18.『突撃兎』ソロ狩り
「一回【古都】に戻ってもいいですかね?」
打ち上げの後そのまま一旦ログアウト。そして翌日再ログイン。
ここの所自分の拠点は北砦なので、一旦【古都】に戻る許可を取りたい。なんならちょっと戻るくらい何も言われないのかもしれないけど、念の為だ。
「かまわんぞ。ソタローは単独でも帰れるだろうが、もし何だったら【輸送】任務にくっついて行くか?安全にいくらかでも稼ぎがあるならその方がいいだろう?」
うん、あっさり許可が出た。
受付のおっさんに言われた通り、広場に向かうとソリと牛みたいな体の大きな生き物がのっそりと伏せている。
【帝国】で荷物を運ぶと言えばこれって言うスタイルだ。
何しろタイヤじゃ雪に取られて往生するのが目に見えてるので、多少ゆっくりでも雪に強くてパワーのある生き物にソリを牽かせるのがこの土地の常識であり日常。
そこには既に、スルージャとチャーニン、他に知らない二人が待っている。
しかし装備を見る限り【重装兵】【偵察兵】【歩兵】【弓兵】【衛生兵】が揃ってる。因みに自分以外はNPCだ。
「小隊指揮は誰がとるの?」
「なんか【古都】に戻るだけだったら、大丈夫だろうって事みたいですよ」
「そういうこった!難しい事考えずにちゃっちゃと行こうぜ」
と言う事なので、ソリの周りを囲むように護衛に付いて進む。
自分は重装備だし大概足が遅いのだが、牛みたいな生き物は同じくらいのスピードだし、のんびりと歩ける。
途中いつもの雪鳥蜥蜴や雪百足が現れるが、まあこのパーティなら何てことない、軽く倒してサクサク進む。
そして崖にかかる大橋に差し掛かったところで、聞きなれぬ鈍い音が、
ドンッ ズサー ドンッ ズサー
となんか質の違う音が繰り返し聞こえ、徐々にその音が近づいている?
振り返れば、何かが飛び跳ねながらこちらに向かってくる。
しかし、飛び跳ねていると言えど、飛蝗や蛙とはちょっとフォルムが違いそう?
近づくにつれて正体がはっきりする。垂れた耳にフワフワの毛……兎っぽい。
ただ、顔が兎じゃないんだよな。なんか豚をファンタジーにデフォルメして悪役にしたみたいな顔だ。
「わぁぁぁぁぁぁ!!!」
背後では牛みたいな生き物で輸送をしてた御者の普通のNPCが叫び声を上げて、橋を渡り逃げていく。
しかし丘を真っ直ぐ滑り降りるのではなく、坂をなだらかに下る為に遠回りしてるのは日頃の習性なんだろうか?
「スルージャは【古都】に連絡、チャーニンはソリの護衛の続きをお願い。えっと【衛生兵】の君もチャーニンと一緒に行って!【弓兵】の君は橋の向こう側で待機。自分がやられたらすぐに【古都】に伝令!」
「じゃあ、ソタローは?」
「一応この橋で足止めする。なんかここの所倒してきた白い蠍と比べれば、そこまで怖くもないし」
「分かった!急いで応援呼ぶから、無理せずに!」
そう言って、全員が持ち場に向かう。
自分は橋の前で兎を待ち構えるが、結構な大きさにちょっと警戒を高めていく。
少しだけ大兎の後ろ足に体重が移動したと思った所で、体を固める。
一歩の移動距離といい、大きさといい、間合いといい先手を取れる気がしないし、ここは相手の攻撃にあわせて反撃を狙おう。
こういう時に使えるのが<戦形>のアビリティ加速だ。
大兎の後ろ足に力を入り突っ込んできたと思った所で、発動。
ほんの数秒が引き伸ばされ、スローモーションに感じる。
勿論その時間の中を自由に動けるわけじゃないが、タイミングを合わせるには十分!
大兎との衝突に合わせて盾を突き出す。
加速が途切れた瞬間にガツンと手首に重量が乗り、大兎は顎下を殴られて嫌がるように顔を背けた。
逆に自分は体重差で飛ばされ、橋の上を滑る。背中を引っ張られるような変な感触に慌ててすぐに剣を橋に突きたて、ストップ。
凍った橋に剣を突きたてるなんてゲーム的に可能かどうかなど考える余裕も無かったが、反射的に体を止めようと思ったら、そうなった。
すぐに走って大兎に近づいていけば、右前足で薙ぎ払ってきたので、盾で殴り返す。
右胴が空いたのでその隙間から喉に剣を突きたてると、嫌がってすぐに後ろにバク宙して距離を取られた。
そして、何故か横向きになったと思ったら、体の長い面積で押し潰すように飛び込んできた。
潰されるのは困るが、逆に大兎の体重で剣が抉りこむかもしれないと、飛び込んできた所に真っ直ぐ剣を起てて体を固める。
手首、肘、肩と負担がかかるが我慢!予想通りぐっさり根元まで剣が突き込まれ、苦しそうにすぐに距離を取りなおす大兎。
次の攻撃は左前足の打ち下ろし、
それに対して一歩踏み込んで打点をずらし、空いた胴に剣を突き込む。
苦しそうにもがくが、ぐっさり胴の真ん中に差し込まれた剣を抜けずに暴れ続ける大兎を<蹴り>で跳ね飛ばし、剣を引き抜く。
仰向けに倒れた兎に追撃の垂直斬り、薙ぎ払い、剣の重さを乗せた連続斬りでダメージを重ねる。
先ほどよりかなり緩慢になった大兎が、最後の力を振り絞るように頭を低くしての突進してきた。
盾で大兎の横っ面を殴るように受け止め手近な耳を斬ると、大兎は大きく仰け反りかなり嫌そうにする。
完全にこちらに対して恐怖を覚えたように攻撃の仕方が完全に縮こまっているが、それでも戦闘をやめないのならと、
もう片方の耳も斬り、最後は喉を深々と突いてトドメをさす。
ふぅ……、思ったよりてこずった。やっぱり装備を早く手に入れよう。
もう少し攻撃力が上がればこの兎どころか、渓谷の川沿いの雪蠍位は一人でやれるだろう。
一応受けたダメージを<手当て>で直しつつ【古都】に向かう。