149.雪原の村
「やいやい!余所者!俺と勝負しろ!」
雪原にぽつんと大樹が一本、その麓にまばらに木の生えた村を遠目に確認し、見えてからかなりの時間をかけて何とか到着したのも束の間、
若い男性に絡まれたんだが、どういう事だ?
「おい!軍の命令で来てる相手に喧嘩売ってどうするんだ?しかも雪原を渡ってきたばかりで、疲れてる相手に万全の状態で挑むなんて卑怯が過ぎるぞ?」
まあ、ずるい気はするが、卑怯って程でもない気がするけど?
「うるさい!村を出て腰抜けになったアンタを打ち倒したぐらいで、デカイ顔出来るほどこの村は甘くないんだ!」
「誰がデカイ顔してるってんだ。あと世界は広い。強い奴はいくらでもいるぞ」
「いいから勝負しろ!勝負も出来ないような奴ならこの村は相応しくない!」
「別に勝負くらい構わないですけど、この村ってもしかして皆こんな感じなんですか?」
「ああ、皆こんな感じだ。何しろ何にも無いから、やる事って言ったら勝負ばっかり、勝手に子供だろうがなんだろうが強くなるってな」
また随分武闘派の村に来てしまった。
「よし!決まったな!お前がこの集団を率いているなら、お前が一番強いんだろ?じゃあお前を倒したら全員俺に従えよ!」
どんな世紀末だ?
「アホか!軍がそんな事で動く訳ないだろうが!全ては積み上げてきた信用と実績がモノを言うんだ。あとルールは俺が決めさせてもらうぞ。場所は村内の広場。鉄壁の不屈は長旅してるんだから一戦のみ」
「別に自分はそのルールで構わないですよ」
「いいぜ!村のみんなの前でお前を倒して、余所者なんて大した事無いって教えてやるんだ!」
そして、村の広場に連れて行かれたので、皆にはその間に物資の荷降ろしを任せた。
特に何の合図も無く、村人が出てきて見物を始めた所で向かい合って立ち。
そのまま勝負が始まる。
相手が手に氷で何かを形成し始めたので、自分はバフを掛けておくことにしよう。
鋼鎧術 多富鎧
鋼鎧術 天衣迅鎧
相手が手に氷槍を形成し終えた所で、剣と盾を引き抜きいざ戦闘開始。
真っ直ぐ槍先をこちらに向け突っ込んでくるので、こちらはカウンター狙いの、
殴盾術 獅子打
上手く氷槍にぶつけてそらし、そのまま踏み込んで盾で殴りかかるが、槍の間合いを潰している間に一歩下がられて避けられてしまう。
振り切って隙が出来たと思ったのだろう、相手は更に突き込んできたが、
壊剣術 天荒
剣を振り上げて槍を打てば、槍先が折れて飛ぶ。
相手があっけに取られている内に、盾を体の前に構え直し、
殴盾術 獅子追
盾で体当たりをかまして転ばせる。
そのまま足を剣で貫き地面に串刺しにして、
壊剣術 天沼
武技 踏殺
武技 潰首
そこで、立会人をしていた雪原の豹が、ストップをかけたので勝負終了。
相手の若者は何処かに運ばれていったが、
「なあ!アンタ!次は俺と勝負な!本当のこの村の槍捌き見せてやるぜ!」
「いやいや、槍はもういいだろ!俺の二本斧の方が面白いぜ!」
「何言ってるんだい!あんたらみたいな、ひよっこじゃ相手にならないよ。アタシが本当の<氷精術>を見せてやるよ」
「おい!こいつは長旅で疲れてるんだから、今日はもう駄目だ!それに軍の仕事であの厄介者を倒しに来てるんだから、お前達と遊びにきたんじゃ無いんだからな!分ったら【輸送】してもらった荷物の荷降ろしでも手伝って来い!」
言われるが早いか群がってきてた若い村人達は村の入り口に走っていってしまったが、妙に嬉しそうだったのは、多分辺鄙過ぎてやっぱり物資の【輸送】が滞りがちな土地柄なのだろう。
「敢えて、この村に残っているのは何か理由があるんですか?」
「いや、生まれた土地を大事にしているだけさ。皆のびのびと育ってるし、俺は別にコレでいいと思ってる」
「じゃあ、逆に何で軍に所属したんですか?」
「まあ、外の世界を見てみたかったって所か、俺も若い頃はあいつらみたいだったし、村の中で一番強い奴が、世界で一番強いと思ってた。でも実際には強い奴なんてごろごろいるし、見たことが無い物もいっぱいある。でもそれらを見てきて、やっぱり生まれ故郷はいいなって思うわけだ」
ふむ、確かにこのヒトにとっては世の中このままでも何の不満も無いのだろうし、改革派には乗らないか。
変わらない幸せっていうのも、確かにあるよな……。
しかし、辺鄙な土地で偶に来る物資が楽しみな暮らしをしているなら、もう少し栄えた場所との行き来がしやすくてもいいような気がするけどな。
それにはこのだだっ広い雪原がネックって訳か。
足場の悪い場所に魔物が住んでいる訳だから、それはヒトが行き来しづらいのも仕方ない。
レギオン級魔物を倒して、少しでも交通の便がよくなるように頑張るしかないか。
その為にはまず腹ごしらえ。
雪原を歩き疲れてる中隊の皆にご飯をつくねば。
なにやら奥の倉庫から肉の塊を出してきて、村のヒトがくれたので、それでご飯にしようと思う。
と言っても自分の料理レパートリーは限られたものだ。
ダイス状に切った玉ねぎを炒めて火を通したあと、人参大根もダイス状に切って鍋に突っ込んでいく。
肉も一口で食べられるサイズにして、鍋を具でいっぱいにして水と料理長から貰った青い瓶で味付けすれば、やたら具沢山スープの出来上がり。
あとは、肉の塊見ても何のインスピレーションも降りてこないので、シンプルに玉ねぎと肉を交互に刺して串焼きに。
幸い土地柄、炭だけは安く大量に買える【帝国】東部でまとめ買いした物があるので、適当にそこら中バーベキュー状態でそれぞれ好きな焼き加減で食べてもらう。
いつの間にか食事に村のヒトも混じっていたが、まあ上手く溶け込めたのなら良かった。