166.五関一人駆⑤
[遍歴の指揮官が辿り着いたのは都から一番離れた五ノ関、防衛拠点よりも外のこの場所では他国に潜り込み情報収集をする者達が息を潜め必殺の機会を窺っている]
「・・・」
「潜んでないよね」
思わず言ってしまった。いやでも【闘技場】じゃ潜みようないし相手が悪い訳じゃない。ストーリーが悪い。
[五ノ関戦Fight!]
何にもなかったかのように、しれっと開始の合図がでた。
これで最終戦、一人は大型のナイフ使い。もう一人は何にも持ってないから素手?
何にしてもちょっとこの連戦は心が削れてくる。
脳に負荷がかかってとでも言うのだろうか?別に体が動かないとか、目がかすむとかそんな事は一つもないのだけど、強いて言うなら集中できない。
何か眠りに落ちる限界で粘っている時のような感覚。
これは相手の動きを見てから考えて動いてたんじゃ、多分もたない。
すでに相手は動き出しているが、自分は先にバフを掛けさせてもらう。
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
ここで、何かが飛んできて冑に当り、
キーーーン!
と金属同士がぶつかった硬質の反響音で思わず、グラッときた。
ふらふらっと2歩下がった所で何かにぶつかったと思ったら、脇腹と重剣を持つ右手の間にナイフが飛び出す。
いつの間にか視界から消えていたナイフ使いが、後ろでナイフを構えていたらしい。
多分素手の方が金属の何かを当てるタイミングで、瞬間移動して刺す気だったのだろう。
それが、自分が耐えられずふらついた事で偶々ぶつかったと……ならばこの機会を逃す訳にはいかない。
今相手がどういう体勢かも分からぬまま後ろに思い切り倒れこみ、ナイフ使いを押しつぶす。
そして横に転がりながら、立ち上がるとナイフ使いの姿は消えていた。
また瞬間移動して逃げたのかな?と、周囲を確認するが、視界にも気配にもナイフ使いが引っ掛からない。
素手の方に警戒を向けると一定距離を保ってこちらを観察している。
今回は完全に二人のコンビネーションが出来てる相手かもしれない。多分素手の方はナイフ使いの攻撃に合わせて動く気だろう。
素手の方がこちらに拳を向けたかと思ったら、ゆっくりと開き、
手の中に何かあるな?と目を凝らしたところで、冑のバイザーに何か当りまた頭がグラッと来る。
またふらふらっとしたのだが、何故か足が動かず、そのまま仰向けに倒れてしまった。
そして地面からナイフ使いが生えてきて、逆手に持ったナイフで突きかかってきたので、
<蹴り>で下腹部を思い切り打ち動きを止めつつ、立ち上がる。
ただでさえ疲れて集中できないのに、頭をガツンガツンと……、何か苛立ってきた。
多分素手の方は何かしらの遠距離攻撃持ちだろう。ナイフ使いは下にいた筈なのに、バイザーに攻撃当てようないし。
多分さっき手の中を見せようとしてきたのが視線誘導で、死角から攻撃してるんだろう。
だったらやる事は一つ。
壊剣術 天荒
思い切り振りかぶりナイフ使いを薙ぎ払うと、あっさりと回避されるがそれは予想通り。
更に袈裟切りからの逆袈裟と重剣を振り回し、その都度避けるナイフ使いが程よく下がった所で、盾を顔の前に構え、
殴盾術 獅子追
急激に加速して、盾ごとぶつかりに行く。標的は素手の方!
