202.黒いインゴット
ボスを倒した翌日、一応新装備のメンテナンスの為にゴドレンの店へ。
「よう、試運転はどうだった?」
「かなり良かったですよ。状態異常を使う敵だったんですけど耐性が効いてたのか、自分は大丈夫でした。ただ……」
「重量か?それについては、雪国仕様の装備である以上どうしようもないな。軽く感じる分、余力をどう生かすか考えた方が建設的だろうな」
「まあ、一回使ってみてかなり慣れましたし、重量ストレスがないのも悪いものじゃないなと思ったので、大丈夫です。あとこれが今回の特典なので、また装備に使ってもらっていいですか?」
そう言って、今回の百足の特典を手渡す。
「ほ~、既に素材関連は【帝国】から供給してもらえるのに、また手に入れてきたか。黒系ね……ところで、そこの床にあるそれをちょっと手に持ってみてくれ」
クラーヴンさんにうながされた場所には、何か黒い四角の物体?大きさ的には手に収まる程度というか、厚みといい大きさといい、黒い油揚げ?
腰を曲げて拾い上げてみると、油揚げとは比べ物にならない重量だった。
それは黒い金属のインゴットだが、これが一体なんなのだろう?しかもこの程度のサイズの物をわざわざ床に置いたのか?
「ソタロー的に、そいつの重さはどう感じる?」
「どうといわれても……しっくりくる?」
手に持ったまま少し振り回したり、軽く手の中で弾ませると鉄の塊としか思えないが、何で金の延べ棒みたいにこんな小ぶりのインゴットにしたんだろう?
「しっくりか~つまりソタローの感覚では特に違和感ないレベルって事だな。どうするか……」
何故か考え深げなクラーヴンさんだが、何をそんなに困っているのか?
「この金属の塊がどうかしたんですか?って言うかこれ何です?」
「それは霊亀の甲羅の粉を混ぜ込んだ鉄のインゴットだ。適量を金属に混ぜると、おかしい位堅く手に負えない程重くなるって言う代物で、手軽に扱える物じゃなさそうだったんだが、物は試にと思ってな」
「へ~これをどうするんですか?」
「前に言ったろ?ソタローの鎧は使い方や場所によって分けた方がいいってよ。その素材で普通の平地用装備を作ろうと思ったんだが、正直な所薄く延ばして使うくらいしか方法が無くてな。ソタローの鎧と言うには薄すぎるし、だからと言ってこの素材以上に物理防御や比重の高い素材って言うのもな……」
「まさか、自分の筋力が低すぎて扱いきれない?鍛えましょうか?」
「逆だ!俺の筋力と鍛冶のスキル補正でも扱える量がたかが知れてるんで、ソタローが満足する程の重量の装備を作るのが、困難だって言ってるんだ。そもそもそのインゴットを随分軽そうに扱うが、大抵の奴らだと両手で何とか持ち上げるレベルだからな?」
「でもイベントの時に作ってもらった装備とか、スカスカで軽かったからアレをもう少し密度上げれば?」
「アレは廃熱用に隙間を敢えて作ったが、でもその分パーツパーツかなり盛ったし、アレを軽いって言うお前用にその素材を見つけたんだ。だがいくら素材は良くても持ち上がらないレベルとなるとな……」
確かにクラーヴンさんは生産職だし自分と同じ筋力を求める事はできない。それこそ生産に必要なのは器用さとかそういったステータスだろう。
このゲームではステータスを数字としてみる事が出来ない為、実際どんなステータスがあるのかは分らないが、しかし正確な動作を表すステータスはありそうだし、器用さに関するステータスもあるだろう。
「基本的に装備の事はクラーヴンさんにお任せしてるし信用してますから、好きに作ってもらっていいですけど?」
「まぁ、そこまで言われて悪い気はしないし、俺自身今扱える範囲で一番いい選択をしたいとは思ってるがな……。今日渡された特典を含め、寒冷地用白装備とは別コンセプトの装備を一個でっち上げるとしよう。ソタローが扱ってもしっくりくる重量の物を目指してな」
「よろしくお願いします!」
装備の事はクラーヴンさんに任せるのが結局間違いないだろう。
とりあえずは、用も済んだし帰ろうかと思ったところ、ゴドレンの店に別のお客さんが来た。
まあ丁度帰ろうと思ったところだしと思って、入れ替わりで出ようと振り返ると、
「ソタロー、やはりここだったか、秘密裏に仕事を頼みたい」
国務尚書が藪から棒に秘密の仕事を頼んでくる。
「あの、他人の店で頼む事じゃないんじゃないですか?」
「だが、この仕事を請けてもらう場合、この店にも世話になるのでな」
「どうする?一旦店の奥に引っ込むか?」
「いや、流石にそんな迷惑かけられないですよ」
「すまないが一緒に聞いてほしい。というのも【砂国】で怪しげな取引があるらしいので、それを潰してもらいたいのだが、賭博の都では『賢樹』様への謁見の為お偉方が集まり色々催しをしている。それに参加できるフォーマルな装備が必要なのだ。下手をすればそのフォーマルな服装のまま戦わねばならないかもしれない」
「ふむ、社交界適性のある装備で、尚且つソタローの戦闘に耐えうる装備か……」
「無理ですよね!自分全身鎧ですよ!それに中盾に重剣持ってフォーマルって!ドレスコードが筋肉とかなら???」
「残念ながら【帝国】ではないので、ドレスコード筋肉は無理だ。武器は持ち込めない可能性が高い。だがソタローなら<蹴り>でも十分やれると情報があるし、何よりその筋肉なら大抵の相手は絞め殺す事が可能だろう。実際【闘技場】で剣盾置いた状態で戦えるのだからな」
「ふむ、まあ出来ると思うが、コイツを鎧化した物でどうだ?」
そう言ってクラーヴンさんが取り出したのは、いつだかペンギンボスを倒した時のタキシード。
「いや、サーコート扱いでしたけど、どうやって鎧化するんですか?」
「十分だ。その装備にはどうやら社交界適応が最初から付いているようだし、それを潰さないように改造してもらえれば、何の問題もなかろう」
「じゃあ、俺は大急ぎでソタローの新装備をでっち上げるとしよう」
「ええ……?」
「補修は国庫から十分出すし、部材も出来うる限り融通するので遠慮せずに言ってくれ」
「じゃあ、シンプルに筋力を補強できる装備を借りる事はできるか?」
「クラーヴンさん……筋力って……」
「いいだろう。貸すのではなく提供するから好きに使ってくれたまえ、じゃあソタローは詳しい任務内容の説明を行うので、すぐ【兵舎】に来てくれたまえ」
いつの間にか、任務受けることに決まってしまったぞ?