15.賑やか蠍狩り
川原には一匹の獣が水を飲んでいた。
こちらに気がつくと襲い掛かってきたが、その姿は雪豹?灰狼よりも素早く俊敏に動く魔物だが、真っ直ぐ自分に向かって来た所を盾で殴り飛ばす。
雪豹が雪に転げた所でチャーニンの槍が腹を串刺しに、動けなくなった雪豹の首を狩って倒しきる。
素早くルークが<解体>し毛皮やら肉やら手に入れて川沿いを進む。
ふと<察知>に引っかかるので歩を止め、スルージャに目配せすれば自分同様隠れた魔物に気が付いていたのか、静かにうなずく。
先輩隊長の方を見るとどうやら目的の魔物らしい。
「先制攻撃はソタローがやってみろ。理由は3つ、経験のため、反撃を食らった時のダメージが一番少ないから、相手は甲殻で守られた敵だから打撃力のあるお前が一番ダメージを与えられる」
という事なので、雪の中に隠れる魔物を思い切り殴りつけて、速攻盾の裏に身を隠す。
雪から現れたのは白い蠍だが、サイズは今までの魔物より、かなりでかい。多分自動車位か更に一回りは大きいかもしれない。
そして、盾裏に身を隠していて正解だった。いきなりの衝撃に思わず尻餅を付いてしまう。
よく見れば、頭上高くから雪蠍の尻尾で攻撃されたようだ。上からの衝撃で押し潰される様に尻餅ついてしまったのか……。
すぐに立ち上がり、再び盾を前に対峙する。
「はい!自分とスルージャは目を狙って牽制するよ~。遠距離攻撃は相手の動きを封じるように動くのが基本だからね!急所を狙ってダメージと牽制!これが自分達の仕事だよ!」
すると矢と投げナイフで蠍の目を攻撃しはじめた、何しろ8つもある黒々とした小石のような感情を感じさせない目!
それこそ目から感情を読み取る事は出来ないが、動きがかなり鈍ってきている。
そこをチャーニンが雪蠍を突き刺すが、甲殻に阻まれて突き刺さらないようだ。
「おら!打撃じゃなくて鋭さで勝負する奴は甲殻の隙間を狙え!」
先輩とルークの指示に従い、こつこつダメージを与えていく。そして自分は相手の攻撃を待つ。
しかし、他のメンバーの攻撃が的確なのか、雪蠍の機先を制するようにダメージを与えているので、出番が来ない。
それでも、強引に鋏で攻撃してきた所をタイミングを合わせて剣でぶん殴り、さらに突き放すように前蹴りで顔を蹴り飛ばす。
そして、再びの尻尾攻撃!コレは待ち構えていたので、しっかり盾で跳ね返す。
隙が出来た所に剣で一撃入れる。チャーニンの槍攻撃と違い自分の剣攻撃は比較的効くのか、悪くない手ごたえだ。
その後もちくちくと確実に削っているうちに、ぺシャッと脚から力が抜け伏してしまう雪蠍。
威圧的に高く持ち上がっていた尻尾も雪に半分埋もれ、動かなくなったのでルークが<解体>する。
「まあこんなもんよ。ちゃんと連携すればどうって事ないだろう。この調子で狩っていけば、ソタローの装備用素材もあっという間に集まるだろうし、俺達も今日は上手い酒が飲めるってもんよ。行くぜ」
一度倒してしまえば、勝手は大体分かった。
川沿いを歩いていれば、見慣れた魔物達。雪鳥蜥蜴に雪百足に雪鼠。これは誰かしらが、適当にさくっと倒す。
時折雪があからさまに、こんもりと山になっている場所に雪蠍が隠れている。
幾ら倒し方が分かっているとはいえど、流石に普段戦う魔物よりはだいぶ大きいので警戒は必要だが、戦闘パターンが分かれば、どうという事もない。
なんなら先輩とルークは見てるだけでも、時間をかければ3人で倒せる相手だ。
一回だけ雪蠍の尻尾攻撃がチャーニンに当たり、その場に崩れ落ちたが、すぐに先輩が雪蠍の攻撃が当たらない場所まで引きずって行き<手当て>を施す。
どうやら、蠍の毒を受けて動けなくなってしまったらしいが、自分はまだそういった重篤な状態異常をくらった事が無いので、毒で崩れ落ちてしまうというのがよく分からない。
何しろフルダイブVRなんてのはコレしか存在しない。毒を食らった時の感触なぞ分かろう筈もない。
普通なら継続ダメージとかじゃないのかな~と思ったのだが、まあ敢えて食らってみて感触を知りたいとも思わない。
何しろ全身鎖の鎧を纏って盾まで持ってるのだ。蠍の尻尾が刺さるなんて事は早々ないだろう。
それでも、尻尾には細心の注意を払いつつ、仲間を護衛、隙を見て攻撃!
とにかく相手が手を出したそうな瞬間に狙って攻撃すれば邪魔できるので、
盾を構えての待ち、からの出鼻をくじく攻撃。
雪蠍が自分以外に攻撃を仕掛けようとしたら、体を張って割って入る。
ひたすら雪蠍狩りを続け、
「さて、そろそろ一旦戻るか!多分慣れてきて、まだ何匹でもいけるとか思ってるだろうが、そういう時が一番危ないからな」
正直な所まだ物足りない気はするが、先輩の言う事も正しいだろう。
装備を作るには十分な素材も集まっただろうし、まあいいかと元来た道を戻っていると、川の反対側にデカイ大岩が鎮座している事に気が付く。
「あんな岩ありましたっけ?」
「へ?本当ですね、あんな所に岩なんてありましたっけ?」
「うっあっああ!アレはまずいですよ!スルージャは先に北砦の方に走って、近隣を【巡回】してる兵に声を掛けて!部隊クラスの魔物が出た!」
スルージャは、一瞬困惑したようだが、すぐに北砦の方に走っていく。軽装だけあってかなり足が速く、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「俺達もとにかく全力で北砦の方に走っていくぞ!部隊級の魔物を相手に出来る戦力じゃねぇ。道中仲間を集めてから、相対するぞ」
言うが早いか、駆け出す先輩隊長に付いていく。
しかし時すでに遅し、天に突き上げるように伸ばした尻尾。
そして川を物ともしないサイズで一気に川を渡ってくる黒い蠍。
「雪蠍の仲間なら何で黒いんですかね……」
「そういうのは後にしろ!とにかく少しでも距離取るぞ!」
「【帝国】の生物は大体白に近い色なんですよ。ただ捕食する側の獣は寧ろカラフルなんです。不思議な物で、自分の敵となる相手がいないと魔物でも慢心するものなんですかね?」
そんなお喋りをしながらも北砦の方に向かい走る。
しかしなにぶん、下は深い雪、さらに川沿いから北砦に向かうには坂道を登っていく必要がある。
何よりこの中で走るスピードが一番遅いのは自分。
あっという間に自分の上にかかる大きな影。
「ソタロー!ガード!!」
先輩の声に黒い蠍に向かい合い、盾裏に身を隠す。
瞬間、跳ね飛ばされ文字通り宙を舞う。
コレが現実だったとしたら自分は一体何に轢かれたのだろうか?
2トントラックか何かか?いやもっと、質量もサイズもありそうだ。
ゲームで良かった。そして地面が雪で良かった。遅れを取っていた分を飛ばされた事で、小隊に合流。
そして、先に北砦に向かったスルージャが近隣で【巡回】していた者達を集めて、こちらに向かってきていた。