210.痛み分け?
「あら何かしら?やっぱり『改人』になってこちらの陣営に付く?」
「いえ、ここは痛み分けという事にしないかと思いまして」
「なぜかしら?この人数をあなた達3名で捌けるとでも?」
「多分出来ますけど、問題は人質です。こちらのガイヤは無視してあなたを直接狙うと言ってますが、それでもあなたは勝つ気でいると思うのですけど?」
「そうね。後はやってみなければ分らない事ね。まあほぼ私が勝つのだけど」
「ふむ……」
「おい!ソタロー!こんな奴と交渉なんて無駄なんだから、思い切りぶん殴ってやればいいんだよ!」
「いえね、マダム・アリンは自分が誰の手の者で、何でこの取引を邪魔しに来たのか知らないんじゃないかと思いまして」
「そう言えばそうね。レディが嫌がらせに来たにしては余りにもやり口が杜撰と言うか直接的ね」
「ええ、まあ自分は【帝国】の【上級士官】で国務尚書直々の命令でこの場に来てますので、もし自分の身に何かあった場合、最悪【帝国】軍が動きますが、いかが?」
「「「……」」」
マダム・アリンどころかガイヤさんもブラックフェニックスも黙りこくってしまって、ちょっと気まずい。
「あのー。マダム・アリンにとって問題があるとすれば、今回のこの件が世間に知られる事ですから、だから根こそぎ来た客を仲間に引き入れるか亡き者にする計画だったんでしょうけど、それはそれこそ破滅の道ですよ?」
「そうね。じゃあ提案の続きを聞こうかしら?」
「自分はあくまでマダム・アリンが魔石の取引をしようとした事、特異な体質の屈強な護衛がいる事しか知りません。他の客はマダム・アリンには何か裏の顔があって、自分達を殺そうとした事。ガイヤは何となく巻き込まれて怒ってるだけ、ブラックフェニックスとは元々因縁があったと、そんな内訳だと思います」
「誰が何となく怒ってるっていうんだい!私は舐めた態度をとる女をぶん殴るって言ってるんだよ!」
「そうね、どうやらそういう内訳みたいね。なるほど私に表の顔を捨てろって言うのね?でもそれじゃ痛みわけじゃなくて、私一人損よ?」
「なので、自分とガイヤとブラックフェニックスとこちらの【帝国】の【上級士官】を帰してくれたら、他の客は全部そちらに差し上げます。好きに使ってお金稼ぎでも何でもしてください。正直自分は他の客について何にも関知してません。つまりその人達がマダム・アリンの代わりに表の顔役をやったとしても、分りません」
「ふ……ふふ、ははははは!そう?そうね?他の客についてあなたは何も知らない。つまり私に忠誠を誓う者のみ生かして、表の顔として使役する事も可能……。私は裏社会の顔として君臨するのもいいか」
「ソタロー……いつからそんな腹黒くなったんだい?隊長でも乗り移ったのかい?」
「先に他の客を見捨てようとしたのはガイヤじゃないですか?今回は相手の罠にかかりに来たようなモノなんですから、五体満足で帰れれば成果としては十分ですよ」
「あれは人質に価値があると思われると被害が広がるから、とりあえずこの女をぶん殴る気だったんだ!」
自分とガイヤが言い合っていると、ブラックフェニックスがこちらにやってきて絡む。
「おい!お前は自分がよければそれでいいタイプの人間か?」
「そういうあなたは出来もしない事をどうにかしなきゃって口先だけで言って、何も出来ずに正義感ぶるタイプのヒーローですか?」
「ふふふ、言われてるわよブラックフェニックス」
「クソが!俺一人でもやってやる!」
「あの、鞄から剣と盾を出してもいですか?この人とは直接やりあわなければ、いけないみたいなので」
「いいわよ!どうぞ存分にやり合って頂戴!」
「どういうつもりだ?」
ブラックフェニックスの問いかけを無視して、アイテムバッグから重剣と盾を取り出して両手に装備し、
そしていつの間にか輪を縮めるように近くにきている客を肩に乗せた屈強な男を横薙ぎにする。
「どういうつもり?」
今度はマダム・アリンの問いかけを無視して、更にもう一体の屈強な男もぶった斬る。
自分の意図を察したガイヤさんも近くの屈強な男をぶん殴り、小首をかしげたブラックフェニックスだけが呆然としている。
「だからどういうつもりなの!さっきの提案はどうしたの?」
「時間稼ぎですよ。屋敷の中に入ってもらった方が、扉で時間稼ぎしやすいので」
言いながらも、中盾で別の屈強な男を吹っ飛ばし、表に出る。
「そう?じゃあこの人質がどうなってもいいのね?」
「だから関知しないと言ってるじゃないですか、当然いいですよ」
「本当に!本当にいいのね!」
「どうぞどうぞ、どうせあなたの手駒が減るだけだ。という訳で脱出しますよブラックフェニックス」
「くそ!そういう事かよ!」
戦闘が始まってからアビリティの気配で周囲を確認した時から周りが敵だらけなのは、分ってた。
だからさっさと逃げようというのに、何か状況が混沌として手間取ってしまった。
ガイヤさんのスキルは戦闘振りだろうし、探索寄りのスキルやなんかは持ってなかったろうに、それでも敵首魁をぶん殴ろうというのは、思い切りがよすぎる。
三人で協力して吹雪の侵略者を守りつつ、庭を抜けるとさすがに追ってくるのはやめたようだ。