160.今回の報酬は決まってる
邪神の尖兵戦後、アンデルセンさんとはそのうちまた嵐の岬と大物狩りをする約束をして、
ガイヤさんとは【闘技場】に行ったときにガイヤさんのクランメンバーと戦う事を約束した。
そして、普通に再ログイン。
本当にいつの間に情報を聞きつけるのか、そして忙しい筈の政治のトップが【古都】の【兵舎】に単独で現れちゃうのなんでだろう。
国務尚書が【兵舎】のカウンターで兵長と話しをしてるのだから、不思議としか言いようがない。
「やぁ、遂に三つ目だね。コレはもう階級に関しては繰り上げてしまっていいだろう。事、白竜様の件で文句を言うものはこの国にはいないだろうし」
「お久しぶりです。おかげ様で今回も知り合いに力を貸してもらって何とか邪神の尖兵を倒しましたけど、報酬が階級って事になりますか?」
「ん?珍しいな何か欲しいものがあるかい?」
「一応、こいつは今回装備用の素材が必要だってんで、急ぎ挑戦したみたいんですよ」
「ええ、いつも装備をお願いしているニューターが今の手持ちの素材だと、デザイン的に合わないと言ってまして」
「なるほどね。デザインは重要だ。特にソタローはこれから【上級士官】になるわけだし、変なものを装備していても良くないだろう。だが安心したまえ、階級に関しては余禄のような物だ。相応の実力があると認めていいだろうというだけの事。報酬は別に渡す予定だった」
なんと……まだ数体のレギオンボスに何人いるか分からない上官【闘技者】達を倒すのと同等の余禄って……。
そんな重要な案件放置しすぎじゃないですか!
まぁ、でもゲームだしそこはプレイヤーの都合に合わせてくれてると言うか、そういう事だろう。ストーリーに野暮な事を言うものじゃない。
「どうやらこいつの話によると、あまり毛っぽくない耐寒装備、出来れば高性能の内着、白であわせるならすっきりしたシルエットの物。篭手が少し物足りない。あとは軍狼装備を軸にしているがそろそろ乗り換えられるような集団戦装備。ただし冑だけは例の魔将の時の物がある。雪に埋もれず歩けるような素材の足防具、こんなところですね」
ちょっと考え事している内に兵長が自分のオーダーを全てまとめてしまう。
「あの全部どうにかという訳じゃないんですけど、どこか解決できれば他は調整していけると思うんですよね」
「分った。これだけの業績がありながら要求があまりにも慎ましやかで寧ろ驚いているよ。さてこれからの事だがね……」
「【上級士官】になってしまったので、中隊級ボス狩りと【闘技場】で上官を倒すのは一旦終了ですか?」
「いや、寧ろそれらを完遂してもらいたい。今後の事を考えると1000人率いれる実力者は【帝国】に確保したい。その実力と実績を積むには必要な事だ。ちょっと不穏な噂も流れているしな」
「不穏な噂ですか?」
ちらっと兵長と視線を交わした国務尚書が少し声のトーンを落として語るのは、
「『邪神の化身』が復活するという噂だ」
「邪神の尖兵じゃなくてですか?」
「桁が違う世界の敵さ。白竜様が世界を守る為に神から遣わされた一柱だとしたら、この世界を邪神の物とするために遣わされた世界共通の強敵」
「兵長の言う通り、邪神の化身が現れれば良くも悪くも世界は大きく変わる。何度となく大きな戦いがあり、倒しきれず封印されたとされる邪神の化身も世界には多く眠っている。そのうちの一体が復活するという噂さ」
「何でそんな噂が……」
「【砂国】の奥地の秘境には幻の街と呼ばれる場所があってな。そこには英雄の子孫が住んでいる。そして英雄の血を引くそこの術士はそういった事を予見できるのさ」
「うむ、かなり可能性の高い最悪の未来に対する備えとしてソタローの成長は欠く事が出来ない。大変な事とは思うが引き続き任務継続を頼むよ。こちらも出来うる限りの支援はしようじゃないか」
あれか?あの魔将の時の予言者みたいな確定未来みたいなやつ……。
でもこの雰囲気だと魔将の時の比じゃない規模の戦いがあるから本格的にNPCがプレイヤー育成に本気だし始めたと……。
でも現状1000人率いれるのは全プレイヤー中、隊長だけなのに当人は指名手配。
それで次点の自分が頑張れとそういう事になったのかな。まあ【海国】なら嵐の岬とか【王国】なら騎士団とかいるし、全部自分だけって事はないだろうけども……。世界共通の敵って話だしさ。
「そんな事態じゃ、今更宰相派とか皇帝派とか言ってる場合じゃないですね」
ふと思いついたことを口にしてしまう。
「誰からそんな噂を聞いたか知らないが、そんな物はないぞ?」
「うむ、確かに意見が割れる事もしばしばあるが、皇帝陛下は聡明だし、性格の割りに慎重でもある。だから逆に私が強引な改革を推進する際に意見が違う事もあるというそれだけの事です」
「ああ、じゃあ国務尚書が国を変える気があるとかそういうのも噂だったんですね」
「ふむ、変える気はあるがそれはじっくり取り組む物だ。この国には可能性があるし、国民にはその力があると私は信じているからね」
「そうですか……偶々【闘技場】でやりあった上官は西の海岸沿いの出身で先祖代々の夢を追っかけて国務尚書に期待しているようでしたので、そういう派閥があるのかと思ってました」
なんか変な顔をしている国務尚書と、そ知らぬ顔で聞かない振りをする兵長。どういう事だ?