194.イベント決勝戦
[ソタローVS剣聖の弟子 Fight!]
決勝だろうと容赦なくすんなり始まるイベント。ペンションを出る前にアンデルセンさんに頑張れよ~と声こそかけられたが、本当にそれだけだ。
まあ上級者が既に燃え尽きてて、更に追いかける人達も装備が不十分とくれば、盛り上がらないのも仕方がない。
周年イベントが出来なかったが、一応定期イベントはやっておこうという程度のモチベーションなんだろうか?
自分にとっては本戦から使い手達と戦えて面白かったが、見る人達にとってはちょっと歯ごたえが足りないかもしれない。
それこそいっそ、決闘王の時のヒーローショー的な方がイベントっぽかったのかもな。
「考え事は終わりましたか?」
「ええ、まあ、ちょっと地味なイベントだったなって」
「そうですね。まあでもこんな物でしょう。はじめは魔物討伐、二回目が料理大会、三回目が集団戦、四回目が鍛冶大会、五回目が楽しいサバイバル、六回目が金銀銅魔物討伐、7回目がこの武具武闘会。並べてみるとバランスは悪くないですよ?」
「言われてみれば、こんな物かもしれないですね。自分としては相応の手練と戦えたので実りもあったし、別に不満もないんですけどね」
「それなら良かった、期待してますよ」
言うが早いか、視界から消えた剣聖の弟子だが、大体一発目は後ろ!
壊剣術 天荒
振り向きざまの薙ぎ払いが剣聖の弟子の日本刀とぶつかり合う。
勘で振っただけなので、角度は悪いが筋力で強引に押し込む。対する剣聖の弟子は軽く膝を曲げ、体勢を直す事で力を受け流し、するっと距離を取り直した。
殴盾術 獅子打
ここからは重剣と中盾両方共に術を使用したままだ。精神力の消費に少し焦れるが仕方ない。
「ふむ、そうですね。物理型の君にあまり精神力消費の負担をかけても申し訳ないし、一気に行きますよ」
言うが早いか消え、盾裏にシルエットが見えたと思った瞬間には、黒いエフェクトの載った日本刀で左足を斬らる。
思わず体勢を崩すが何とか強引に踏み止まり、盾を振り回した時には既に消えた後、背後から腰を打たれた。
すぐさま重剣で薙ぎ払い振り返るが、またいない。
スキルで気配に集中し……上!盾ですぐに頭を庇い、白いエフェクトの術を防ぐ。
一帯に白いエフェクトが広がるが冷たくないって事は精霊術とはまた違った物なのか?
そんな事を考えている内に上からの圧力が消えたので重剣を振り剣聖の弟子を斬ると、鞘で柔らかく受けられ、寧ろ反動を利用して離れたい場所に降り立つ。
壊剣術 天崩
すぐさま剣を巨大化し斬りつけるが、また消える。
盾で裏拳!と思えば微妙にいやらしい離れた間合いで剣を抜いて切っ先をこちらに向ける様に構え、そのまま緑のエフェクトを纏った突き。
盾は振りぬいてしまっているので、剣で受けるも体重差があるとは思えない重い攻撃を無理やり筋力で耐えると、鎧が内側からはちきれそうな程、力が入る。
術の撃ち終わりを盾で殴りつけるが、逆手に持った刀の鞘に黄色いエフェクトを纏わせて殴り返され相殺される。
そのまま日本刀で斬り上げてきたところを脛当で<防御>しながら、自分は胴体を突き返す。
するとまた消え、背後上空に移動したので、振り返れば鳥のようなエフェクトが飛んできたので、
殴盾術 獅子反射
ただ、獅子のエフェクトは真っ直ぐ飛ぶので、既に剣聖の弟子は着陸している。
「いいでしょう。その重装備でその反応速度かなりの物ですよ。強敵用にシフトします。ここからは重装備の追いつけるモノではないですが、あなたなら何かあるかもしれません。あがいてください」
消えた。
「グフッ!」
振りかえれば、鎧の隙間を正確に突かれ大ダメージを貰っている。
重剣を振り回した時にはもういない。また背後かとすぐに振り向きながら盾を構えるが何もない?
