200.毒大百足
矢を受けた百足は鎌首をもたげるのをやめて、地に這うような姿勢になった。
「相手の動きに注意してください『行きます!』」
戦陣術 激励
相手の動きを待ち構える間に士気を上昇させておくと、体の奥から力がみなぎるのを感じ、そこはかとなく右手に持った重剣の頼もしさが増した気がする。
カサカサという動きの細かさと相反して派手に雪を巻き上げながら雪原を走り始めた百足が、はじめこっちに向ってくるのかと思い身構えて待ったものの自分の手前で直角カーブ。
カーブの瞬間毒の粘液が周囲に撒き散らされる。
すぐさま自分の状態を確認するが、特に何も貰ってはいない。ただ周囲に毒のデバフが蔓延したので、
治療術 範囲回復
手に液体の解毒用医薬品を掲げて覚えたての術を発動すると、まだ熟練度が低いにもかかわらず周囲の3人ほど回復した。
さらに【重装兵】の回復を終えた【衛生兵】達に指示を出して状態異常を治して回らせつつ、自分は暴れまわる百足を追いかける。その百足の姿はまるで不気味な電車が縦横無尽に好き放題暴走しているようにも見えなくもない。
しかし、巨体の割りに素早い百足に中々追いつけず、どうにか止める事が出来ないかと思案しながら走ると、一個術を思い出した。
鋼鎧術 彩光鎧
両手を天に突き上げるように挙げて術を発動すると一帯が光に包まれ、同時に百足が方向転換して一目散で自分に向って突っ込んでくる。
百足を待ち構えて盾で迎撃すると、案の定吹っ飛ばされてしまった。
まあ体重差があるのだからそれはそうだ。しかも足場が悪くて 天衣迅鎧 も使えないとなれば、重量勝負はさすがに無理があるだろう。
それでもすぐに体勢を整えると、自分以外にも次々と壁となった【重装兵】達が撥ね飛ばされていく。
しかし、それも無駄ではなく徐々に百足の勢いがなくなっていき、ついに足が止まった所で、
戦陣術 突撃
チャーニン率いる【歩兵】隊の一斉攻撃で、百足を削る。
嫌がるように身をくねらせ、ばたつかせた下半身の一撃で雪原の雪が爆発したかのように弾けると、同時に数人空中に打ち上げられた。
そこで自分が再び百足と接敵し、
壊剣術 天荒
百足の胴体の節のつなぎ目をぶった切るように重剣を振り下ろす。
勿論そう簡単に引き千切れるようなサイズの相手ではないが、一瞬怯む百足に追撃の、
殴盾術 獅子打
盾攻撃からの蹴りと一発づつくれてやる。
するとそこの節だけちょっと色褪せて、毒々しい緑が消えた?
「機能停止した節って、他にもある?」
「あるぜソタロー!」
「こっちにも一つある!」
なる程!そう言うルールか!という事で、更に隣の節を攻撃開始している内に、矢の援護も飛んできて、徐々に優勢になっていく。
絶え間ない攻撃に、暴れる事は出来ても走り出すための最初の加速を得られずに、その場を動けない百足の節が次々と色褪せて、動きが少しづつ弱々しくなったかと思ったところで突然、
『キィィィィ!!!!』
百足から異様な高周波の音が発せられ、全員強制的に手を止められ、同時に士気が少し低下した。
「総員警戒!『行きます!』」
戦陣術 激励
すぐさま士気の回復をすると、体を一気に天に向かって伸ばした百足が、そこから一気に今度は頭から落っこちて地面につっ込み、そのまま一直線に沈んでいく。
シュルシュルとまるで何の抵抗も無いかのように雪の中にその姿を隠し、見えなくなってしまった。
全員警戒したまま動けないので、モノは試しと自分が盾で思い切り雪をぶん殴ってみたが、ベタンッと鈍い音をたてて雪を舞い散らせるのみ。
少しの空虚な間があり、急に地面に薄気味悪い振動が伝わる。そこからはただの勘と言うか嫌な予感にしたがって、盾を背負い重剣を仕舞って、
鋼鎧術 天衣迅鎧
一気に高まる重量に体が沈み、腰まで埋った所で今度は足から異様な圧力を感じて、視点の位置がグンッと上がる。
そこから、じりじりと体を押し上げられるのが分るが、雪に埋った自分の体を押し上げるにはかなりパワーがいるのか、ぶつかってきた瞬間以降は、何か大変そう。
その間に自分がいる場所に攻撃する準備を整えた仲間達を見ながら、再度引き抜いた重剣を構え直す。
膝まで体が抜けると同時に、一気にスポンッと打ち上げられたので、そのま真下から生えてくる百足に重剣を振り下ろした。
がりがりがりがり!と節を片っ端から傷つけるが、自重と筋力任せに重剣と体勢を固定しているだけで、百足にダメージが入っていく。
天衣迅鎧 を解除している内に、ビルのように真っ直ぐ立ったムカデに矢が降り注ぎ、全身の色が褪せていくのを確認できた。
そのまま横倒しになる百足を避ける為に一部の兵達が全力で走るが、何人か完全に逃げ遅れたので、急ぎ近づき一人を
治療術 救急
状態固定。その間に【衛生兵】達が、他の【兵士】を安全地帯に連れ出す。
百足の様子を見ていると脈動を始め、妙にざわつく嫌な予感に周囲を見渡せば、部隊長達も苦い顔をしている。
そして、百足の姿が一瞬ぶれたと錯覚した瞬間、
『キィィィィィ!!!!』
と先ほどの叫び声、そして全身に暗い血のような色が混じり、より不気味さを増す百足がウネウネと再び動き始めた。