208.再生する手長足長
「どきな!」
相変わらず強気なガイヤさんは扉の前に立ち塞がる屈強な男にも怯まない。
「すみません。用は済んだので帰らせてもらってもいいですか?」
一応自分は多分この屋敷の主人と思われる女性に声をかけるが、女性はニヤニヤとするばかり。
これがニコニコとした表情なら、もう少し交渉の余地もあろうが、ニヤニヤとしか言いようのない含み笑いに、いやおうなく警戒心を高めさせられる。
扉の前の男が、ゆっくり動き出し妙に長い腕でガイヤさんに掴みかかると、
「焦熱地獄」
何か呟くなり、赤いエフェクトと熱波を発して、もとより赤髪のアバターが更に赤々と燃え上がるように立ち上がる。
完全に戦闘態勢なのは仕方ないとして、容赦ない炎を纏った拳で男をぶん殴り、燃やしてしまった。
「あ~……、じゃあ帰りますね?」
何事もなかったかのような振りをして、帰ろうとしても女性は相変わらずニヤニヤしてる?
すぐにアビリティの気配を使い周囲を警戒すると、ガイヤさんの横合いから妙に脚の長い背の高い男が襲い掛かってきたので、
武技 撃突
肩当ての金属部をぶつけるようにふっとばす。
何人か他の客を巻き込んで、ホール内が騒然とするがどうでもいい。先に仕掛けて来たのは向こうだし、これで訴えられるなら【帝国】に何とか逃げ込んで、国務尚書に相談しよう。
隊長を見習って困った時は一旦逃げて体勢を立て直すべし!逃げ続けてれば何とかなるかも?
「ふ~ん、そう?コレだけこちらの手札を見せているのに、まだ姿を現さないのね?ブラックフェニックス」
「え?ブラックフェニックスって、Bブロックのヒーローコスプレの?」
その時一帯が真っ白にホワイトアウトして、何も見えなくなってしまう。
強烈な光だと気がついた時には、目に真っ白な靄が焼きつき何にも見えない。
冑の面当て部に仕込まれた目の保護板すら貫く強力な目潰しに、何とか様子を探ろうと音に集中していると、パリン!とガラスの割れる音?
とにかく目を治さねばと、手探りで鞄から目薬を出し、
治療術 範囲回復
自分とガイヤさんと吹雪の侵略者の目を治す。
「今のうちに逃げませんか?」
「それはそうだけど、まだ相手の手の内も分からないからね。やれるなら潰す!」
そうこうしている内に、何故か目から血を流す手の長い男と足の長い男。どちらも屋敷の主人の手の者だろうが、何で目が潰れてるんだ?
しかし、間もなくその答えは分る。ボコボコと目が再生し、はっきりとこちらを認識して睨みつけられる。
自然と足の長い男は自分が、腕の長い男はガイヤさんが、相手する事になった。
足の長い男の上段回し蹴りに自分も蹴りを合わせてぶつかり合うが、お互い弾き飛ばされ互角の勝負となる。
ジャンプからの後ろ回し蹴りを腕当てで受けて、相手の軸足を蹴り払う。
転んだ所で、
鋼鎧術 多富鎧
逆立ちになってブレイクダンスのような回転蹴りを見舞ってくるのを受け止めながら顔面を蹴り飛ばす。
グチャッと言う感触と共に、近くにあったテーブルに相手が激突している間に、
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 空流鎧
バフをかけて相手を待つ。なにしろ目玉が簡単に再生した相手だ……案の定潰れた筈の鼻も何も元に戻っている。
鋼鎧術 灰塗鎧
相手のかかと落としを右の前腕防具で受け流すと、ズンッと音をたてて床を蹴りぬく相手、明らかに動きに違和感があるのは、片足だけ重くなったからか?
今度は重くなった足を軸足にして蹴りこんできたが、左肩と左腕で受けて、思いっきり軸足を蹴り飛ばす。
部位破壊が出たと思った矢先に、また再生。壊しちゃうとその部位は綺麗さっぱり再生されちゃうんだけど?
その時どこからともなく、声が聞こえてくる。
「待たせたな、マダム・アリン!いや四天王フロリベス」
「ふふ、やっときたのね。ブラックフェニックス!罠と分っていてあえて飛び込んでくるなんて、なんてお馬鹿なんでしょう」
「魔石の取引の情報をちらつかせて呼び出しなぞ、よくやってくれる。だが、お前の相手はこいつらの後だ」
ブラックフェニックスって本当にヒーローだったの?闘技の時だけのネタキャラだと思ってたんだけど?
まあいいか、自分は自分でやる事あるし、こいつを倒しちゃわないと。
手に入れたばかりのベルトのバックルを操作すると、緑がかっていたベルトが、赤くなり、百足の凶暴化を思わせる色になった。
同時に筋肉が盛り上がり、新鎧をギリギリと押し上げる。興奮に頭から湯気が出そうだ。
「らぁぁぁい!!」
武技 鋼締
足長が再び自分を蹴ってこようとしたのだろうが、お構いなしに抱きついてそのまま締めあげる。
「よし、そのまま抑えてくれ……」
「再生するなら、破壊しないままギリギリまで削る!」
どんどん腕に力を込めていき、相手の腕から内臓まで部位が破壊されていく感触が伝わってくるものの、自分が押し潰している所為か、再生が始まらない。
相手が何とか逃れようともがくが、そのまま強引に潰しきり、胴体の感触が妙に固くておかしいな?と思った所で、相手が気絶してしまったので、その場に捨てた。
「力づくで、核に傷つけて終わらせるとか、何者だよ」
何かを呟いてるブラックフェニックスを他所に、自分はすぐさまガイヤさんの増援に行く。