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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
177/363

176.水の闘技場まだ終わってない

 チータデリーニさんとの闘技で何か燃え尽きた。


 もうここまででいいんじゃないかと、控え室の壁に背中をつけて天井を見ながらボンヤリと思いを馳せる。


 「ソタロー!大丈夫っすか」


 「ああ、すみませんなんか燃え尽きました」


 「やっぱり鶏肉ブロッコリーが効き過ぎたっすか」


 「あれって、何か変な物でも入ってるんですか?何か全身の筋肉が盛り上がって、ずっと興奮状態だったんですけど」


 「普通のヒトが食べてもただ美味しいだけっす。ただ時折現れる適合者が食べると、そういう現象が起きる事もあるっす」


 「適合者って、一体なんですか?何か一気に脱力しちゃって、ここでリタイヤしようか迷ってる所なんですけど」


 「筋肉に必要な栄養素を急激に入れたっすからね……そりゃ筋肉もびっくりするっす。でも今が正常っすよ?一時的にテンションが上がり過ぎた所為で、正常の今がダウンに感じてるだけっす。寧ろナチュラルな状態も確かめた方がいいっす」


 「そうなんですか?ナチュラルな状態っていわれても、何かもうモチベが……」


 「これは重症っすね。でもソタローはまだ本来の自分の力を理解出来てないっすよ?」


 「どういう事ですか?」


 「確かにこの祭典は筋力を高める祭典っすけど、同時にソタローのような異常な筋力を持つ者に自覚させる祭典でもあるっす。ソタローの筋肉は既に凶器なんす。使い方を覚えておかないと後々大変な事になるっす」


 何故か鼠のヒトに脅かされ、気は乗らないままにまた呼び出された。


 予選から出場者が絞られていくのだから、徐々に呼ばれる間隔が短くなるのは当然か……。


 フィールドに上がれば、更に水は深まり膝まで浸かって、その水が場外に滝を作っている様は中々に見ごたえがあるだろう。


 どちらかと言えば見学に回りたかったなと、思わないでもない。


 取り敢えずひたすら真っ直ぐ進み、中央の水供給装置のところまで辿り着く。


 問題はどうやって渡るかだが、慎重に歩を進めると、供給装置周りはそこまで深くない。


 そのままそろりそろりと、対岸に渡り対戦相手の姿を探す。


 どうやら開始地点から動いてない対戦相手に、話しかけられた。


 「よくそっちから来てくれたな。俺はもうここが限界だ。一思いにやってくれ」


 「何で急にそんな事言うんですか?ちゃんと鶏肉ブロッコリーは食べましたか?」


 「ああ……だがもう一歩も体が動かないだ。この超重装備で膝まで浸かる水。ヘタすれば両者一歩も動かずに終わっちまう状況で、対戦相手がお前でよかったよ鉄壁の不屈」


 「いやでも、皆勝てば徐々に筋力が増加する筈じゃ?」


 「その通りだ。この大会は筋肉を信奉する者達の祈りにより、出場者の筋力が増加するようになっている。だがそれは一定ではない」


 「そうだったんですか?一体何が原因でそんな差が生まれるんです?」


 「より筋肉に愛されているかどうかさ」


 「そんな……そんなものどうやっても自分の努力じゃどうしようもないじゃないですか!」


 「ふふ、そんな事はない。どれだけ己の筋肉を信じ、筋力任せに物事を解決してきたか、それが差になるんだよ。さあそろそろヤレ!もうこの場に踏みとどまる事すら俺には限界なんだ」


 「どういう事ですか?踏みとどまる事すらって?」


 「気が付いてないのか?それほどなのかお前の筋力は!ははは!まるで奇跡だな!いいか?このフィールドがやや球面になっているのは分かっているな?つまり常に場外に引っ張られている状態なんだ。この超重量鎧がな。しかもそこに水流の力が加わるとどうなる?もうな立っているだけで、限界だろ?」


 「それなら自分のように鎧重量を増せば、別に流れなんて気にならなくなるのに」


 「そうか……それが筋力任せに物事を解決するって事なんだろうな。誰も不利になるような重量増加なんて望まない筈なんだがな」

 

 それだけ言うと、本当に限界だったのかフラッと仰向けに倒れこむ対戦相手。


 だがまだ聞きたい事がある。


 手を掴み強引に引き起こすと、


 「すまん、本当に限界だ。ここで負けさせてくれ」


 手を振り払い水没した。


 その後は殆ど無意識で、控え室に戻った。いつ自分が勝者だと言われたかすら覚えていない。


 何か筋肉筋肉言ってる変なお祭りかと思えば、実はそこに明らかに差があって、お互いが競い合ってる。


 しかし剣の一振りもせずに終わってしまうそれは、ただただ虚しいだけだ。


 これでどうやって自分の筋力を自覚しろと言うのだろうか?


 「ソタロー……次が最後の一戦っす。筋肉に栄養を補給するっす」


 「最後の一戦も相手がただ自滅って事は無いですよね?」


 「それはないっす。ちゃんと確かめて来たっすけど、本物の筋肉が相手っす。だからこのトマトとバジルのパスタを食べるっす」


 「鶏肉ブロッコリーじゃないんですか?」


 「最後はエネルギーの勝負になるっす。蛋白質だけじゃどうにもならない相手もいるっすよ」


 言われるがままパスタを掻き込み、最後の一戦に備える。


 寧ろ自分の準備が整うのを待っているかのような呼び出し係のヒト。


 パスタを分解したエネルギーが全身に回り、体温が上がるのを感じながらフィールドに昇る陣の上に立つ。

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― 新着の感想 ―
[一言] Σ( ̄□ ̄)!脳筋一直線
[一言] ソタロー、未成年なんだから、脳筋は目ざしちゃ駄目~(>_<)
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