158.水路
試練の間?の奥はいつも通り暗い道が続いているが、アンデルセンさんが光の玉を浮かせると、辺りが明るくなった。
「ま、隠れたりするのには全く向かないが、逆に発見するのにはプラスに働く術だし、奇襲を受けにくくなるから、今回はコレで行くが大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
アンデルセンさんの手札の数はどうなってるのだろうか?さっき聞いたばかりだが、何でも色々術を集めて回ったとか……。ちょっと興味あるな~。
しかし、以前も通った道と作りは一緒なのだろうが、明るいとイメージが全然違う。
何しろ石造りの堅牢な雰囲気と壁の模様が妙に精緻で、大事な建造物だった事が察せられる。
近くによって壁を良く見てみると、その模様は全て彫られたもので、描かれたものではないのは何故だろうか?
壁画だったら絵の様に書いてもいいだろうに、何故模様だけ残したのか……。
それとも長い事誰も来てなかったから、劣化して色だけ落ちた?そんな訳ないか。だとしたらこんな綺麗に剥がれ落ちる理由無いもんな。
壁に夢中になっている内に急な爆発音と戦闘音に振り返ると、ガイヤさんが天井に張り付いたトカゲを火精術で撃ち落して、止めを刺していた音だった。
まあ模様にヒントは無さそうなので、奥に進むといつものやたらと深い吹き抜け。
造りはいつも変わらない。つまり深いこの吹き抜けの底に邪神の尖兵がいるのだ……。
アンデルセンさんが杖を一振りすると、大量の光球が現れ、フワフワ辺りを漂い。そこらじゅうを照らす。
少し待っていると、底に着いた1個の光球が黒いぶよぶよした塊を映し出し……何かに飲み込まれた。
「なるほど、あれが邪神の尖兵かい。まあこの壁を直接降りれるようなプレイヤーはそうそういないだろうし、横道に入るとしようか」
吹き抜けの部屋の外周の通路を歩き、壁に入っていく通路を発見し、そのまま中に向かう。
ここから先は狭くなるが、ガイヤさんは平気でずんずん進む。
アンデルセンさんの発生させる光の玉のおかげで、先が見えているので心強いが、
敵の姿がはっきり見えるのが、ちょっと気持ち悪い。
何しろ、今まで影のように輪郭で把握していた敵の姿は、はっきりいってグロテスク。
魚と虫と甲殻類を生態系関係なく滅茶苦茶に混ぜたような姿に、自然と嫌悪感を覚えてしまう。
こんなんなら、敵の姿がはっきり見えない方が良かった。
救いは、敵が見えたと思った瞬間にはガイヤさんが火精で焼き殺してしまう事。
グロイと感じるものが燃える様に、何故か浄化されたようなすっきりとしたものを感じるのは自分だけだろうか?
「なんかアレだな。通路っつうより水路だなこりゃ」
言われてみると妙に水汚れの多い、道。
あからさまに狭く小さな通路は何に使うのかとも思っていたが、確かに水が抜けるだけならサイズはどうでもいいのかと、思い当たる。
階段のような物は一切無く、ただ斜めに続く道はヒトが通るにはどう考えても不便。
今迄あまり考えずに通路として使っていたが、もしかして人が入る場所じゃないのかな?
「しかし、何でこんな所に水路があるんでしょうか?」
「さぁ?建造した理由は分らないが、さっきのホールの上は水があるように見えたからな……。あそこから大量に水が流れ込んできたとしたら、それを何処かに送る為だろうな」
「……確かにコレまで他に二つ楔を解放しましたけど、どちらも同じ造りでしたね……。【帝国】内の取水地から、何処かに水を送る施設……何に使うんだろう」
「逆に何でここに邪神の尖兵が住み着いたのか不思議だぜ?取水地の下は魔素だまりにでもなるってのか?」
「そうか!白竜様は邪神勢力と戦った後眠りについた筈。つまり白竜様の重い傷ってのは魔素による侵食とか?だから邪神の尖兵を倒す事で、白竜様が自由になるのを助けるって事なのかな……」
「じゃあ、その白竜様に繋がってる水路って事か。今どこで眠ってるのかは知らないが、水源を繋ぐ事で何をしていたんだろうな」
「分りませんね……。でも白いって事は氷精と関係があったんだと思いますけどね」
「そうなのか?確かに氷精のエフェクトは白いが?」
「何か【帝国】内では保護色を必要とする弱い動物しか白くないらしいですよ。強いのに白いのは氷精と関係が強いからだって聞いてます」
「成る程ね~」
「あんた達さっきから魔物を私に任せきりだけどね……」
「あっすみません」
「いやソタローを万全な状態で送るのが仕事だから別にいいけど、弱い魔物ばかりで飽きてきたから私も会話に入れな!」
「あっじゃあ【闘技場】で強くなるコツを教えてください!」
「いい質問だね!最近のソタローの活躍は聞いてるし、私も注目してるからね早く戦えるようにアドバイスしてやろう!」
何か機嫌よくなったところに現れた虫のような甲殻類のような生き物を瞬殺と言うか、焼殺。
「よろしくお願いします。今はクエストで【帝国】の上のほうのヒト達とも【闘技場】で戦わないといけないので、凄く助かります」
お喋りしながらの水路攻略は何だかんだ楽しかった。狭い通路ながら今までと違って明るかった所為か、気持ちも明るかったのかもしれない。
そうこうしている内に、底に辿り着き、3体目の邪神の尖兵と相対する。