー!!」

 「抵抗するな!抵抗すれば罪が重くなるぞ!」

 「うるせー!捕まるくらいならここでやってやる!」


 剣呑な様子だ。ここは一応【兵士】職の自分が行くしかないかと船に乗り込もうとすると、一歩目で船が傾く。


 そして官憲の人も悪人達も一斉に甲板上から港の方に転がり出され、船内部にいた人達もしこたま壁に体をぶつけたらしく、いきなり静寂が訪れた。


 すぐに、岸に戻って様子を見ていたら、流石一応鍛えているのであろう官憲の人達が動き出して悪人達を捕縛していく。


 どうやら【帝国】の捕縛はちょっとレトロで、縄で縛り上げるタイプだった。てっきり、鉄だけはいっぱい取れるし手錠だと思ってたんだけどな~。


 「ご協力ありがとうございます」


 「いえ、自分も【兵士】職ですので、それで彼らは何を?」


 「いや最近増えた類の連中ですよ。邪神の化身が復活するから生き残りたければ、邪神に帰依するしかないとか言う」


 「邪神は全てのヒトの共通の敵と認識してたんですけど、何でそうなるんですかね?」


 「まあ、どうしたって食っていくには軍に入るしかない連中ってのはいるもんですが、それでも軍はいやだって奴もいるもんで」


 「なる程、反体制派の人達が悪さしちゃう訳ですか」


 「まあ世も末ですからね。でも過去何度となく邪神の化身を退けてきた歴史もあるんですから、希望を失わずに戦うしかないはずなんですがね」


 「うるせー!そうやってお前達は現実から目を背ける!原初のヒトだって世界樹の根を使い尽くしたし、白竜様だって傷ついて眠った!人知を越えた英雄達が戦った時だって、俺達のような並の人間ばかりじゃなかったから封印できたんだ!」


 「ほら、うるさいからさっさと連れて行け!お前は禁制の品を密輸した件で起訴されるんだ。邪神の化身云々言っててどうする。そもそも英雄の中には並の人間もいただろうが!」


 ふぅむ、世の中が不安定になってくると色んなヒトが現れるものだ。ニューターと呼ばれる自分達プレイヤーはまだ邪神の化身と出会った事が無いから、危機感が薄いのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 片足が乗ったら、転覆する船 と言うより、片足を乗せただけで船を傾けた重さに気付こう、ソタロー 目、そらしてるな? 実は、自分の重さに驚いてるな? 大丈夫、数値だけ…
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