152.森喰いの森
「「せーの!」」
急に視界が開けたと思ったら、両脚をチャーニンとスルージャに掴まれていたので、状況が一瞬良く分らなかったが、
どうやら自分は頭から雪原の深い雪に突っ込んだらしく、二人に引っこ抜いてもらったようだ。
「ありがとう、それで状況は?」
二人が指差す方向にはまるで雪の丘の様になった寝そべる白い毛の巨大マンモス。
「登って倒すしかないか……『行きます!』」
戦陣術 激励
士気を高めて再び巨大マンモスの元に向かい、身軽な【偵察兵】達に先に胴体から登ってもらう。
どこから取り出したのか、ロープを下げられ【歩兵】や【衛生兵】や【弓兵】も登っていく。
問題は自分とムジーク。
仕方ないので自分達は相手の足まで向かい、折った脚を斜めに歩いて登る。
「しかし、普通白い魔物と言うのは弱いと相場が決まっているものなんですがね……」
「え?そうなんですか?」
「ええ、保護色になっていて、隠れなきゃいけない生き物は白やそれに近い色のことが多いですよ【帝国】では」
いや、今の被害を考えればどう考えても弱くないでしょう。被害は尋常じゃ無いよ?
二人で話しながら巨大マンモスを登るが、今の所マンモスに動きは無い。
足場は長い毛が絡みつき妙に歩きづらいが、それは雪原も同じだし我慢して、寧ろ絡みつく毛を引き千切りながら歩く。
そして、そろそろ合流と言う所で喧騒が聞こえ、急いで状況確認。
「何かありましたか?!」
「毛の中から大量の魔物が発生しました!急いで対応中です!」
大急ぎで皆のいる巨大マンモスの背中中央部に向かうと大量の虫達に囲まれている。
温かい巨大マンモスの毛の中で生活していたのだろうか?
仲間を救うべく自分も早速参戦。
肉食獣並みのサイズのダニが襲い掛かってくるが、こんなやつに血を吸われたら干からびてしまう。
重剣と盾で殴りまくり<蹴り>で文字通り蹴散らし、ずんずん進むと味方と合流。
「先ずはこの虫達を駆除します『行きます!』」
戦陣術 激励
戦陣術 円陣
向こうから襲ってくる敵にはやっぱりコレ。陣地を形成するように動かず敵を迎え撃つ。
一体づつは大した事無いダニ達を駆除して一息つくが、問題はここからどうやってこいつに止めを刺すか。
「こいつ動かなくなっちゃったけど、どうしようか?」
「魔物なら弱点になる魔石を何処かに保有してる可能性が高いですし、探して潰すしかないんじゃないですか?」
と言う意見に、魔石探索開始。
うろうろとしていれば、毛の中からダニの奇襲を受けるが、さっきのような大群でもない限りどうという事もない。
頭部に大きな石を見つけたので割れば、頭の中にファンファーレが鳴る。
ラストアタック
最多ダメージ
の二つが自分の特典。
一つは手袋の素材。
もう一つが靴の素材かな?
まああとで<分析>するなりクラーヴンさんの所に持っていくなりすればいいかと鞄に仕舞いこみ、
巨大マンモスを降りる。
生き残った仲間達が巨大マンモスを<解体>しているが何しろサイズがサイズ。何日あっても終わらないんじゃないかと、思いつつ作業を眺める。
ふと気がつくと遠目に獣らしき姿がチラホラ見えるが、別に攻撃を仕掛けてくる風では無い。
「おおぉぉい!」
遠い声にそちらを見ると、雪原の豹がこちらに向かって手を振りながら歩いてきていた。
相変わらず足場の悪い雪原でも素早く歩き、なんとも健脚なヒトだ。
「何かありましたか?」
「村の奴から濃い靄が出てるって聞いたから、森喰いと会えたかもしれないと思って様子を見に来たんだろ。下手すりゃ全滅だってあるんだからその場合は上に報告しないといけないしな」
「確かに被害は甚大ですよ。大味な相手でしたけどかなりの数の隊員がリタイヤです」
「そうか~。まあ絶望的なサイズの割りに逃げるだけなら何とかなる相手だったりするんだが、戦うとなるとやっぱりきつかったか」
「まあ正直な所、足一本潰しただけで動けなくなっちゃったんで、ある程度の被害を我慢して突っ込めば何とかなる相手でもありましたよ」
「それが、普通出来ないんだがな~。近づくだけで異常なサイズの雹が降るだろ?あれで全滅なんて話もあるくらいだからな」
「そうなんですか……。ところでこいつ幾ら<解体>しても全然作業が進まないんですけど」
「まあこの巨体だしな。放っておいたら勝手に肉食獣達が食いに来るぞ。そしてこいつの周りはいつの間にか森になるんだ。俺も村の者を呼んで食い散らかされる前に皮と毛を集めにくるか」
「こいつの素材って買えますか?自分は耐性装備を手に入れてくるように言われてるんですけど」
「成る程な。氷精の宿る装備が欲しいならこいつの毛がまさにそれだぞ。本来保護色なんて必要ないコレだけのサイズの魔物が白いのは毛に氷精の力を溜め込んでる所為さ。隊員に集めるように伝えればいい。幾ら持ってかれたところで誰も困らんから。肉食獣に食い荒らされる前に全部刈り取れる奴がいたら人間技じゃない」
と言う事なので、仲間に毛を集めてもらうように頼む。
報酬の一部をこいつの毛で貰えば、一応の目標は完了だ。