正面で日本刀をいつでも抜けるように構えているだけ、じゃあ自分は……
殴盾術 獅子追
盾を構えたまま突っ込むと、また消える。
重剣でとりあえず自分の回りを薙ぐと、構えて待っているので、重剣を振り下ろす。
黒いエフェクトの日本刀で攻撃を受け止められお互い弾かれあったが、剣聖の弟子はその勢いを利用して、逆手に持った鞘で胴を抉ってくる。
負けじと盾を振り回すが、また消えた。
そして、背中を斬られ振り返ろうとする間に頭を叩かれ、腕を斬られ、盾の上から打たれる。
白い剣閃がエフェクトとして自分の周りに幾つも発生するって事は、連撃か?
鋼鎧術 耐守鎧
これは狙って受けられるものではないと、体を小さくし、剣と盾で急所を隠す。
攻撃はどんどん加速し、バチバチと全身を叩かれまくる。でも金属部にさえ当っていれば師匠の術がちゃんと守ってくれる。
一瞬盾裏で剣聖の弟子が溜めている姿が見え、目を凝らしていれば真っ直ぐ突いてくる?
反射で中盾に込める精神力を高め、思い切り殴り返す。
結果的には吹き飛ばされ地面を転がり、全身を打ちつけたがそれでも立ち上がる。
剣聖の弟子の方を見ると、向こうもどうやら激突で飛ばされていた。ゆっくりと片手で体を支えて立ちあがると、
「はっ……はっはっは!あ~凄いな~最後の決めうちを狙ってカウンターか~!じゃあ次はもっと早いですよ」
「じゃあ、ちょっと待った!」
「いいですよ」
待ったで待ってくれる人みたいなので、剣を地面に突き刺し盾を一緒にその場に置く。
小首をかしげる剣聖の弟子を横目に、
壊剣術 天沼
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 空流鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 灰塗鎧
「準備できました」
「へ~それだけ一気にバフを重ね掛けできるなんて、いい師につきましたね」
スピード重視でどこまで出来るか分からないが、これ以上早い攻撃に盾や重剣で追いつくとも思えないし、やるしかない。
剣聖の弟子が消えたのに合わせて、裏拳を適当に振り回す。
カチン……金属の触れ合う音と同時に鎧の上からでも大ダメージと分る術エフェクトの乗った袈裟切りを貰う。
「ガッ……!」
「自分の 灰塗鎧 は当った武器の重量を増します。まだ熟練度がそれほどじゃないですけど、自分の体重の十分の一の重さはどうですか?」
剣聖の弟子は日本刀を取り落とし、拾い上げる事も出来ない。今更ながら自分の体重は一体何キロなんだ?
剣聖の弟子は日本刀を諦め、鞘を両手で正眼に構える。
「ふ、ふふこの術は初めて見ました。鞘とは言え僕に両手で構えさせる人は数えるほどしかいませんよ」
剣聖の弟子の圧が一気に増す。鞘から発するエフェクトがユラユラと高まっていき、緊張感で空気が張り詰める。
両手を開いてからの前に構え、ゆっくり息を吐いて待つ。
どちらから動き出したとも分らないが、自分は上を見せてのローキック、剣聖の弟子は綺麗に真っ直ぐ振ってきた。
両腕で<防御>した筈が、そのまま押し込まれ頭を叩き潰され、そのまま目の前が真っ暗になる。
ローキックがあたったかどうかも分らない。ただプツンと電源を落とされたように、周りと遮断されてしまったが、
すぐに再起動。いつの間にか自分は空を見ていた。
「はぁ……やっぱり重装備なら<逆境>系のスキルを持っていましたか」
「自分の負けですか?」
「いえ、僕は武器を失いましたし、ここでギブアップしましょう。次は何のルールもない場所でどちらかが死に戻りするまでやりあいましょう」
そう言って、フィールドを降りてしまった。
どうやら優勝は自分って事らしい?
そのまま待機する様に言われて、待っていたらあれよあれよと言う間に会場が設置され、
「ソタロー!優勝おめでとう!その力を是非世界の為に役立ててくれ!」
自分の語彙力では提督としか表現できないような中世の政府側の一番偉い船乗りと言った風情のヒトから激励されたんだけど、どうしたらいいんだろう?
まあ優勝カップみたいなの渡されたし、素直に受け取って礼をしたら、事もなく終わった。
会場の表には剣聖の弟子は待っていなかったので、多分そういうタイプの人なんだろう。
それにしても、ちょっと疲れたな。ご飯何にしよう。