159.邪神の尖兵戦補助あり
「じゃあ、ここで見守ってるからがんばんな」
ガイヤさんに背中を押され、邪神の尖兵の待つ底の広場中央へ。
〔竜の歯片〕〔竜の鱗片〕〔竜の爪片〕
両手に今まで手に入れた氷像の核を握りこんで発動すれば、剣と盾そして足に爪が生える。
今度の邪神の尖兵の姿はおおよそザリガニ。
おおよそって付けないと訳が分らない異形だが、ハサミが二つ有るから蟹かザリガニ、縦に長いからザリガニ、海老かもしれないし、正直ただのぶよぶよした甲殻類って言う意味の分らない存在。
質感的にはぶよぶよだが、形状的には海老やザリガニの腹のように段が連なり、曲がりやすくなっている。
しかし、質がぶよぶよだから意味無くない?とつっこみたいが、話の分かる相手とも思えない。
あとは目も触角もない。ただの可動域の広そうな円柱形の装甲にハサミが二本。
取り合えず間合いを詰めないことには話が始まらないので、盾を前にじりじりと近づいていくと、
鋏の股がこちらに向き、間に目が見えた……。
盾に強力な圧を受け、吹っ飛ばされ転がり、入り口付近の壁に激突して停止。
仰向けに遠い天井を見つめて、大きく息を吐き気を取り直す。
一旦剣と盾を消して、
鋼鎧術 天衣迅鎧
体重を増して、再度距離を詰めなおす。
再び鋏を向けてきたので、前傾姿勢で受け止める構え。正直攻撃は弾く方が得意だが、邪神の尖兵相手にそれは何を喰らうかわからないので、ここは素直に<防御>を選択。
鋏の間の目から黒い水流が発射され押し流そうとしてくるが、今度は耐える。
5秒は射出され続けた水流が止まり、気がつくとブーツから生えた氷の爪ががっつり地面に食い込みスパイクになっていた。
地面から爪を引き抜きつつ、更に近づくと、反対側の鋏でもう一発水流攻撃。
それも耐えて、更に進むと今度は両鋏で水流攻撃。
受け止めようとした瞬間に、目の前に光り輝く盾が出現。
「一瞬しか持たないから直ぐに回り込め!」
どうやら、アンデルセンさんの術盾らしい。
言われた通り回りこむと、じわっと黒く侵食されて弾け飛ぶ光の盾。
しかし、相手の次弾発射まで詰められるだけ距離を詰めて、やっと手の届く位置に来た片方の鋏に剣を振り下ろす。
同時に左から襲い掛かってきたもう片方の鋏は盾で弾く。
さあ、次!と思ったら目の前が真っ黒にな流と同時に、空中に放り出され、
訳の分からない内に地面に激突。
「早く起き上がって攻撃に対処しな!」
ガイヤさんに言われるまま立ち上がると、再び鋏から水流が発射されたので盾で防御。
「あんたは体が重いから、そう何度も浮かせて助けてやれないよ!」
どうやら自分が奇襲を受けたところをガイヤさんが助けてくれたらしい、方法は分らないが、空中に吹き飛ばしてくれたのだろう。
再び距離を詰めて、再生した鋏を斬りおとしながら、反対からの攻撃は盾で迎撃。
そして、爪の生えた足で正面に蹴り出すと、爪が刺さる感触。
あまりに一瞬で目の前に真っ黒になる所為で、先は見逃したが要は両鋏の攻撃から、体当たりでコンボらしい。
爪が突き刺さった敵が、再び体を戻す。
どうやら段になっている装甲は蛇腹になっていたようだ。それを伸ばす勢いで振り飛ばしにかかっていたと、そういう事らしい。
問題は体を戻すのと一緒に爪が突き刺さっているので自分の体も引き込まれると言うこと。
片足上げたままひきづられ、反対足の爪を地面に突き刺して何とか敵から足を外して、剣と盾を構えなおす。
攻撃順は分かったので、今度は鋏を斬りおとすと同時に反対側を盾で防御。
そして正面に剣で突き。
根元まで剣身が飲まれ、そしてそれだけで敵の体を溶かすように邪神の尖兵の肉体がどんどん異様な匂いを発して蒸発していく。
嫌がるように体を引き戻す邪神の尖兵に追い討ちを掛ける様に、
殴盾術 獅子打
盾で攻撃すると凹み、復元しない。更に一太刀浴びせて体の一部を削り落とす。
ふと気がつくと、地面が光り陣の様な物が展開され、かなり明るく邪神の尖兵の姿を鮮明に浮き立たせている。
その光る陣は多分アンデルセンさんの物だが、どういう効果があるかはよく分らない。
邪神の尖兵中心に展開されているので、多分デバフなのだろうが、明るい所為で邪神の尖兵の形をよりはっきり認識してしまう。
何となくぶよぶよしてる質感から、グロテスクな今にも破裂しそうな瘤を全身に纏った胴体に、
細い針金のような足がうようよと全身から生えて大きな胴体を支えている姿まではっきり見えたもんだから、鳥肌が立つ。
生理的嫌悪感から攻撃の回転速度が上がる。
慎重に身を守りながら距離を詰めるより、湧き上がる早く倒してしまいたい気持ちに攻撃が荒くなっていく。
斬れば斬るほど小さくなっていく邪神の尖兵の体当たり攻撃を盾で殴る事で迎撃し、
一瞬見える胴体中央部の核。
爪の生えた足で地面を蹴り、大きく踏み出して強引に剣を突きこむ。
胴体に切っ先が触れるかどうかという所で、剣を持つ側から鋏が襲い掛かってくるが、今更止まれない。
そのまま突っ込もうとすると、背中が熱い!
何事かと思ったら、背後からガイヤさんが炎を発射して押し込んでいた。
その勢いで胴体を貫通し、そのまま核も潰し、弾けた邪神の尖兵のドロドロの体液を浴びながら反対側の壁に激突する。
仰向けになって大の字になっていると、全身から邪神の尖兵が蒸発して瘴気に変わっていくのが見える。
ゆらゆらと空気と混じっていく黒い煙を何となく眺めていると、ガイヤさんに引き起こされた。
「うん、中々良かったんじゃないか」
「おかげ様で何とか倒せました」
三人で別の出口から外に出ると冷たく新鮮な空気を大きく吸い込み、楔の澱んだ空気を全身から追い出す。