157.楔三つ目
巨大湖のほとりに集まったのは如何にもゴージャスな毛皮を肩から羽織る姐御と、
【帝国】仕様の羽飾りが温かそうな黒っぽいローブを身に纏う、怪しげな術士。
ガイヤさんとアンデルセンさんである。
なんでまたトッププレイヤーの一角と名高い人達が自分のクエストクリアに協力してくれるのだろうか?
腕組みをして待つ姐御に申し訳ないので、すぐに楔を打ち込んで地下への道を開くと、無造作に地下の遺跡に降りていく姐御。
姐御ほどにもなると、この程度警戒するにも値しないのだろうか?
「ふん!中は温かいね!全力出せそうで何よりさ!」
言うが早いか毛皮のコートをアイテムバックに仕舞うガイヤの姉御は相変わらず露出が多い。
「一応正面の氷に触れると試練が始まって、氷像と戦う事になります。何度でも復活するので核を手に入れないといけません」
「なるほど!テンプレって言うか様式美なのかね?その手に入れた核を何に使うんだ?」
「一応自分の武器になるので、奥の邪神の尖兵を倒す有力武器と言うか、唯一の武器になります」
「そうかい!つまり邪神の尖兵までソタローを送れば任務完了って訳だね。私もかつては精霊に頼まれて色々巡ったもんさ。こうして後輩のクエストに呼ばれるなんて感慨深いね~」
なんか全然問題無さそうなので、早速氷の壁に近づき中に閉じ込められた何かの破片を見るが、やはりそれが何なのか判別付かない。
氷壁に触れると粉々に砕け、氷像が三つ形作られ、
破片の行方を目で追ったが残念ながら、見失ってしまう。どこにあるか分かれば簡単に試練を越えられると思ったのだが、甘かった。
氷像の一体が、おもむろに足踏みをすると……。
ガイヤさんは即地面を殴り、炎が地面を走る。
アンデルセンさんも慌てず杖の石突で地面を叩くと、光る陣が浮かび辺りを照らす。
自分は何事か分からず、足に違和感を感じた時には移動を封じられていた。
「ソタローは元々移動は遅いんだからちょっとそこで耐えな!」
言うが早いか氷像の一体に殴りかかるガイヤさん。一撃で上半身が消し飛び、復活する間もなく下半身も粉々。
アンデルセンさんは攻めに出ず、待ちの構え。
確か近接戦闘が苦手の筈……自分が本来守らないといけないのに……。
「そう心配そうな顔すんな。まぁ、近接戦闘はさっぱりだが、コレでも【帝国】に落ち着くまでは方々回って色んな術をあつめてたから、対応力だけは任せておけ」
杖を一振りすれば、周囲にエフェクトを纏い、更に杖を振る度にエフェクトが増えていく。
多分バフの重ねがけなのだろうが、一つや二つじゃ無い。
何しろ床の光の陣も消えていないし、オーラの様に纏うエフェクト、周囲を浮き巡るエフェクト……。端から見るとアンデルセンさんだけ水の中にいるみたい。
「よし……来い……」
金魚が二匹現れ、アンデルセンさんの周りを漂う。一匹は黒い出目金、もう一匹は赤い琉金かな?
鈍い氷像の一体がアンデルセンさんを狙って近づいていくと、黒い出目金が丸い泡を吐き出し、氷像にあたった部分を空中に固定する。
そして赤い琉金が細いレーザーのような水流を吐き出し、動けない氷像を分解。
そのタイミングで自分にも一番大きな氷像が襲いかかってきたので、
殴盾術 獅子打
盾の縁でぶん殴り、
壊剣術 天荒
剣で真っ二つにぶった斬る。
下半身に膝蹴りを入れようとしたが、足が床にくっついてバランスを崩した所に、さり気なくガイヤさんが戻ってきて支えてくれた。
「取り合えず地面に対する術は持ってないのかい?」
「あります!」
壊剣術 天沼
剣の周りにフィールドが発生し、足が動く様になる。
「術は術で相殺だぞ。ソタロー」
いつの間にか余裕のアンデルセンさんもアドバイスしてきた。確かに地面系の術には天沼だと分っていたのだが、相手の攻撃が地面に対する物だと理解して反応するのにまだ経験が足りなかったようだ。
氷像が再び復活して襲い掛かってきても、完全復活前に金魚コンビが完全に動きを封じている。
ガイヤさん担当の方の氷像も燃え上がる火の柱に閉じ込められて、ずっと溶かされっぱなし……。
残る自分担当の巨大氷像。
剣は地面に刺してしまっているので、ここからは<蹴り>と盾でボコボコタイム。
アンデルセンさんからバフを貰い、ガイヤさんと粉々になるまで殴り潰せば、足元からコロンと破片が転がり出てきたのですぐさま拾う。
〔竜の爪片〕
……どうやって使うのだろう。すでに歯片と鱗片で両手が塞がってるのに……どうしたものか。
取り合えず全部握りこむと、ブーツの上から透明な氷を纏い、更に爪先から爪状の突起が現れる。
手に握りこんでも足に効果があると……。便利だけどちょっと釈然としない。
まあ、でも白竜様の装備だし、何かもうそういうものだと思って受け取っておこう。
「それが、邪神の尖兵を倒す装備かい?中々様になってるじゃ無いのさ。じゃあお次は奥の邪神の尖兵を顔を拝みに行くかね」
「ん~思ったより余裕あるし、偶にはこういう気楽なのも悪くないな~」
自分は正直来るたびに緊張する楔なんだけど、この人達クラスだと、ちょっとした行楽と変わらないらしい。
もっと鍛えないとな~。