171.筋肉の筋肉による筋肉の為の祭典
珍しく【闘都】に向かうように兵長に言われたので、何事かと聞いたら、自分に呼び出しがかかっているとの事。
特に問題を起こした事もなければ、装備がない状態で戦えるわけでもない。つまり何も思い当たる事がない。
それでも呼ばれたのだから仕方ないと思い、いつもの鼠のヒトの喫茶店に向かう。
「よく来たっす!とうとうソタローの為の祭典が開かれるっす」
「え?なんですか藪から棒に自分の為の祭典って、別に外は割りといつも通り平常通りでしたよ」
「それはそうっす!こんなマニアックな祭典に興味あるのは極一部っす。ただその極一部からソタローは必ず出場させるように言われてるっす。自分は言われるまでもなく呼ぶつもりだったっす」
「その祭典ってなんですか?今装備も預けてあるので、闘技には参加しようがないんですけど」
「そんな物はいらないっす!大昔は裸一貫で行われていた伝統行事っす!その名も『筋肉感謝祭』っす!」
「筋肉感謝祭って、筋肉に何を感謝するんですか?」
「そりゃ日頃から筋肉使わないヒトなんて存在しないっすから、筋肉に感謝しつつお互いの筋肉を確かめ合ってより健全な筋肉を目指そうって言う意識高い系の御祭りっす」
「それって意識高いんですか?」
「当たり前の様に高いっす。何しろいつでも筋肉をいい状態で保つのは至難の事っす。日々の弛まぬ【訓練】と【管理】が物を言うっす」
「【訓練】と【管理】ならやりますけど、筋肉とは全然関係ないですよ?」
「そういう事じゃないのは分ってる筈っす。問題はソタローがどの部門に出るかっす。何しろ結構なマッスルマスター達から目をつけられてるっす。どの部門に出場しても台風の目になるのは間違いないっす」
「また変な単語が増えた……。それでどんな部門があるっていうんですか?」
「まずはポージング部門に関してはソタローは未成年なので残念ながら出場不可っす。あまり露出が激しい格好は未成年にさせてはいけないっす。それが大人の良識っす」
「はぁ、まあそれは助かりますけど、他には?」
「遠投部門は<投擲>系スキルがないと意味がないので、これも無理っす。走る系部門も苦手なので無理っすね」
「じゃあやれる事なさそうですね。重装備で出来る競技があればよかったんですけど仕方ない」
「それっす!重量部門に出て貰うっす」
「いや自分の場合スキルで装備の許容重量を調整してるだけなので、重い物を持つとかはそれほど得意じゃないですよ」
「違うっす!運営側の用意する超重量装備で戦ってもらうっす!正直並みの戦士では重さで動けないどころか潰されてしまう危険な重装備で戦うって言うそれはもう盛り上がる会場っす」
「いや~いや~別にそんな重量装備に自信があるわけじゃないんですけど~!」
「ちなみに【帝国】の【兵士】もこの祭典に多く参加するっすから、場合によっては【上級士官】と当たる事もあるかも知れないっす」
「ああ、それで兵長から行ってこいって命令が出たのか。じゃあやるしかないじゃん」
「しかも日頃使い慣れていない装備で、装備に合わせて戦うのは今度のイベントにも役に立つっすよ?」
「え?何で自分が出場する事を知ってるんですか?」
「登録者一覧は見れる様になってるっす。じゃなきゃ賭けが成立しないっす!」
「そう言えば賭けがあるんでしたね。じゃあ覚悟を決めて重量部門に出場します」
「いい覚悟っす。それなら北西の【闘技場】に向かうっす!そこで装備の調整をしてから開始になるっす」
という事なので、北西の【闘技場】に移動。やはり都はいつも通りにしか見えない。まあ【古都】と比べればいつでも賑わってはいるのだが、それでもそんな大昔から続く祭典が流行ってるとは思えない。
しかし、北西の【闘技場】に着いたら、それが自分の勘違いだとすぐに分った。
何しろ一歩【闘技場】に入っただけでムワッとする熱気が充満し、息苦しい。
そしてその熱源が周囲のマッチョ達のものだと分かると、尚更呼吸が荒くなる。
「フフ……ソタローも熱気に当てられて呼吸が荒くなってるっす」
「いや、普通に息苦しいだけなんですけど」
そんな事を言っている間にも自分が周りから意識されているのが分る。何しろ鼠のヒトがソタローと言った瞬間にこちらを見る人が結構な人数いたからだ。これがマッスルマスター達に目をつけられているという事なのだろうか?
まずは鎧の合わせに向かう。どうやら重量部門内でも階級があるらしい。本人の身長体重じゃなく、装備できる装備の重量で……。
「ソタローは<総金属>で雪道も歩けるから黄金王級でやるといいっす」
「なんですか黄金王って?」
「大昔のドワーフの英雄っす!全身金の特殊金属で戦ったらしいっすけど、普通そんな事したら指一本動かせないっす。まさに伝説の筋肉の一角っす」
「伝説の筋肉って他にもいるんですね」
「そりゃ、全身の筋肉が凶器と言われた天才ミノタウロスの英雄とか、超重量の武器を振り回しながら高速で走り回ったとされるケンタウロスの英雄とか、他にも諸々っすよ」
このゲームは何しろ筋肉が過ぎる。
まあ仕方なしと鎧を合わせに向かったが、ずっしり重いが思ったよりは常識の範疇でよかった。