17.団欒と指揮と
黒蠍を狩った【兵士】達は一先ず北砦に帰還。
なんか報告はまとめて先輩がやってくれるらしく、代わりに自分達は食堂に集められた。
なんだろう?反省会かな?北砦に【座学】は無かったので、そういうヒトが集まれる部屋が無いんだと思う。
何しろ砦だし、戦闘用の施設な訳だから、大会議室とかホールで説明するくらいなら、外の広場にヒトを集めるだろう。
「はい!諸君!まだ報告中ではあるが、我々は先に始めさせてもらおうと思う!」
先輩がいないのでルークが代理で仕切るようだ。
「北砦に配属になる諸君なら知っている者も多いだろう。【古都】を中心とした貧しい農村地帯で商いをしてくれているラズノースさんが、丁度北砦にいたので買い付ける事ができました。顔を合わせた方はちゃんとお礼を言っておいて下さい」
どうやら、カピヨンさんも一緒に仕切るらしい。どんな話になるのか?買い付けるってのは何の事だろうか?
「それでは、我らの勝利を祝して!乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
打ち上げだったか~。いつの間にか皆の手元にお酒が行き渡ってるじゃん。
「あっソタローは未成年だよね。ジュース貰ってくるから」
スルージャが、ジュースを貰ってきてくれる。なんとも気の利く【偵察兵】だ。なんか申し訳ない。
「ありがとうございます」
「いやいや、アレだけ巨大な相手に果敢に挑みかかった今日の勇者だから、コレくらいはね!」
「いや、果敢も何も興奮しすぎて何がなんだか……でもカピヨンさんの顔見るたびに冷静になったから、なんかそういう他人を安心させるようなオーラが……」
「多分士気に浮かされてたんだと思いますけど?でもそうだとしたら、他人の顔を見たところで何も代わらない筈ですけど」
「え?じゃあ、何でだろう?そうじゃなかったら蠍の尾を避けられた気がしないんだけど」
「おっ!二人はここだったのか、じゃあ俺もここで!」
スルージャと話ている所にチャーニンも合流し、
「あっチャーニン!なんかソタローがカピヨンさんの顔を見る度に士気が落ち着いたって……」
「そりゃ、ソタローが飛ばされて戻っていくタイミングで指揮官が<戦陣術>を使ってたからだろ?」
「<戦陣術>って何?」
「詳しい事は分からないけど、戦闘中に高まる士気を利用して身体能力を増したりする術だったと思う」
「それそれ!術を使うには何がしか代償か条件が必要になるんだけど<戦陣術>は士気を消費する訳だ。だから集団で戦う俺達【兵士】は士気に慣れる必要があるって事だな」
へ~!そんな術があるのか、じゃあそれを使って隊長はあの大会に優勝したって訳か。
なんか変な人とかそういう噂しかなかったけど、やっと秘密が分かった。
その集団に対して使える術を使えるようになるにはどうすればいいのか?多分指揮官になるしかないのだろう。
つまりこのままクエストを継続してがんばるって事だ。多分ね。
やっと最近まともにスキル合成を出来るようになったばかりなのに、考えなきゃいけない事が多すぎる。
まあでもゲーム初期ってこんな物なのかな?やっとゲーム自体に体が慣れてきただろうから、ここから本気出して頑張れよと言うゲーム側からのメッセージ?
まずは、装備を手に入れよう。今回の【巡回】で大量の素材を手に入れたし、どうやら報酬も悪くないらしい。
そして、合成できそうなスキルをどんどんくっつけて、スキルを整理。話を聞く限り魔物を倒した方がスキル熟練度が溜まるのは早いらしいので、徹底的に狩りもやろう。
何しろ【巡回】で魔物を倒しながらクエストも出来るのだから、ここで頑張るしかない。
それも今までとは比べ物にならないサイズの敵も倒せるわけだし、コレは間違いなく成長出来る!筈。
平行して他のクエストもサボらずにボチボチやれば、きっと上手く行く!筈。
先輩は戦闘以外のクエストが苦手なようだが、それをこなし続けて隊長の様に出世するなら、やらない手は無い。
そんな事を考えていたら、先輩が戻ってきて打ち上げに混ざった。
今回戦闘に参加した全員に声を掛けて周り、さりげなく今後やるべき事もアドバイスしてる。
そう言えば、チラッと【士官】って聞いたけど、それはどれくらいの地位なのだろう?
「そういえばさ、先輩って【士官】って聞いたけど、どういうポジションなの?」
「え?知らないの?【士官】って言ったら100人は率いれる立場だし、かなり偉いよ」
「……知らなかった。ただの先輩だと思って接してた」
「まあ、そういうの気にするヒトじゃ無さそうだし、大丈夫だって!なんかルークとかカピヨンも実は偉いけどあんな感じだし、大丈夫!大丈夫!」
そんなこと言われてもな~。【兵士】って階級社会じゃないのかな?
「おっ!ソタロー初部隊級ボスはどうだった?」
「お疲れ様です!」
「いや、急にどうした?いつも通りでいいぞ?」
「あっいや、実はかなり高い階級だと聞いて」
「ああ、こんな田舎じゃ階級がどうあれ、皆で戦わんとままならないんだし、気にすんなよ。それでどうだったんだよ?」
「いや、部隊級って言うのがそもそもよく分からないんですけど?大きい敵だったなと」
「ああ!そういう事か!【帝国】の隊の組み方は小隊は5人。部隊が20人。中隊が100人だ」
「えっと、じゃあ大隊は?」
「1000人だな。中々そこまで率いれる奴はいないが、俺は一応ゆくゆく100人率いる事になると思うぜ」
「なるほど【士官】って言ってもすぐに100人率いるわけじゃないんですね」
「そう言うこったな。まあ頑張れ!」
激励を貰いつつ、明日からまた頑張るかと。取り敢えず出されたおつまみをジュースで食べる。