195.青ペンションとお別れの日
まずは薄めにニンニクをスライス。海老は殻をむいて背わたをとる。
フライパンにオリーブオイルをひき、ニンニクと塩を加えて熱していくと、ニンニクの元気になる匂いがたってくる。
そこに海老とマッシュルーム?の様なきのこを入れてオイル煮していく。オイルが透き通ってきたら完成!
まずは簡単に一品完成したので、お酒組みはこれをつまみに飲んでもらおう。
お次は、さっき大量に殻剥きした海老の中から程よいサイズのやつを選んで、塩もみしておく。
溶き卵をフライパンでスクランブルエッグにして一回ボールに取り出してっと!そのフライパンで海老と長ネギを炒め炒め物用の赤い瓶の調味料を加える。
いい感じに火が通ったら、卵を戻して混ぜれば出来上がり!これはビネガーが合うかな~。
さて、最後は炭水化物だが、パスタは飽きたからパンにしておくか。最初のオイル煮つけながら食べれば、お腹に溜まりそうだし。
「今日のところはこんな感じですかね。何だかんだこの青い部屋とかにも慣れて居心地良かったんですけどね」
「だな。ここを抑えておいてくれたアンデルセンには感謝しないとな。あとこのオイル煮中々濃い味で俺好みだな」とクラーヴンさん。
「いいって!ソタローが優勝したおかげで、こうしてたんまり儲けたんだし、プラスしか生まれてないんだからよ!ちなみにこの海老玉子は簡単そうで、間違いない味だな」とアンデルセンさん。
「確かにのんびりするならこういう環境がいいですね。日頃ストレスを抱えてる人がゲームの中でストレス解消するには持って来いなんじゃないですか?僕はこのパンがどこから出てきたのか気になりますね。この辺じゃ売ってないものですし」と剣聖の弟子。
「パンだけはちょっとポータルで【古都】に戻ってパン職人志望の【兵士】から買ってきました」
会場の前には待っていなかったが、こうしてペンションの方に直接訪ねてきた剣聖の弟子と、とりあえずご飯を食べながらのんびり話そうという事で、今日のメニューはこんな感じ。
正直海老もちょっと飽きてきていたが、また【帝国】に戻る事を考えれば最終日は海老締めだろう。
「それで、会場ではすぐに帰ってしまったのに、何かありましたか?」
「いえ、負けてすぐは反省や見直しをしたいので一旦帰りましたが、やはり何度考えてもソタローはかなり有望と思えたので一応面識を持っておこうかと思いまして」
「有望ですか?」
「ええ、試合の時も言いましたが、いずれ何のルールもないPKで勝負しましょう。全力装備にアイテムの使用も周囲の環境も好きに使っていい状況で、です。本来僕のやりたい勝負はそういうものですので」
「分りました。もっと強くなって剣聖の弟子の土俵でも戦えるように頑張ります」
「うん、いいじゃねぇか!ちなみにこの中で近接戦闘専門の剣聖の弟子からソタローにアドバイスは何かあるのか?正直俺レベルだと十分出来すぎててよく分らなかったんだが?」
「アンデルセンは術士ですから仕方ないですね。アドバイスですかそうですね……スタイルとしてはかなり完成してると思いますよ。盾と剣双方に術を通して、防御は十分。それ以外で受けても堅い。攻撃力も素の状態でかなり高い。重装備とは思えないスピードで振り回されれば誰でも圧迫感を感じるでしょう。バフの種類が多く、小技も効いてる。小回り用に蹴りもあると……。<察知>系のスキルで視界外のにも対応してたし、しかもあれだけ見えてるとなると<戦形>も使いこなしてますよね。完璧です言う事ありません」
「まあ、剣聖の弟子がこう言うんだから本当に穴はないのかもな?装備面では今回の経験も踏まえて、そろそろ本腰を入れるつもりだし、隊長に追いついたんじゃないか?」
「いや……急にそんな事言われても……実感がないです」
「なるほど、ソタローは集団戦では隊長に継ぐと聞いていましたが、隊長越えを目指しているなら、足りてない物があります。意外性です」
「意外性?ですか?」
「そうです。相手は何をやってくるか分からない邪道の塊ですからね。ブロックと急所攻撃の硬直ハメをベースに氷精系剣術を基本として、<掴み>系の術やら謎の多い装備品の数々と、何をしてくるのか分らない怖さがありますよ」
「でも意外性ってどうやって手に入れるものなんです?」
「さあ?変な人だから変なものが集まってくるのかもしれないですし、きっとただ戦闘を繰り返してるだけでは手に入らないものなのかもしれないですね」
「あ~確かにソタローは俺達より一年遅れて既にその強さだし、相当根詰めて戦闘を繰り返してきたんだもんな」
「いえ、別に普通ですけど?」
「ソタローは何だかんだひたすら強敵に向かい続けてたろ。そういうのは普通とは言わないんじゃないか?」
確かに自分はこのゲームを始めてからクエストと戦闘を繰り返してきたけど、普通ゲームってそういうものじゃないの?そもそも隊長がクエストばっかりやってたって言うから、クエストやってきたのに、今更意外性って……。
「まあなんだ、優勝賞品のカタログでも見ながら、何か面白そうなもの探してみろよ」
という訳で、ペンション最後の日は終了。現実とは時間帯の違うゲームの朝が来れば、チェックアウトして【帝国】に帰還だ。