184.記念出場
「どうする?」
「続行でお願いします」
予選三戦目、特に休むほどの事もないので続行をお願いする。
次の相手は砂漠に住む人が着てそうな真っ白い民族衣装に身を包み、手には杖を構えている。
術士はちょっと厄介だ。何しろ防御力を抜く攻撃を使ってくるだろうから、こちらも術で応じなければならない。
純粋な術士と自分では多分切れる手札の数が違う。例えばアンデルセンさんと正面から術でやり合って、対応できる自信は全くない。つまりいかに自分の土俵である近接戦に持ち込むかの勝負となる。
相手と目が会った所で、試合開始。
杖を掲げエフェクトが集まる様子を盾裏から確認しつつ、どんどん距離を詰めていく。
杖に収束したエネルギーが放たれる瞬間に、
殴盾術 獅子反射
術を撥ね返し、獅子のエフェクトが術士を吹き飛ばして転がす。
正直な所、何の術を使ったのか全然分らなかった。何かが飛んできて盾にぶつかったのは確かなのだが、盾裏からだとシルエットだけなので、ビームにしか見えなかったのだ。
警戒しつつも間合いを詰めない事には勝ち目がないので、自分のできる最大速度で転がる相手を追う。
そして、そのまま場外に落っこちてしまう術士……。まだなんにもしてない!術を反射しただけで終わるなよ!!
思わず膝をつき落胆してしまったが、冷静になって周りの様子がおかしい事に気がつく。
自分の予選の相手達はそわそわ、きょろきょろしてるし、他所のグループまでこっちを見ているのは何でだ?
「つ、続けるか?」
「続行お願いします!!!」
予選四戦目!次の相手は日本刀使い!来た!剣聖の弟子との戦闘前に練習できる!
両手で正眼と言うのだろうか?こちらの眉間に切っ先を突きつけるような格好で構える相手に、自分は盾を目の前に掲げて盾裏から相手の動きを観察。
滑るような踏み込みから真っ直ぐ冑を狙って振り下ろしてきたので、盾で弾く。
日本刀を弾くと、そのまま両腕が上がり仰向けに海老反りになりながら三歩下がる敵の胸を思い切り重剣で突く。
物理の法則を無視するように真っ直ぐ吹き飛んだ相手を追い、着地した所を更に、
殴盾術 獅子打
盾の縁で顔面に追撃。そのままフラフラして動かない相手を
武技 撃突
肩でタックルして更に押し込むと、やっぱりあっさり場外に落っこちていく。
何か皆、適当にやってるのか?あれかな折角のイベントだから記念出場!まさか記念出場グループに入っちゃった?
「続行で、いいのかな?」
「続行でお願いします」
全くなんてこった。予選で少しでも他のプレイヤーと戦うのに慣れておこうと思ったのに……。
せめて予選最終戦位まともな相手でありますように!
最後は自分ほどじゃないが重装備に両手槌使いの登場で、自分のテンションとやる気が急激に高まる。
開始と同時にお互い間合いを詰めて、相手のフルスイング攻撃を盾で弾くように受け止めれば、盾を吹き飛ばされた。
「っしゃぁぁぁぁああ!」
この予選中最高の手応えに思わず声が出て、相手の追撃を喰らわない様に遮二無二、重剣を振るう。
壊剣術 天荒
相手が一歩引くごとに一歩押し込み、袈裟切り、薙ぎ払い、袈裟切り、逆袈裟!!!全ての振りを全開の入り身で振りぬき体勢が崩れたので、崩れた前傾姿勢のまま、
武技 撃突
冑が相手の胸部にぶつかり、吹き飛ばす。
転げた所を腿の防具の隙に重剣で串刺し、
壊剣術 天沼
地面に縫い付けて動きを封じ、すぐさま相手の手を狙い、
武技 踏殺
部位破壊が出ればいいなと局部を狙ったがどうだろうか?
ふと気がつくと、敵は両手に何も持ってない?
周囲を確認すると自分の後方に両手槌が落ちている。最初の激突で、自分の盾と同様吹っ飛んでしまっていたらしい。
つまり武器を持っていない相手に追撃ラッシュをかけていたわけで、足元を確認すると相手がギブアップしている。
やっとまともな相手かと思って、テンション上げすぎちゃった?
「予選五戦全勝で通過!」
自分の予選通過を告げられたが、虚しい。盾を拾ってトボトボ会場を後にする。
本当は予選を見学して本選の為に勉強しておいた方がよかったのだろうが、何か周りの視線が気持ち悪いし、剣聖の弟子も自分同様……自分より更に圧倒的にあっさり相手を一蹴して終わらせたようだ。
こんな事なら、コローナファミリアとの連戦の方が楽しかったし、ずっと冷や冷やした。
やっぱり生粋の【闘技場】プレイヤーってのは相応に強かったんだな~。
自分の周りは強い人ばかりで、エンジョイでやってる人のレベルを分ってなかったな。
でも流石に本選は出来る人ばかりだろうし、こんな調子じゃいけない。
己の体……ゲームのアバターだけど、それでも気合を入れ直すように、重装備のまま丘を一気に駆け上る。
ゲームにもかかわらず体力を消耗し、体が重くなってきてからが本番と、重剣で虚空を斬ってまだ見ぬ敵を殴り倒す。
全身の筋肉に血がめぐるのを感じ、調子が戻ってくる体に思わずニヤツキが止まらない。