183.武具武闘会初日
「さて、何とか完成だ!どうだ着心地は?」
アレから数日余裕を持って早目に現地に来ていたのに、装備が完成したのは当日だった。
何しろ改造する度に、アレが違うコレが違うとクラーヴンさんの改修が入るのだから仕方ない。
まず蛇腹型の複層装甲は腹部から腰にかけての一周のみとなったが、コレだけでも普段よりよっぽど体を屈め易いし、随分と楽だ。
弱点になるバイタルゾーン?は徹底的に守る必要があるとか言われ、首周りと冑のつなぎ部分と背骨周りそれに胸部に関してはガチガチになっているが、これは元々全身鎧の自分としては何の苦もない。
その上で、胸部の丸い鉄板横からはアバラ骨の様に太い鉄骨が這っているが、多少隙間があるのは廃熱の為、つまり温暖な気候に適応するのに隙間が必要だったらしい。気合で我慢は限度があると言われたので仕方なし。
上腕盾は維持されているが、内側はほぼ何もなしにすることで、脇が冷やされていくらかマシとは言うものの、腕と体の隙間を斬り上げられたら、ひとたまりもないので、コレに付いては要注意だ。
ただ脇締めの構えについては師匠から重装備の弱点として徹底的に習っているので、よっぽどの手練でなければ問題なかろう。
腿周りは腰部から垂れる何枚もの装甲板が守っているが、装甲板の隙間の風通しはいいので、そこれこそ真下から突き上げられるでもなければ、大丈夫だと思う。
篭手とグリーブに関してだが、全部金属だと取り回しが悪いので、手袋の上から前腕の外側を守る形の手甲とブーツの上から脛を守る脛当てとなった。そして膝当ては全部金属だとフィット感が悪いからと却下されてしまう憂き目にあう。
最後に冑だが和風の雰囲気はそのままながら、何層かに分けることで隙間を作って風が入るように工夫されている。そして念のためと顔も冑と一体型の面で覆われているが密着型じゃないので意外と涼しい。
とまあ、日頃全身を完全に金属で遮断している自分からするとかなりスカスカで不安のある防具となってしまったが、今回の環境とレギュレーションではこれが一杯一杯であろうと言うのがクラーヴンさんの見解なので、ありがたく使わせてもらう。
次に武器類だが、大幅に増量してもらう事となった。
何しろ防具が軽くてフワフワするので、何かしっくり来ない。にもかかわらず、重量装備であるからには軽量の人達程のスピードが出ない仕様となっている以上、扱いやすい手応えのある武器がいいと頼んだ結果、金属塊の様な盾と重剣が出来たのだが結構悪くない。
見た目だけ言えば、なんか特撮ヒーローの様なおもちゃ武器を振り回すファンタジーの人なんだけど、イベントだし目立って何ぼだろとの事で、見た目の事は諦めた。
兎にも角にもまずは予選に間に合わねば、始まらないという事でその装備のまま会場に向かったが、何だかんだ結構暑い。スカスカ装備にしてもらって良かったと、再度クラーヴンさんの腕に感謝しかない。
エントリーは既にクラーヴンさんと自分のコンビで成されているので、あとは闘技をするのみと思ったら、会場に組合せ表が張り出されていた。
自分はCリングで予選という事で向かうと、既に5人待っていたので直ぐにリングサイドにいる審判らしきヒトに挨拶する。
どうやら予選はリーグ戦で今いる6人総当り、つまり5戦した結果勝利数が一番多い人が勝ち上がりという事らしい。
戦闘に付いては一対一のシンプルな闘技、場外及びギブアップか死に戻り負けルールと自分にとっては分りやすいもので助かった。
早速ながら審判に呼び出され、予選一戦目の初っ端を戦う事になった。
対戦相手は、如何にも軽量装備で、武器は細くて手ごろな長さの海賊とかが持ってそうな刀使い。まさに剣だけ誂えて防具は適当の類なので、剣聖の弟子との練習にもってこいかと身構える。
予選だけあって数をこなさねばならない所為か、何を躊躇う間もな対戦開始。
始まるなり軽い足取りでリング上をフワフワと左右に飛び回る姿を目で追っていると、体を半回転させながら術エフェクトの乗った刀を振り込んでくる。
壊剣術 天荒
こちらも重剣に術を乗せて相手の剣を弾くと、あっさり背中を向ける敵に、
殴盾術 獅子打
分厚い金属塊の盾の一撃を食らわせると、あっさり吹っ飛び顔から地面にダイブする。
直ぐに立ち上がればいいものをなんかもたもたしているので、後ろからやはり金属塊の様な重剣で頭を叩き潰すと、それで勝負が終わってしまった。
うん、一言で言うなら筋力が足りない。攻撃と攻撃がぶつかって踏み止まれずに一方的にダメージを貰う様な相手なら、そりゃ勝てる。
「どうする、続行するか休憩するか?」
「続行します」
審判のヒトに尋ねられたのでもう一戦やってみる事にする。
次の相手は、やたら格好いい中華服に布の帽子?頭に被ってるから帽子だと思うけど、なんていう名称のものか分らない。そして武器は持たず素手だが、構えがそれはもう格好いい。
開始と同時に不思議な歩法で間合いに入ってきて横蹴りを繰り出してくるが、合わせるように相手の脛に自分の脛をぶつけると、相手の動きが止まった。
そのまま、思い切り重剣で頭をぶん殴れば昏倒し、完全に体から力が抜けて棒立ちになった所を更にぶん殴っている内に、倒してしまった。
なんとも歯ごたえのない対戦相手ばかりで、逆に不安になってきた。