199.渓谷奥地
雪の中を列を成して進む。スキルの熟練度のおかげか、装備の補正のおかげか、今までとは比べ物にならない程雪道が歩きやすい。それにしても軽すぎて不安だ……。
クラーヴンさんの腕を疑う訳ではないが、こんな軽い装備で本当に大丈夫だろうか?
初心者服よりは重いが、ここ最近戦闘できてたずしっと来る感じが、全くない。
もしかして力を入れた瞬間鎧が瓦解しないだろうか?つい恐る恐る動き、時折鳴る金属の軋む音で、鎧が壊れたんじゃないかと確認してしまう。
「さっきから何をそんな鎧の確認してるんだ?」
と久しぶりのチャーニンにも気がつかれる程、ナーバスになっているようだ。
「いや、装備を新調したんだけど、軽すぎて壊れそうなもんだから」
「え?そんな丈夫そうな鎧がそう簡単に壊れる訳ないじゃない?何変な事言ってるの?」
とスルージャは自分に気を使って言ってくれるし、余り気にしすぎるのも良くないな。壊れたらクラーヴンさんに直して貰えばいいんだし、使い潰せっていわれてるんだから、寧ろ壊す気でいかなきゃ!
久しぶりに魔物討伐隊が揃い、レギオン戦に向かう道中だが、今回は比較的近い。
場所は渓谷の街の更に先、川沿いをひたすら川上へと進むのみ。
なんでもかつて隊長がレギオンボスを倒した場所の近くらしく、隊長が近隣の邪神の尖兵を倒すまで、倒してからも少しの間瘴気で入れなかった場所にレギオンボスが発生してしまったというのが、今回の討伐の概要だ。
渓谷の街から絶妙に近いとも遠いともいえない距離の為、討伐隊を頼むかどうか迷っていた所に、丁度自分達がレギオンボス討伐隊として活動していることを知って、渡りに船と依頼してきたとか。
渓谷の街から出てどれ位経ったろうか?全く人通りのないのであろう真っ白な雪道をひたすら歩き続けると、大穴が一個空いているのが見つかった。
話に聞いていた場所だと、大穴を回りこみ、大穴裏手の小山を登っていく。
渓谷は両側を崖の様な壁に挟まれ圧迫感があったが、小山を上ると一気に視界が開け、今度は逆に何もないのが寂しく、世界が全て雪に埋もれてしまったかのような錯覚を覚える。
特に自分にそんな感想を抱かせたのは、ただ真っ白でなだらかな雪原に、立派な角の鹿が悠然と立っていたからだろう。
少し傾き始めた陽が、逆光になって妙に真っ黒く見える鹿の足元には、大きな百足?が踏み潰され横倒しになっている。
草食の鹿が百足を食べるとも思えないが、近づいていくと鹿が走り去ってしまう。
代わりに残された百足が鎌首を持ち上げるが、やたらとデカイ!
風精とは違うもっと毒々しい緑の混じった黒い体の大百足は、全身の足をキシキシと動かしてこちらを威嚇してくる。
こいつがレギオンボスかと、ちょっとどころじゃなく気持ち悪いなと思いつつ、だからこそ人里に向わせちゃいけないなと、覚悟を決めつつ中隊を横隊で展開していく。
「多分コイツ毒を使いますので【衛生兵】隊は少し下げ気味で展開しますが大丈夫ですか?」
【衛生兵長】ミールから提案があったが、これは勿論としか答えようがない。何しろ敵が毒使いならこちらの肝はいかに回復しつつ戦うかという事だ。
「ミールの言う通り、多分コイツは毒使いだから総員必ず【衛生兵】は守りましょう。それが己の身を守る事になるし、生きて帰ることに繋がる筈です。では『行きます!』」
戦陣術 激励
中隊の士気が高まり、そこはかとなく皆気持ちが高ぶっているようにも見える。
こうして最前列に【重装兵】を最後方に【衛生兵】を配して、ジワジワと百足と距離を詰め、百足が体を大きく仰け反らせるのを確認すると同時に、
戦陣術 壁陣
先頭の【重装兵】隊の防御力を高め、盾を並べて体を固めた。
次にくるのは衝撃ではなく、ヌルッとしたただ不快な感覚。横を見ると気持ち悪い緑のエフェクトに調子が悪くなったらしい【重装兵】たちが次々と足から力が抜けたように座り込んでいく。
「ソタロー!一旦【歩兵隊】が出るぞ!」
言いながら既に部隊を率いて百足を取り囲むチャーニンと【歩兵】隊に、
戦陣術 戦線維持
防御術をかけつつ、自分の状態を確認。運のいい事に自分は状態異常に掛からなかったので、直ぐに【歩兵】に混じって百足に攻撃を仕掛ける。
「【重装兵】隊は【衛生兵】に任せる!とりあえず他の隊で押し込んで、コイツを突き放します!」
建物の様にデカくて太い百足の正面に立ち、触れる距離まで真っ直ぐ詰め、挨拶代わりの、
武技 撃突
武技 盾撃
ぶちかましの二連撃。でかいのは虚仮脅しか?たった一人の攻撃でよろめく百足に追撃を加えていく。
壊剣術 天荒
壊剣術 天崩
巨大化した剣で胴体を思い切りぶん殴れば、今度こそ大きく後ろに下がる百足が、実体よりも小さく見える?
「ほら!ソタロー隊長に任せてないで【弓兵】隊!全員対象大百足!狙って!」
自分が攻撃している間、何故か静かだった中隊にクラークの檄が飛ぶ!
戦陣術 斉射
クラークの戦陣術で一斉に矢が飛び、百足をハリネズミにして、いよいよ本格的に百足が暴れ始める。