201.狂乱大百足
赤くなった百足が、一つ身震いをすると再び雪原中を駆け巡る。
何の狙いがあるとも見えぬ暴走に、倒れた【兵士】を運ぶ【衛生兵】が巻き込まれるかと思ったが、ムジークが先回りし、代わりに弾き飛ばされた。
「ナイス!ムジーク!大丈夫か!」
弾き飛ばされたムジークがゆっくり起き上がり、長柄鎌を取り落とす。
「ぐるぅぅうぁぁぁぁ!」
「え?部位破壊?」
「違います!狂乱状態です!」
武器を取り落としたムジークは近くにあった雪の塊を殴り壊し、近くにいた【偵察兵】を追い始める。
【重装隊長】とは思えぬスピードで追い回し、意味の分からぬ雄たけびを上げて、楽しそうなんだか苦しそうなんだか?
「狂乱状態って何?」
多分状態異常のことだろうと思ったので【衛生隊長】ミールに尋ねる。
「混乱の上位異常です。敵味方の区別がつかなくなるだけでなく、身体能力も大幅に上がる厄介な状態異常ですよ。唯一の救いは武器の扱い方も忘れる事くらいです」
「治す事はできる?」
「狂乱状態の【重装兵】を止める事が出来るのは、カピヨンくらいですよ!どんな筋力だと思ってるんですか!」
そういう事なら、自分が行かねばならない。カピヨンさんに筋肉を育ててもらった自分が!
「ムジーク!こっちだ!」
こちらからも走って近づきながら、重剣と盾を仕舞って両手を広げて迎える。
そこに走りながら殴りかかってくるムジークを羽交い絞めにし、
武技 鋼締
腕の上から腰に手を回してしっかり押さえ込む。
「ぐぅぅぅああ……」
「今のうちに治療頼む!」
ミールが治療する間ムジークはかなりぐったりしているが、よっぽど酷い状態異常なのだろうか?
ミールの治療が終わると、ムジークはその場に崩れ落ちた。
「狂乱……なんて酷い状態異常なんだ。体中の力を使い尽くしてしまうのか……」
「これは確かに酷いですけど……腕が完全に破壊されてるし、内臓もこんな事に……とりあえず一旦安全地帯に連れて行きますね」
ムジーク狂乱の間に、百足の姿が見えない。
「百足は?」
「今【偵察兵】が追ってますけど、さっきの穴に入って行きました」
穴と言うのは、さっき自分の足元からムカデが這い出した穴の事だ。近くで【偵察兵】の連絡を待つ。
「こちらスルージャ!百足は穴の先、地底湖で休憩しています!」
「よし、動ける者は全員で百足を追います!『行きます!』」
戦陣術 激励
士気を高めながら百足の大穴に飛び込むと中は滑り台、するすると滑り降りていくと周囲が氷の壁で出来た広い空間になっている。
天井高くにいくつか穴が開いているらしく、あちこちから光が入っていて地下の割りに結構明るい。
スルージャが近寄ってきて案内してくれるというので、自分の次に来た【兵士】に言い置いて先に向かう。
地底湖の中は妙に暗く何がある変わらない不気味な雰囲気に、ちょっと近づきたくない。
幸い百足も水の中ではなく、鍾乳洞のように大きく垂れたツララが地面スレスレまで生えている隙間で、魔物を食べている様子。
続々と仲間の【兵士】たちが集まってくるのを見計らって、
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 多富鎧
壊剣術 天荒
バフを掛けて一気に百足へ総攻撃を仕掛ける。
戦陣術 一斉突撃
さっきのムジークの様子を見る限り、この赤くなった百足に攻撃されると狂乱になるのだろう。
多分一々回復している暇は無い、ここでトドメを刺すつもりで全力攻撃!
こちらに気が付いた百足に、一人二人と攻撃され跳ね飛ばされ、案の定武器を取り落としてヤバイ雄たけびを上げている。
だが、近くに百足がいるので、結果的に武器を持っていない状態で百足をぶん殴るだけだし、そう悪くもない。
逆に百足は自分で狭い所を休息場所に選んだ所為か、走り回れずに鎌首をもたげて直接噛み付いてくるか、尻尾で払ってくるのみ。
それでも、軽量の【兵士】たちは吹っ飛ばされ【衛生兵】の世話になるが【重装兵】は狂乱状態になりながら、百足をぶん殴る。
それを横目に自分は時折治療術による回復を施しつつ百足の様子を窺う。相手の動きも鈍いし、そろそろ弱点の魔石が出てると思うのだが、どこかな~と探していると節の内の一つにしれっと魔石が現れていた。
よくよく観察すれば、丁度上半身と下半身の間だ。この百足にとっては要となる場所なのだろうか?
するする魔石に近づいていくと、狂乱状態の味方【兵士】に襲われたので、蹴り飛ばしておいた。
自分から魔石を遠ざけようと百足が丸まり始めるが、そこはもう文字通り虫の息、強引に重剣でぶん殴れば、一瞬痙攣する間に魔石に近づき破壊する。
百足が力を失いその場にペタッと潰れ、戦闘が終了した事で狂乱も収まったので<解体>はお任せだ。
頭にいつものファンファーレが鳴り、
MVP
最大ダメージ
ラストアタック
の三つを手に入れた。
一つ目は百足の最初の状態を模したかのような緑のラインが入ったゴツゴツのベルト
二つ目は黒地に光が当るとうっすら緑かかる冑素材?フェイスマスク部が少し特徴的で、仮面に薄い頭部防具がくっ付いてるかの様子。
三つ目はやはり黒地に薄く緑がかった長靴だ。硬そうだがすっきりとしたデザインで、これは戦闘用なのだろうか?と疑問に思ってしまう。
装備は新調したばかりだし、全部クラーヴンさんに任せてしまおうと思う。
<解体>が終わるまで、地底湖沿いをのんびり見て回ると、分る人には分る特徴的な石を発見。
楔だ。まあボスがいて水があるところなら、そうなるか。また誰かに協力を仰がなきゃな。