ここは遠距離もちで、しかも何してきてるのだかタネの分らない方から潰す。
自分の突進を避ける為に、横にステップした素手の敵を右肘で擦りつけ、
引っ掛け事故を起こした。
軽量と見られる素手の敵は一回転して地面に叩きつけられ、息が詰まったように動きが止まった。
その一瞬に剣を突きたてようとすると、倒れた素手の敵が何かを投げつけてきたので、肩当てで弾き、
飛んでいったそれを確認すると、ビー玉サイズの鉄球。
これが何で武器になるんだ?と思ったが、武器名が分らない。取り合えずビー玉使い(暫定)としよう。
ビー玉で時間を稼ぐと、あっさり再び立ち上がって間合いを取り直されてしまった。
壊剣術 天崩
追いかけても追いつけないことは分っているので、術で距離を潰す。
横薙ぎに払えば、しゃがんで避けたので、地面すれすれを更に薙ぎ払い、一撃当てる。
剣を戻しながら走って距離を詰め、
殴盾術 獅子打
盾の縁でぶん殴り、更に重剣で追撃からのミドルキック!そこまでヒットした所で後ろからナイフ使いが邪魔してくるが、急所に当らなければどうということはない。
獅子打の効果の残る盾を振り回して、背後を攻撃するものの手応えがない。軽量タイプのこの回避力が羨ましい。
まあいいかとビー玉使いに重剣を叩きつけようとすると、鎧があるはずの場所にグサッと何かが刺さる感触???
ビー玉使いがいつの間にか距離を詰めて、自分の脇腹に太い針を突き刺していた。
鎧の上から刺さっているのは術効果だろうか?それにしても針まで武器にしてたなんて、こいつは隠し武器使いだったのか。
それでも強引に重剣を振りぬけば、針を残して一歩引く隠し武器使いが引きながらまた鉄のビー玉を投げつけてきたがそれは盾で<防御>して弾く。
殴盾術 獅子追
<防御>行動で盾を構えた動きと連動で、クールタイムの終わった獅子追を使用し隠し武器使いを轢き飛ばす。
やっぱりこいつの方が厄介だ。固い防具の上からでもダメージを与える術を持っている。
撥ね飛ばして転がった所に剣を突き立てるが顔の前に盾を構えておくのを忘れない。
迎撃の鉄のビー玉を喰らわずに、重剣を隠し武器使いの腹に突き立て、代わりに脚に針を差し込まれる。
気にしても仕方ないので、
武技 踏殺
頭を踏み潰し、踏み潰し、踏み潰す。
追いついたナイフ使いが、斬り付けてくるものの鎧の上から斬られても気合を入れてれば別にどうという事はない。
ちなみに気合は本当にただの気合。自分の防御力を信じて気にしないっていうだけ。
何回踏みつけたか、踏みつける感触が硬質になり、いつの間にか隠し武器使いは死に戻っていた。
さて、あとはナイフ使いだけ、鎧貫通攻撃を持っていないなら何も怖い事無い。寧ろ何でナイフなんて武器にしてるんだ?
そこでまた姿も<気配>も消えてしまったが、さっき床から出てきているのは見えているのだ。やる事は一つ。
壊剣術 天沼
術は術で相殺!案の定姿を現すナイフ使い。つまり地面に溶け込むように姿を隠すのがナイフ使いの術だという事。
本来相手に気が付かれていない状態で攻撃すると大ダメージとか、隠れた状態からの奇襲が得意戦法なのだろう。
じゃあ、何故それをしなかったか、多分隠れた状態だと移動できないから。
だから相方に誘導を任せてたって事だろう。一回足が動かなかったのはこいつに掴まれたからかな?
ちょっと足りなかったよな。全身鎧で固めてる相手に攻撃する手段があれば、自分が負けてたかもしれない。
何だかんだ蓄積ダメージはあるが、普通に相対すれば怖い相手じゃない。奥の手を隠してなければだけど。
殴盾術 獅子打
盾で殴りつけると当然回避するナイフ使い、カウンターとばかりにナイフで突いてくるが右腕の篭手で<防御>し、盾も投げ捨てる。
更にナイフで斬りかかって来たので肩当てで受け、
武技 鉄擁
武技 鐘突
軽量の相手は捕まえて逃がさない。そのまま膝蹴り連打。
ナイフ使いも死に戻った。
あ~~疲れた……もう寝たい。でもご飯も食べなきゃ。