番外.ソタロー[現実]
これはゲーム外の話になります。20話の時点でソタローの人物像がぼやっとしてたので、番外として書かせていただきました。
ただ、あくまでゲーム内の話だけが読みたいと言う方は飛ばしていただいても進行上問題ない閑話です。
昔から、夢や目標を聞かれるのが嫌い。
親や先生にそれを聞かれる度に、自分は空っぽで無価値な人間だと確認させられるから。
ただ生きてるだけって言うのは自分の事なのだろう。
誰もが感心するような立派な夢を持つ人は凄い。
欲望丸出しでも真っ直ぐなりたい自分を追いかける人は輝いてる。
そして、同級生にだってそう言う人はいっぱいいるし、自分はただ取り残されてきた。
そんな自分から目を背けたいだけなのか、昔から夢を追いかけて大舞台を目指す人が好きだ。
スポーツ、芸能、社長、政治家。
人によってはいい印象が無いかもしれないけど、自分にとっては憧れだ。
そんな自分が今一番応援しているのは、アイドル。
それもテレビで見るような人達じゃない。
ライブハウスで毎日の様にライブして、ファンを一人でも増やそうと頑張ってる自分とそんなに歳の変わらない人達。
夢を追いかける人は数多いれども、直接会って話せる場所にいるからこそ近くで応援したい。
それが、世の大人の商売であり、仕掛けなのも分かってはいるけど、でもアイドル達が本気なのも事実だと思う。
じゃなきゃ、昼にライブしてレッスン行って、稼げないからバイトして……なんて生活もたないじゃない?
いつもならゲームをしてる時間、今日はちょっとだけ深夜におしてしまう。
なぜなら、推しのグループメンバーの生誕ライブだから。推しの生誕ではなくともライブアイドルヲタク世界は助け合いの精神なので!
「よっ!ソタロー!久しぶりじゃん?TLに流れてきたけど、あのゲームやってるんだって?」
「あっ!そーしさんじゃないですか!そうなんですよ。最近はじめまして……」
「へー、あれなんかすげー高いよな!ヲタク金が無いから俺は買えねぇな。まあでもちゃんと生誕来るんだから律儀だなソタローは」
「まあ、偶には推しに会っておかないと認知切れちゃいますから。ははっ」
「大丈夫だろ。流石にそれはねぇよ。うちの規模で認知切れてたら記憶障害レベルだろ」
そんなこんなファン同士の他愛も無い話、ちなみにそーしさんが何歳かは知らないが多分15くらいは上だろう。
しかし、ファン同士年齢も出自も仕事も関係ないのがヲタク仲間の世界。なんならお互いSNSでの繋がりなので本名すら知らない。
「そう言えばよ。久しぶりに団長が来るらしいぜ?」
「え?噂は聞いた事ありますけど、何かあったんですかね?」
「いやいや、あいつは超気分屋だから、あっちこっちふらついてるタイプのヲタクなのよ。でもまあなんだかんだ界隈は盛り上がってるな」
「そんな凄い人なんですか?」
「いや、全然。知ってると思うけどうちの界隈ってのは大きく分けて4勢力。古参、ファミリー、無所属、そして軍団」
「そうですね。でも軍団の人って自分からそう名乗るわけじゃないし、やたら大人しい人が多いじゃないですか」
「そそ、何しろファミリーの連中が盛り上げ役な訳だけど、しょっちゅうハメはずして注意受けるだろ?だから大人しいけど真面目にヲタ活してる軍団の連中がブレーキになるわけだ」
「ああ、そう言うことなんですか。でも何でまた軍団なんて……」
「ああ、それな……、おっ噂をすれば来たぞ。団長」
ライブハウスの階段を降りてきたのは、中肉中背の……、
「カタギじゃない?」
「いやいやいや、大丈夫だから!ファッションが独特だけど大人しい普通の人だから!」
「おっ!こんばんは、そーしさん。推しの生誕なのにまだこんな所うろついてるんですか?」
「ああ、手伝ってくれた連中に挨拶回りと、一斉点灯用のサイリウム配布でな」
「推してくれるファンが最前いなかったら、悲しみますよ。そろそろフロア行った方がいいんじゃないですか?サイリウムは自分が配っときますから」
「あっじゃあ自分も手伝います。団長さんですよね?」
「ん?はじめまして。別に自分でそう名乗ったわけじゃないんだけどね。まあいいや手分けして配っちゃうか」
「悪いな。先にフロアの方行ってるわ」
そしてつつがなく、サイリウムを配り終え、ライブが始まる。
最後まで生誕準備を手伝ってた自分達は最後方、まあでも助け合いだから、大体こんなものだ。
「お疲れ」
そう言いながらPAブース前の柱に寄りかかってお酒を飲む団長。なんか慣れた雰囲気から、この人はいつも後方ポジションなんだろうなと察する。
通称後方彼氏面、まあ団長はお酒を飲みながらライブを見たいタイプなんだろうから、騒がず暴れずの最後方が合うのだろう。
ライブ中に失礼だが、ちょっと聞いてみたい事があるので曲の合間合間にちょっと話しかけてみる。
「あの団長さんて、何で団長なんですか?」
「分かんない。なんならちょっと来てない内にそう呼ばれてたから、何がなんだか」
「そうですか、団長さんは色々行ってるって聞きましたけど、何であえてこのグループに?正直規模も小さいし……」
「ん~分かんない。ただファンはまだ少ないけど、皆楽しそうだからかな?ソタロー君だっけ?何でこのグループに?推しが居るから?」
「そうですね。推しは夢をはっきり言ってて、そのために頑張ってるのが分かるから」
「夢を追いかける人を応援したいのか~。ソタロー君も何か夢を追いかけてるの?」
「いや、寧ろ何も無いんで……、憧れると言うか……」
「ふーん、ソタロー君は優しいね。自分に無い物を持ってる人がいたら普通は嫉妬するもんだと思うけど」
「そうですかね?夢が無いから他人に便乗してるだけじゃないかと、思ったりするんですけど」
「どうだろう?必ずしも夢や目標がなくちゃいけない事も無いと思うけど?自分も昔は何したらいいか分からなくて焦ってたかもしれないけど、結局は夢持ってるより優しい方がいいと思うよ」
「夢持ってるよりって?」
「ああ、夢を追いかけてるから悪いって訳じゃないけど、結局は人を押しのけたり、自分や人に厳しくなっちゃうじゃん?それよりも優しい人の方が周囲に人が集まってくると思うよ」
「そんなものですかね?」
「あっ曲終わったね。帰るわ」
「え?この後特典会あるし、メンバーと話した方がいいんじゃ?」
「いや、お腹へったから飯食って帰る」
「え~……」
一顧だにせず、さっさと帰ってしまう団長。フロアはまだライブの熱で浮かされている。
「あれ!!!団長と一緒にいたんじゃないのか?」
「なんかお腹減ったから帰るって」
「お~い!一瞬じゃねぇか。終わって照明が点いた時にはいなかったぞ?だからあいつは忍者って呼ばれるんだ!」
「え?団長って、忍者とも呼ばれてるんだ……」
内容については詳しい名称を省く、もしくは名前だけ変えさせていただきましたが、
作者の経験に基づく話です。