207.夜会
ガイヤさんの後ろについて一軒の大きな屋敷を訪ねると、門の前には執事らしきピシッとした服に焼けた肌を持つ初老の男性が待っていて、広い庭を通り抜けて屋敷の中のホールへと通された。
既に結構なヒトが入っているが、多分皆相応の身分だろう服装がいずれも煌びやか、そして半数は顔を隠しているので、自分のような仮面も別に目立たない。
自分は仮面というより冑だが、まあ端から見たら白髪の仮面の人物に見えるだろう。多分。
標的は筋肉の【帝国】人だが、ちょっと人数がごみごみしていて、パッとは見つからない。
そしてこちらはヒト探しに忙しいのに、ガイヤさんを見つける度に色んなヒトが話しかけてきて面倒くさい。
「レディの代理人はあなたでしたか、相変わらずつれないようですが、ご主人の調子はいかがですか?」
「私のスポンサーは相変わらず綺麗な仕事しかしてないんで、あんたみたいな怪しい奴は嫌いだとよ」
「はっはっは!相変わらず気の強いお嬢さんだ。また【闘技場】で会いましょうとお伝えください」
今話しかけてきた男性は、顔を右半分しか隠してなかったので、正体がばれるとか関係なく。何かドレスコード的に仮面をしてたのかな?
「ガイヤさんは知り合いが多いんですね」
「ふん、『さん』はいらないっての。ここにいる連中は大体金の有り余ってる怪しげな金持ちだから、知り合う必要なんてないよ。絡まれたらぶん殴りな」
「自分が殴っても<素手>スキル持ってないんでダメージにならないですね」
目当ての人物を探しながらホール内をうろうろしていると、何となく会話が聞こえてくるが、さり気なく取引の話をしているヒトが多い気がする。
つまりこういう場を利用して少しでも人脈や販路を広げるとかそういう事なのかな?まあ自分には全く関係ないが、社交界ってのはなんとも面倒なもんだ。
ふと、妙に騒がしいなと思ったら、ガイヤさんが誰かと言い合いをしている。
すぐにガイヤさんの方に向うと、
「だから、あんた何者だい?こんな所に来るニューターなんて、そうはいないだろ?ここの主人がどういう人物なのか知らないのかい?」
「まあ、そりゃ知ってて来てるが、別に理由まで言う必要ないだろ?目立ちたくないんで、そっとしておいてくれよ」
「あぁぁぁん?そうはいかないね!今日は特にキナ臭いってのに、巻き込まれる奴を放っておく訳ないだろ!」
「いや、親切なのか、おせっかいなのか……頼むからこれ以上目立つのは勘弁してくれ」
「ガイヤさん、この人もこう言ってるし少し様子見ましょうよ。見た感じ腕に覚え有りって雰囲気だし、何かあれば協力するって事でどうですか?」
「分った、それでいい。何かあればちゃんと手伝うって」
「分ったよ。気をつけな」
すぐに相手の男性が立ち去る。
「何であの人に絡んだんですか?」
「怪しかったから、カマかけただけだよ。何でかしらないけど外の様子をやたら伺ってたり、ポケットの中に何か隠してたりね」
「自分達とはまた別のクエストで来たって事ですかね」
何か時間を食ってしまったが、その間に肝心の探し人が見つかった。なにしろガイヤさんの揉め事を見物したいた中に、知った顔があったのですぐに追う。
明らかに集まっている人々の中では一回り大きな体に【帝国】軍の制服の人物は、
「吹雪の侵略者がこんな所で何やってるんです?」
声をかけるなり、飛び上がらんばかりに驚いて、そして自分の声に思い当たったのか小さな声で話しかけてくる。
「鉄壁の不屈こそ、こんな所で何やってるんだ?」
「あなたが、中隊級の魔石を横流ししようとしているようなら止める様に言われてます」
「なんでだ?コレは普通に俺が隊を率いて倒した時に手に入れたもので、俺個人の物だぞ?他の素材や何かは部下にくれてやったからな」
「売る相手がまずいみたいです。取引を中止してください」
「むぅ……俺としてはコイツで一財産稼いで、北の海に乗り出す資金にしたかったんだが……」
「お金の事は、自分じゃ力になれませんが、国務尚書に相談してみたらいいんじゃないですか?とにかく、こんな怪しい取引は中止して国に帰りましょう」
「いや、しかしだな……」
中々煮え切らない吹雪の侵略者だが、知った顔ゆえ困った事になるのは避けたい。
「本来は取引が始まったら潰すように言われてます。でも話せば分ってくれる方だと信じて自分は全て話しました」
「ぐっ、そうか、そこまで言われちまうとな」
「分りました。こうしましょう!今回の報酬は特に今のところ決まってません。自分も北の海には興味ありますから、北の海調査に関する報酬を国務尚書にお願いすると約束しますよ」
「おいおい、それはお前が仕事するだけ損じゃないか。分った魔石は持って帰るぜ」
まだどこか迷ってる風だったが、それでも魔石が入ってるであろう箱を抱えて、外に向う。
自分の任務はコレで完了だし、そのままついて行こうとすると、ホールの奥階段から、やたら煌びやかに着飾った女性が現れた。
まあ、関係無しと吹雪の侵略者を外にうながすと、
「ふふふ、折角来たのにもうお帰りですの?帰ってもいいですけど、その魔石は置いていってくれないかしら?」
扉の前に屈強な男が現れ、帰り道を塞がれた。