180.武具武闘会へ移動
「ソタロー!武闘会行こうぜー!」
「アンデルセンさん!何で野球誘うみたいに、呼んでるんですか!」
「はっはっは!それはないぜアンデルセン」
「笑うなよ。兵が見ている」
そろそろ、武具武闘会日程が差し迫ってきた頃、アンデルセンさんとクラーヴンさんが連れ立って迎えに来てくれた。
しかし、よりによって【兵舎】受付で大きな声で呼ばなくてもいいのに、アンデルセンさんには困ったものだ。
「それじゃ兵長、行ってきます」
「おう、朗報を待ってるぜ」
「なんですか急に、大袈裟じゃないですか?闘技なんて何度もやってるのに」
「何言ってるんだ?大きな舞台に立つ隊長を見て【兵士】を志したんだろ?そのソタローが今度は大きな舞台に立つんだ。成長したな」
「周りは強い人ばかりですし、結果が伴うかは分りませんよ。でも頑張ります」
兵長に見送られポータルに向かい、今回の会場へ飛ぶ。
「うわ~、相変わらず【海国】は暑いですね」
「俺は初めて来たが、想像以上に熱いなこりゃ。早目に来て良かったかもしれないぜ」
「確かにいつも寒い所にいるとそう感じるかもしれないが、別に【砂国】とかに比べれば極端な気温でもないし、言う程じゃないだろ?」
「いや、絶対暑いですよ。ところで何で早目に来て正解だったんですか?」
「よく考えてみろよ。これからソタローは重装備で戦うんだぞ?この暑さの中」
「うわー……そりゃ確かに地獄だな。薄着前提で話しちまったが、全身金属鎧じゃきついぜ」
「でも、今更どうしようもないじゃないですか?暑かろうと耐えるしかないですよ。行軍だってひたすら我慢ですから、楽になる方法なんてないんで、文句言わずに黙って耐えるのが【兵士】の仕事です」
「随分染まったもんだな。だが調整のしようはあるから安心しろ。一応暑いとは聞いてたから、そのつもりではあったしな」
「こんな事もあろうかとってやつか!相変わらずだなクラーヴン!じゃあまずは宿に行ってチェックインだけしちまおうぜ。ちゃんと嵐の岬で予約しておいたからよ」
クラーヴンさんも、アンデルセンさんも抜け目なく、安心して武具武闘会に参加できそうだ。
周りのサポートが十分なんだから、あとは自分が不甲斐ない結果にならないよう全力を尽くすのみかな。
「そういえば、アンデルセンさんは今回のイベントは参加しないんですか?」
「そういや、生産職を誰も連れてないな」
「あ~術士はちっと不利そうな大会なんでパスした。やっぱり俺みたいな純粋術士は前衛がいないと辛いもんでな」
そんな事を話しつつ辿り着いた宿は、宿というよりペンションかな?
海の見える小高い丘に立った木造一軒家だが手入れは行き届いているし、観光だったら最高のロケーションじゃなかろうか?
「いらっしゃい!予約のアンデルセンさんご一行だね?工房付きの別棟の貸し出しで合ってるよね?」
玄関を開けて現れたのは、恰幅のいいおばちゃん。用件からサクッと入ってくるが、嫌な感じはなく。寧ろサバサバとした性格を思わせる管理人にますます好感を持てる。
「ああ、それで間違いない。世話になるぜ」
「「お世話になります」」
何故かクラーヴンさんと声がかぶってしまったが、知らないヒト相手だしそんなものか。
「そうかい!じゃあ別棟は向こうに見える青い建物だから好きに使いな。食事はこの本棟1階の食堂で朝晩二食。食べる時に声かけてくれればすぐ作るし、外で食べたかったら自由にして構わないよ。他のお客さんも周囲の別棟を借りるだろうけど、喧嘩はご法度だからね」
それだけ言うと鍵を渡して、本棟に戻っていった。
本棟の周りは確かにいくつかの一軒家が並んでると思ったが、全部別棟だったのか!どの建物も基本となるカラーがあるようで、自分達が借りたのは青の別棟という事なので、そのまま向かう。
青い2階建ての鍵を開けて入れば、中も青を基調としているが割りと落ち着いた雰囲気を醸し出している。
一階の造りはリビングと工房が半々って感じで、二階に部屋が三つあり、それぞれ自分の部屋を決めて腰を落ち着けた。
とは言え、これといってやる事もないので工房の方に降りていくと、すでにクラーヴンさんが工具を確認し始めている。
「さて、ソタロー!取り敢えず今回作ってきたツタン製鎧とプロン製重剣にプロン製中盾だ」
そう言って妙にピカピカした素材の鎧と逆にかなりくすんだ鉄色の剣と盾を取り出し並べるが、形状がかなり独特な気がしないでもない。
まず体に合うように作られたベース部分の上から、胸部だけ円形に装甲板が足されビス留めされている。しかし追加装甲以外は何層にもづらしながら重なった蛇腹になっていて、上半身を曲げたり回したりするにはかなり柔軟性が確保されているようにも見える。
更に肩当てが、上腕防具と完全一体となり腕に沿って上に伸び、首まで守られるように張り出していて、まるで両肩にも盾を装備しているように見えなくもない。
そして、特徴的なのが腰から下がる前垂れ?前だけじゃなくぐるっと腰周りを細長い装甲板が何枚も連なって垂れ下がり覆っているのだが、こういうの何ていうのだろうか?
最後に腕と脚は割りと細身の金属装甲でそこまで違和感はないのだが、冑が問題だ。頭部前面に丸い装飾と首元まで流れる様に張り出したシルエットになっている。
総合すると、和風甲冑のファンタジー版としか言いようがない。
更に剣と盾は、やたら分厚く一見おもちゃの様にも見えるが、このサイズの金属の固まりをおもちゃの様に振り回したら大変な事になるだろう。
「えっと、ありがとうございます」
「まあこの支給鎧下とグローブを着けてから、装備してみな」
言われるがまま、珍妙な和風甲冑のファンタジー風を試着する。