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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
176/363

175.水の闘技場いきなりクライマックス

 ただただ、己の筋肉と対話する瞑想の時間。


 一瞬でも気を抜けば暴れ出すと分る己の筋肉を完全なコントロール化に置く、大事なプロセス。


 でもそれには必要な事がある。


 敵だ。

 

 敵がいるからこそ、精神と肉体の完全なる一致があるのだ。


 敵とは憎むものでは無い。寧ろ歓迎し、それでいて叩き潰す存在だ。今ならこの世のあらゆる憎むべき物を歓迎できるし、そしてそれを思うがままに蹂躙できる。


 重厚な鎧を弾き飛ばしてしまいそうな筋肉の暴走と、留まる所を知らないアドレナリン。


 指一本動かさなくても高まる体温に、周囲の空気が熱を持って世界を歪ませる。


 呼び出された時には、考える必要もなく、ポイント全てを増量につぎ込む。


 今の自分を押さえ込むにはもう精神だけでは到底足りない。盾と剣とフロートが引継ぎなら、あとは荒ぶる筋肉を押さえる重量のみが、なけなしの理性と言って過言では無い。


 ずるずると引き摺る様な体の重さが、今では唯一の救い。静かに陣の上に乗って待つ。筋力を解放する瞬間を!


 フィールドには更に水が溢れ、うっすらと地表を覆う水が水路を発見しづらくしている。


 一歩歩く度にバシャバシャと音を起て、足を引っ張ってくる様な重さを感じるが、それこそいつも雪に埋もれ、常に足を取られる環境に慣れた自分には寧ろ有利にしか働かない。


 駄目だ。


 こんな事で希望するような強敵に出会えるのか?ずるずると引き摺るほどに重い体も、逆に言えば鉄壁の防御と化している。


 だとしても、敵と会わねば始まらないし、終わらない。


 緩々と中央に向かうと、既に濡れた敵が待っていた。


 「よう、ソタロー!待ってたぜ!お前が俺の敵になりえる時を!!!」


 待っていたのは、チータデリーニさん。


 両肩に担いだ二本の斧をその場に投げ捨て、両手を広げ興奮している様子。


 長年【黒の防壁】を守るベテランのオーラが解放され、気圧してくるのが今は心地よい。


 手に持っている借りた剣を地面に突き刺す。


壊剣術 天沼


 盾を放り投げて、チータデリーニさんに近づく。


 しょっちゅうお世話になっている相手に対する友愛の証は、抱擁。

 

 お互いに熱く抱擁を交わし、ギリギリと締め上げる。


 チータデリーニさんを初めて見た時、驚いたのはクマを締め殺す姿。


 しかし今なら分かる。筋力がある相手とただただ純粋に筋力を確かめ合う尊さ。


 音をたててひしゃげる鎧、そうそうダメージを負うものでもない筈の超重量鎧が変形していく。


 「ふははは、ソタロー!どうなってるんだお前の体!鎧の内から押し上げる筋肉に、俺の腕が撥ね返されるぞ!」


 チータデリーニさんは喜んでいるが、お互いの鎧はミシミシと音をたてて潰れていく。


 「今なら熊も絞め殺せますかね?」


 「どうだろうな?挨拶はこれくらいにして、そろそろ本気でやりあうか」


 お互い同時に手を緩めて離れ、


鋼鎧術 天衣迅鎧

鋼鎧術 多富鎧


 術を掛けながら剣と盾を拾いなおす。その間にチータデリーニさんも斧を拾い、両肩に担いで構えた。


 一見何の警戒もしていないオープンな構えだが、それがチータデリーニさんだ。肩に担いだ状態から腕力であっさり斧を振り回す化け物。


 自分は盾を前に構え堅く守りつつ、じりじりと摺足で進み、


壊剣術 天荒


 チータデリーニさんは、とにもかくにも体を柔らかくするよう全身の関節の動きを確かめながら身軽に近づいてくる。


 間合いに入ったと思った瞬間には猛烈な勢いで振られる斧を盾と剣で弾き返す。


 羽ばたくかのように両手を大きく広げ、そこから逃げ場を奪うような挟み斬りの衝撃は、


 両腕と言わず、心臓にまで届く激しい振動を伴う。


 だが、次は自分のターン!振動如きで怯んでいてはやられる一方だ。


 斧を跳ね返した事で、開いたからだのど真ん中心臓目掛けて、突きを食らわせる。


 自分の攻撃に、一歩二歩とチータデリーニさんが退いた所で、


殴盾術 獅子打


 追撃の盾攻撃からの前蹴りで腹にも一撃。ところが、相手もさるもの、


 「いい~じゃねぇか~!!」


 体勢を碌に立て直さないまま、強引に斧でこちらの脚を狩ってきた。


 斧に引っ掛けられその場に仰向けで倒れ、上半身を持ち上げようとしたが、重量マシマシが効いてるのか、上手く起き上がれない。


 やむを得ず、勢いをつけて横に転がると、体の有った地面に突き刺さる斧。


 しかしうつ伏せになれば、こちらの物。


 すぐに立ち上がると、背中に衝撃が走り大きくつんのめるが、今度は何とかバランスを取り、振り向きながら適当に背後を斬りつける。


 どうやらそれは読まれていたようで、間合いギリギリ外側で避けられ、そして踏み込みながらの両斧の振り下ろし。


 受けてたら身が持たないと、寧ろこちらも一歩踏み込み盾の縁でぶん殴る。


 打点のずれた斧の一撃でも足が地にめり込みそうな勢いだが、それでも盾で殴って押し出した分出来た間合いを使い、重剣をチータデリーニさんの頭に叩き込む。


 幾ら超重量鎧と言えども頭を重量武器で殴られては、動きがフラフラっと不自然になる。


 そこを敢えて見逃したら寧ろ怒られるだろう。本当はもっと筋肉のぶつかり合いを楽しみたかったが仕方ない。


 チータデリーニさんのこめかみを狙って、思い切り剣を振り込む。


 首から持っていかれるように横にぐらついた所を更に追撃。


 ひたすら頭だけを狙い続けているうちに、仰向けになってその場に倒れるチータデリーニさん。


 そこで闘技終了。


 いつの間にか荒くなった息を整える事ができないまま控え室に帰ったが、なんとも熱に浮かされ夢を見ていたかのような戦いに、あのブロッコリーに何か仕込まれてたんじゃないかと疑いしかない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鉄の塊が歩き、戦う様を興奮しながら見る観客……………確かに、異様な光景かもしれん(笑) 足、ずってるし…………… ってか、何でここに参加してるんだ、砦の留守は誰が守ってるだ い…
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