182.武闘会場下見
「全く勘弁してくださいよ。ああやって何か変な人挑発するの」
「いや、俺は挑発なんかしてないぞ?ただ事実をそのまま伝えただけだ。あの程度でソタローに楯突こうってのが、おかしいだろ」
「別に楯突くも何も、自分は偉くもなんともないですよ?」
「何言ってんだ!じきに千人率いる事になる男だろ。多分プレイヤーの中では二人目、上級のプレイヤーは放っておかないぜ~」
どこまで本気だか分からないアンデルセンさんに困惑するが、よくよく考えたらイベントに上級プレイヤーが出てくるのは当たり前だし、やっぱり自分が勝てるとは思えないんだよな~。
そうこうしている内に武闘会場に辿り着き、どうやら今は開放されていて中に入ってもいい様なので、折角だからと見学させてもらう。
中にはいくつかのリングが設置してあり、同時に数試合こなす事が容易に想像できるが、試合中に隣の試合も見えるとか、緊張しそうだな。
周囲は観客席となっており、おおよそ【闘技場】と造りは変わらないので、その辺は慣れておいて良かったなと素直に胸をなでおろす。
リングは綺麗に石が並べられ動きやすそうだが、何か妙に石質が弱そうなのは何故だろうか?
リングを撫でて感じを確かめていると、
「君も出場するんですね」
急に後ろから声をかけられ振り返ると、色素の薄い茶色い髪をサラサラとなびかせる美少年だった。
「PKの人ですね。お久しぶりです」
「PKで間違いないですけど、他人からは剣聖の弟子と呼ばれる事が多いですよ。そうですか……戦闘スタイルは違えども、次期隊長ポジションの君と戦えるとは……参加してみるものですね」
紛れもない最強の一角の不敵な笑みに思わず背筋が凍る。何よりこの人は確実に強者だと直感が告げている。
「全力を尽くします。よろしく御手合わせお願いします」
「そう固くなる事ないですよ。寧ろリラックスして全力を出してもらった方が、ずっと楽しい事になりそうです」
それだけ言って立ち去る剣聖の弟子は、軽装に刀一本と非常にラフな格好だが、確か魔将戦の時もそんな感じだったはず?
つまり、刀さえ揃えばあとはどうとでも戦えるという事じゃなかろうか?あの消える移動攻撃にどうやって対応しようか?
そんな事を考えていると、他にも会場下見の人がぞろぞろと来たので、入れ替わりで表に出る事にする。
ちなみに自分が下見している間、アンデルセンさんはまた他のプレイヤーから声をかけられていた。
「どうした?何か緊張してるみたいだが?」
「剣聖の弟子に会いました。どうやら出場するらしくて、どうやって戦おうかと思って」
「うわ!まじか!あいつが出るとなると、荒れるな~この大会!あいつは基本弱い奴は興味ないから出ないと思ったんだがな~」
「魔将戦の時に見たんですけど、瞬間移動を多用する攻撃的プレイヤーじゃないですか?あんなの勝てる人ガイヤさん以外にいるんですか?」
「あとは隊長と鈍色の騎士位だろうな~」
「ああ、隊長ってあの人に勝てるんですね……」
「まあな。なんつうか、あの二人はライバル関係って感じなんだろうな?お互い結構気が合うみたいだけどよ」
「そうなんですか……、何にせよ負ける気でやったら勝てませんので、色々考えてみます」
「まあなんだ?あまり駆け引きとかは詳しくないけどよ。上級になれば成る程弱点を残すような事はないだろ?だから必勝法なんてないし、積み重ねた地力で上回るしかないんだから、あまり気負う必要ないと思うぜ?」
確かにアンデルセンさんの言う通りかもしれない。上級にもなって弱点を放置していてそこを突かれて負けましたなんていうのは、お話しにならない。
なんならそういう負けを乗り越えてこその上級だろう。ぱっと見防御弱そうだから一発当てられれば!とか思ってた自分が甘かった。
隊長があの軽装で一発も当てられず、やっと当てたと思ったら綺麗にブロックしてきて動けない所をボコボコにするあのハメパターンだ。
逆に自分の強みをもっと自覚して、そこを先鋭化する事でぶつけるしかないか?
自分が師匠達に習ってきた事といえば、筋肉?
スピードに筋肉で対応する方法か……。
「筋肉……」
「え?どうした?」
「あ!いや考え事です」
「そうか、それより何食う?クラーヴンにもお土産買って帰らないとあれだろ?」
「そうですね!この辺だと何が名産なんでしょう?やっぱり【海国】だと海鮮ですかね?」
「だな!貝と魚しかないぜ。ちなみにこの島だと海老の養殖が盛んだな」
「じゃあ、海老にしましょう!」
という事で、海老を売っている屋台を覗くが、ちょっと微妙なレベル。
「まあ料理系プレイヤーは数が少ないからな」
「じゃあ、海老を直接買って帰って料理しましょうか」
という事で、そそくさと人混みを避けて、海辺の養殖場直営市場へ向かい、海老を仕入れて帰る。
青いペンションに戻り、早速料理開始!
かなり大振りの海老だし、まずは塩焼きだなと一人2尾換算で6尾塩焼きにしていく。
あとはどうやら【海国】はパスタ文化らしいので、ニンニクトマトピーマン玉ねぎをみじん切りにして炒める。
同時に海老を塩茹でにしておいて、沸騰したら冷水につけて殻をむく。
炒めた野菜に海老の煮汁を投入、料理長の青い瓶でちょっと味付けして、適当に折って短くしたパスタを投入して茹でていく。
汁気が飛んだところで、さっき茹でた海老を乗せれば完成!海老パスタ!
作業中だったクラーヴンさんを呼んで、三人でのんびりご飯タイム。
まずはちゃんと美味しいご飯を食べなければ、勝てるものも勝てない。