156.忘れてた訳じゃない
「何言ってんだ?素材が欲しけりゃ、それなりに国から融通できるぞ?」
「いや、なんか色々注文があるんですよ。温かくてすっきりとしたシルエットで毛っぽくない素材と、篭手に合う素材と、全身タイツに向いた素材なんですよ」
兵長に相談した所、何か普通に融通してくれるとか言ってるけど、ゲームで普通に供給されちゃいけない物じゃ無いの?
普通は魔物とか倒して集めて色んな装備を作るのが楽しみって言うか……。
「ふむ……この前の楔の時国務尚書から、何かあれば便宜を図る様に言われてるんでなちょっと位我侭言ってもかまわんぞ。もしくは希望があって狩りに行きたいなら協力もするしな。よっぽど拘りがあるなら、白竜様の楔をもう一つ解放すれば、かなりの報酬が期待できるな。それこそ国宝のコピーどころか、その物の可能性も……」
「いや、国宝は流石にいりませんけど、楔をもう一つって、そんな簡単に言われても」
「まあな、そこはお前のタイミングでいいが、西部の巨大湖にも楔が有るから、攻略に乗り出してもいいんじゃないか?」
「あっ……」
そうだった~。忘れていた訳じゃ無いが、過去二回の苦戦からちょっと見て見ぬ振りしてたんだよな~。
「丁度今はお前の中隊も動かせない訳だし、なんならニューターの知り合いでも誘って行ってみろよ」
「いや、そんな行楽みたいに言われても困るんですけど」
「あまり気負うなって事さ。お前はすでにそれなりの実力はあるから安心して当って砕けて来い」
兵長がそういうなら多分攻略できない事は無いんだろうが、問題は誰にお願いするか。
何しろ誘ってってわざわざ言うんだから、単独で行くのはちょっときついかもね!って言う前振りじゃない?
邪神の尖兵は結局自分が戦う事になるだろうが、そこまでの道中一緒に行ってくれる人。
普通は皆ボス倒したいもんな~。ビエーラさんもカヴァリーさんもいい人だからさらっと助けてくれたけど、いつもいつも頼るって言うのもな~。
どうしたものかと考え事をしながら【古都】をトボトボあてどなく歩いていると、
「なんだ?何かあったのか?」
「ああ、アンデルセンさん。いやクエストでプレイヤーの力を借りる必要がありそうなんですけど、誰に頼もうかと思って……」
「おいおい、そういう面白そうな事は一番最初に俺に相談する約束だろうが!」
「そんな約束した覚えないですけど、問題があるんですよ。敵が邪神の尖兵って言って通常武器じゃ倒せないどころか、装備破壊してくる可能性があるんです」
「あ~何かこの前倒したクラーケンも邪神の尖兵化してたから【教国】との共同作戦だったんだよな~。ソタローもそういう感じか?」
「いえ、自分は邪神の尖兵を倒す装備を持ってるんですが、普通誰でもボス倒したいじゃないですか。でも自分しか戦えないって言う状態でして……」
「じゃあ、集団戦じゃ無いのか。パーティでダンジョンかなんか潜って、トドメはソタローのものだから気にしてたと。でもクエストだったら他のメンバーにも報酬あるんじゃないか?」
「一応【帝国】から報酬はでます」
「よし!ここは俺がその話に乗ろう!問題はそのダンジョンの構成によってある程度メンバーの選定が必要になるって事だな。何か注意点とかあるのか?」
「今までと同じなら、最初は試練って言う何度でも復活する氷像の核を手に入れなきゃいけないですね。その後はちょっと癖のある水中生物を倒して進むんですけど、装備を削ってくる蟹の泡が面倒な感じですかね?割と狭くて暗い場所なので対応するスキルが必要です」
「ふぅん……ダンジョン内だが、中距離攻撃が必要で尚且つ<暗視>系持ちじゃ無いときつい訳か。うちのボスは武器がでかいからダンジョン向きじゃ無いな……。小型で取り回しのいい武器持ちで中距離も可能……。あっ丁度いいのがいるわ!今度日付け決めて一緒に攻略しようぜ」
「え?そんな簡単に決めちゃって大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫、断られたら断られたで候補は何人かいるし、全員断られたら一旦二人で様子見に行こうぜ」
アンデルセンさんの人脈って一体どうなってるんだろうか?
幾ら報酬が出ると言っても、美味しい所は自分が持っていってしまう事になるのに、全然平気そう。
ちょっと変わり者だが面倒見のいい【帝国】プレイヤー達はお人好し過ぎるんじゃなかろうか?
自分にとってはありがたいことだけど、逆に何か頼まれたら全力でやるしかないか。
折角クエストを手伝ってもらうのに自分が足を引っ張っていてはお話しにならない。決行日まで入念な準備をしておく。