181.武闘会場下見までの道のりで
装備してみると想像以上に軽い鎧に、逆に不安すら感じる。
そして重剣や中盾も同様に軽すぎる気がするのだが、本当に大丈夫だろうか?見た目の重厚さと重量がちぐはぐで、何となく調子が狂う。
「どうだ?ソタロー」
「何か軽すぎて気持ち悪いですね。鉄じゃない所為か知れませんけど、軽く不安を感じるままやる事になりそうです」
「……そうか?これまでの装備に重量はあわせてつもりだったんだがな?それで動きの方はどうだ?」
言われるがまま適当に動いてみると、凄く楽だ。
特に蛇腹に組まれた胴体防具の柔軟性は今までにない快適さで、蛇腹の隙間には妙に伸縮する不思議な金属が使われていて、隙もない。
「これは動きやすいですね!この折れ目の隙間を埋めている金属が柔らかいのに、隙間を埋めてくれて安心感もあるし、凄くいい感じです」
「そうか、物は試しにと柔金属を使ったのが、当ったか。だが気温調整の為には隙間作っておいた方がよかったかとも思ってるんだが……う~む」
クラーヴンさんが長考に入ったので、そっと鎧を脱いで置いておく。
そのまま一旦リビングに引き上げると、アンデルセンさんが何をするともなくくつろいでいたので、
「どうした?クラーヴンと装備のあわせ中だったんじゃないのか?」
「クラーヴンさんは長考に入りました」
「なるほどな。偶にある事だから放っておけばいいさ。じゃあちっと街中でも見て回るか?もしかしたらソタローの対戦相手になる奴もうろついてるかも知れないぜ」
「まだ対戦表も出てないのに、今からそんなバチバチしてたんじゃ身が持たないですよ」
「そりゃそうだ。まあ美味そうな物でも売ってたら、買って帰ろうぜ」
と言う事で、アンデルセンさんと連れ立ってお出かけ。
丘の上から海岸方面を見やると、結構傾斜の厳しい丘ながらずっと家がぽつぽつと立ち並び、麓近くに行くほど家の数は増えていく傾向にある。
今は海側から海風が吹き上げ気温の割りに涼しく、環境もそう悪くなさそうだ。
海岸沿いにあからさまに大きな建造物があるので、そこが会場だろうと見当をつけてそちら方向に延びる道を辿って、丘を下っていく。
「おっ!アンデルセン!お前も出る気になったのか?!」
急に見知らぬヒトに声をかけられ驚いたが、
「あ?俺は出ねーって言ったろうが」
「いやだって生産職連れてるじゃんか!」
「ちげーよ!こっちが出場者だっつーの!まあお前の方も頑張れよ!こいつが優勝すると思うけどよ」
「言ってろ!お前顔覚えたから武闘会じゃ覚悟しとけよ!」
言っている事は物騒だが終始にこやかだし、多分普段からこういうやり取りをする仲なのだろう。確かに今の自分は初心者服に普通の店売りの靴で、武器も持っていないので生産職に見えなくもない。
「顔覚えたって、魔将戦で中央張ってたソタローを知らないんじゃ、戦う事になっても気がつかないんじゃないか?あいつ」
アンデルセンさんの感想も容赦ないが、そうか魔将戦に参加していた人だったのか、自分も覚えてなかったのでおあいこだ。
その後も道を行けばアンデルセンさんの知り合いに話しかけられるのだが、この人は一体どれだけ顔が広いのか不思議でならない。
そして、この街のメインストリートと思われる広い通りに出ると、雑踏としか言いようのない人だかり。
NPCに混ざりプレイヤーも店を出しているようだが、やたら装備の店が多いのは何でだろうか?
あちらこちらで呼び込み合戦が繰り広げられ、何となく強そうな人は店の中に引き釣り込まれている。
ちなみに自分の周囲は無風。他人を避けながらおいしそうな物が売ってないか探す。
「何か凄い活気ですね」
「そりゃ久しぶりのイベントだからな。しかしどいつもこいつも見る目がねぇな。優勝候補の一角がこうして堂々と街を闊歩してるっつうのに」
「え?アンデルセンさんは出場しないんじゃ?」
「ちげーよ!お前だよソタロー!謙虚なのはいいが見る奴が見れば、すぐにお前の強さなんて見抜かれちまうぜ?術士の俺が分るんだからよ」
「いや~?自分は別に普通ですけど」
「そう言う所は隊長に似なくていいのにな~。じゃあ逆に今周辺にいる奴らで、強い奴ってどいつだ?」
言われて周囲を見回すが、正直な感想を言うと、
「いないですね」
「だろ?相手の装備や何かに惑わされず実力を見る目が合って、尚且つ強敵と感じる相手がいないって事は、そん所そこらのプレイヤーはソタローの敵じゃねぇって事さ」
「おうおう!聞こえたぞコラ!誰が大した事無いって?」
往来でこんな話しをしているから、あからさまにやばそうな巨漢に絡まれた。
「まあ、そう怒りなさんな。ただの世間話と今回の武闘会の下馬評をしてただけだろ?それより街中でそんな物騒な声出すなって、周りが見てるぞ?」
「うるせーよ!お前アレか?街中でのPKは紳士協定に違反するとか言ってる口か?俺はそんなの関係ないぜ?」
「あっそ……やっていいってさ。周りで見てる諸君も聞いたね!こいつやっちゃっていいってさ!」
最初こそ隊長と違って、落ち着かせようとしていたアンデルセンさんだが、結局この人も大概だ。
それで何故か巨漢は自分の前に立ち胸倉を掴んできたんだけど、関係なくない?
初心者服だから弱いと踏んだのかな?まあ、巨漢の割りに赤ん坊が小指を握る程度の力しかなさそうだけど。
「自分は街中で他人と争う気はありませんよ?」
「うるせー!この期に及んで日和ったか!」
困ったなと思っている内に拳を握りこんで大振りに顔面を殴ってきたが、猫パンチかなんか?
微動だにせずにいると、
「本当にそれくらいにしておいた方がいいぞ。こいつのスイッチ入ったら俺は止められんぞ。何でか知らんが好き好んで【兵士】やるような奴らは普段は温厚で細かい事気にしないが、殺るとなったら容赦云々関係なく、合理的に殺るからな。俺からの忠告は以上だ」
それでも、もう一度拳を振り上げる巨漢の首に手を掛ける。
自分のスキル構成では素手でダメージが入るものでもない筈なのに、急に顔面が真っ青になる巨漢。
そのままその場に崩れ落ち尻餅をついて怯え始めたので、放っておいて武闘会場にのんびり向かう。