2.ガンモ
それはこのゲームを始めてプレイした日。
ただ白い空間で自分のアバターを作成し、スタート地点を【帝国】に決定する。
すると、気づいた瞬間には雪に埋もれる広場に立っていた。
上を見上げれば無限に降り続ける雪、広場の中央には竜の彫像が一体鎮座しているが、その竜は所謂西洋竜のようだ。
大きな羽の生えた恐竜のような姿だが、その造形から何となく神聖な物だと感じられる。
思わず、雪に埋もれた景色に見入っていると、
「はっくしょん!!」
すぐにその声の方を振り向けば、
「悪い悪い。折角の雰囲気台無しにしちまったな。ちょっと寒いって感じたら、ついさ」
「いや、別にいいけど、初心者の人ですか?」
「そうだぜ。あんたもだろう?服が一緒だもんな」
とまあ、初めて会う同期のプレイヤーとそんな風情も何にもない出会いをしてしまった。
偶然同じタイミングでこのゲームを始めた事で縁の出来た相手はガンモと名乗り、
未だにお使いクエストを続ける自分に、今日も声を掛けてくれた。
「ガンモ!なんかまた装備少し変わった?」
「ああ、そりゃな。少しでも沢山戦って、金貯めて、いい装備に更新しないとな」
「相変わらずだね。そんなに強くなる事に拘ってるのに、自分に関わってていいの?」
「何言ってんだよ。同じタイミングでゲーム始めた仲間だろ!一緒に狩りを楽しもうぜ」
こんな事をいうガンモは【狩人】のジョブに就いて、魔物狩りを中心にしているプレイヤーであり、
<解体>って言うスキルがあると魔物から素材を剥ぎ取れるので、その素材を売ってお金を稼いでいる。
その額はお使いクエストばかりやっている自分とは雲泥の差で、装備の更新も早い。
偶にちょっと羨ましくもなるが、新しい装備が欲しいっていう欲が生まれてくる事が、ゲームを続けるモチベーションにもなっている。
さて、折角こうして同期が誘ってくれてるんだし、何より自分自身狩りにはちょっと興味があるので、
「兵長、外に魔物狩りをしに行きたいので、装備の貸し出しをお願いしたいのですが?」
「外の魔物は危険だぞ?お前のような【新兵】では手に負えない相手がほとんどだろう。慎重にな」
【兵士】の拠点である【兵舎】の受付はスキンヘッドのいかついおじさんで、その名も兵長という。
どういう役職なのかいまいち良く分からないが、クエストの割り振りや新スキルの取得、装備の貸し出し等で、しょっちゅう話す相手だ。
NPCって言ってもこのゲームは妙にリアルで、一瞬プレイヤーと勘違いする事がある。
そういう時は相手の左手の甲を見れば、現実の時間が表示されているマークがあるかないかで、相手がプレイヤーなのかNPCなのか判断できる。
ちなみにプレイヤーはニューター、ヒト型のNPCはヒュムって言うらしい。似た姿の別種族でNPCには他の種族があるんだとか。
そんなこんな最低限の借り物装備で、ガンモと出掛ける。
装備の質は月とすっぽんだが、お金が無いので仕方ない。寧ろ宿代食事代装備代がタダなので【兵士】で良かったなと。
自分がいるのは【帝国】の出発地点【古都】って言う都で、その都を南に出れば大河が見える。
出る時にも門番から、
「外は魔物が出るから十分気をつけろ。特にお前のような【新兵】ではすぐにやられてしまうから十分に【訓練】を積めよ」
と注意されるが、NPCの定型語句みたいなものだろう。
しかし、実際今の自分が戦えるのは近隣最弱の魔物、通称河鼠という
カピバラより更に小さい、ヌートリアにしか見えないげっ歯類。
河辺にいると水の中から出てきて襲いかかってくる白いヌートリアを今日も狩る。
<察知>を駆使して、どこから上がってくるのか見極めて、先制攻撃をしかけていく。
剣で思い切り河鼠の頭を叩き、キュウゥゥと一声鳴くヌートリアに罪悪感を覚えるが、怒ったヌートリアに足首を齧られて、ゴリゴリと生命力が削られていく。
ダメージ量は全然可愛くない!一瞬で今の自分には強敵だと再認識させられて、
上から首を狙って剣を首に突き込み、こちらもゴリゴリと生命力を削り返す。
生命力の総量差で何とか勝ち、急いで走って河辺から離れつつ回復する。
回復手段は支給の包帯を巻くだけ。足首を齧られたけど、巻く場所はどこでも構わない、それで生命力は回復可能。
ただダメージを貰った部位毎の蓄積ダメージって言うのもあるらしいので、念のため足首に巻いておく。
ガンモが<解体>してくれて〔雪河鼠の毛皮〕と〔雪河鼠の歯〕を採取し、何も言わず両方とも自分にくれる。
「なんか相変わらず、最弱の魔物相手に不器用な戦い方だよな。やっぱり槍か鈍器にしたらどうだ?」
「まあ、そうなんだけど最初に剣にしちゃったし……」
「剣は現実の方で使ってる奴がレイピア使ったり、術と組み合わせたり、鈍器と変わらないような大剣でも無いとダメージ乗せる事すらきついって話だぜ?」
「まあ、噛みつかれてる間に体重乗せて刺す事はできるから」
「それなら、離れた位置から刺せる槍ならノーダメージだぞ?」
そんな事を言うガンモも確かに槍使いだし、自分よりよっぽど上手く魔物を狩る。
「やっぱり剣なんだから、もっと上手く斬れる様にならないと駄目なのかな?」
「それなら、盾でも使ってみたらどうだ?ソタローって片手剣じゃん。盾で攻撃受けて剣で攻撃すればダメージもいくらかマシなんじゃないか?」
「あんな小さい相手に盾でどうやって防御しよう?」
「逆にもう小さい方は倒せるんだからもう一回り大きい方に挑戦しようぜ!」
一応その日は、小さい鼠を回復を挟みつつ狩れるだけ狩って、終了。
未だに最弱魔物を狩ってる自分に付き合ってくれるガンモはいいやつだな。