186.【海国】黄昏時
日が沈む瞬間、背中側は妙に暗く正面の海は赤い。グラデーションの紫の空に名前も分らない雲がたなびいている。
「向こうは落ち着いたみたいだぜ……って何黄昏てんだ?見学した予選で気になる相手でもいたか?」
「いや、別にそういうんじゃないですけど、そういえばクラーヴンさん詰めてたあの人達って結局どうなったんですか?」
「はは!聞いたらどうしようもない連中だったぜ。今回の支給素材ってのはマイナー素材ばかりだったが、もしそれを使える生産職と組めれば、勝てるんじゃないかって普段付き合いのある生産職の誘いを蹴った挙句、誰とも組めなくてあぶれたらしい」
「それはまた、義理も何もあったもんじゃないですね。そんな人達に贔屓のなんのと、よくクラーヴンさんも怒らなかったですね」
「まあクラーヴンも何だかんだ面倒見のいい奴だから、あぶれてる連中に同情の一つもあったんだろうさ。ま~今となっちゃああいうことで騒ぐ連中の方が悪いと思うが、一時は俺達も隊長に嫉妬してた事もあったからな。あまり俺も言えねぇよ」
「そうなんですか?全然そういう確執とか感じた事ないんですけど」
「隊長も頭ごなしに来られたらキレッ早い奴だが、それ以外は大らかな奴だからな。なんつーかこのゲームが始まった当初はβ組と現実の方で何かしらやってる奴が強かったのさ。そりゃそうだろ?完全自視点で本当の体を動かすように意識しなきゃならない。未だにこのゲームは難易度が高いって言われる所以だ。でも何かやってる奴が強いのは目標であって嫉妬にはなりえなかったんだが、隊長ってのは普通で現実じゃ何にもしてないって話でな。それで嵐の岬の精鋭を一蹴だぜ?そりゃ何かおかしいって思うだろ?」
「多分【訓練】とクエストですよね。クエストやらなきゃ信用されないし【訓練】しないといくら魔物だけ倒してても強くなれないですよ」
「そうなんだよ。ソタローなんかは当たり前だと思ってるんだろうが、はじめはそれが受け入れられなくてな~。なんなら未だに受け入れられない奴らが、クラーヴンを詰めた連中だよ」
「……事実を聞いても、無駄にしちゃった時間は戻ってこないからですか?」
「まあな。そう簡単に人は切り替えられるものじゃないからさ。何かもっといい方法があるんじゃないかって、偶然や奇跡に縋っちまうんだよな」
「自分だって、アンデルセンさんに最初助言してもらったから地道にクエスト続けられただけで、何も特別じゃないですよ」
「いや、俺は相当人数に声かけたが、最後まで残って続けたのはソタローだけだったぜ。他人を疑っちゃいけないわけじゃないが、信じるってのは難しい。そこまで強くなったのはソタローの才能だろうな」
「別に自分はいつも誰かに助けてもらってるだけだし、嫉妬とかなんとか言ってられないですよ。寧ろ皆なんでいつも手伝ってくれるのか不思議なくらいで」
「まあ、なんだ?自分が困ってるのにそれでも他人を優先するなんてのは、それこそ聖人の如きデキた人間だろうが、ある程度余裕のある人間なら、出来る範囲で手伝ってやろうなんてのは寧ろ気持ちのいい事さ。それを素直に受け取れる事だって人間がデキてるって事だと思うぜ?何よりちゃんと目標ややりたい事を明示する事さ!何がやりたいんだか分からないままトラブルに首つっ込んで、勝手に解決しちゃう奴をどうやって手伝えばいいんだ?」
「やっぱりアンデルセンさんって隊長と仲いいですよね。指名手配の件何とかしたいですか?」
「ん~微妙だな。なんかこの状況すら利用して見えないところでやりたい放題やりそうじゃんアイツ」
「否定できないですね。でも折角なんでこの間に隊長に追いつきたいですね」
「へ~、何か前は目標も何もないって言ってたのに、やりたい事があるんだな。じゃあ、まずは剣聖の弟子だな。あれも一種の天才だからな」
「そうなんですか?」
「ああ、アイツの場合空間把握能力か想像力なのか分らんが、瞬間移動を繰り返して混乱したりしないのは、移動先の映像を把握出来てるからだろうと思うんだよな。なにしろ単発の瞬間移動使いはいても、連続で使う奴なんて、いないからな」
「成る程、確かに連続しない光景がいきなり目の前にあって、ちゃんと正確に動けるかといわれたら、
ちょっと難しそうです」
「タイプは違えど、どちらも触れることすら難しい高速軽量タイプだし、重量タイプのソタローがどう戦うのか考えるにはいい相手だな」
「そうですね。でも本戦になれば敵は剣聖の弟子だけじゃないでしょうし、油断せずに頑張りますよ」
ちょっと話しているうちに日は沈み、辺りは真っ暗だ。スキルで多少暗くても問題なく歩けるといえど、今日のところは引き上げよう。