148.強化計画
ある日ログイン。
【兵舎】の宿舎から出て受付に向かうと、兵長に声をかけられる。
「準備できたぞ」
「例のボス討伐ですね」
師匠兄弟に強化計画として氷を使うボスを倒す事を勧められたので、そのまま兵長に報告したら特に反対される事は無く。むしろ積極的にそのボスを倒す為に段取りをして貰える事になった。
「場所は西部平原。本当に雪しかない土地にそいつはいる。何にも無いが故に貿易中継地点に使われているんだが、そいつの所為で色々と経済にダメージを負う事もしばしばだし、さっさと倒してもらえれば、方々助かる」
「西部の平原……雪原の豹……」
「よく知ってるな。大昔本当に何もなかった頃、氷精と契約して氷で武器を作る事で魔物を狩ってた一族の通り名みたいなものだな。そしてそこに住む厄介者も氷で攻撃してくるから、まあ楽しんで来い」
「楽しんで来いって、この前【闘技場】で雪原の豹相手に苦戦したばかりだって言うのに……」
「そういう負の記憶はさっさと上書きしちまった方がいい。術を使う敵と戦いまくって戦い慣れたらいいだけの事だ。ついでに運んでもらいたい物資も用意してあるから稼ぎも悪くないし、楽しい事だらけだな」
言いたい様に言われ、そのまま送り出された。
最初に目指すのはいつもの中継点【黒の防壁】だが、ここまでは慣れた道なので何も問題は無い。
【帝国】の中央である【黒の防壁】を越えれば西部になる訳だが、やはり商業が安定している地域だけあって、道行が楽。
問題があるとすれば東部ほど森が深くないので、反比例して雪が深い事。
装備やスキルで補完して歩けない事は無いが【重装兵】は疲れる上、足が遅い事この上なし。
魔物の少ない道の方が歩きづらいってのは困り物だ。そりゃ西部のヒトは軽量になるよね。
途中立ち寄る村や町で物資を降ろし【輸送】も一緒にこなして行くが、西部はやはり物流の便がいいのか、そこまで困っている様子は無い。ただ東部の産物を西部で買い取って加工し、海を渡ってどこかの国に輸出されるみたい。
もしくは大河を渡って【王国】や【馬国】に送られたりとか、そんな感じ。
まぁ、木と鉄だけはやたらといっぱいあるからな~。
そんなこんな辿り着いたのは、本当にただの雪原。
何か遭難しそうなほど広いだけの雪原なんだけど、確かにコレは何をどうして生活したらいいのか分からない。
前の巨大湖なら確かに湖中に魚の一匹もいるし、外延部には木も生えてたし、生きていけないことも無いんだろうけど……。
そう言えば兵長が何にも無さ過ぎて、氷で武器作って魔物倒してたって言ってたな。魔物肉食べて生活してたって事か……気合入った土地だな。
そして雪原の隅には、まるで砦の様な街が一つ。
一先ず落ち着くためにその街に入ると、外壁こそ物々しかったが、中はかなり賑わって猥雑とした雰囲気。
「なんだか凄い所だな」
「交易の要所とは聞いてたが、ここまでとはな」
チャーニンもあっけに取られているようだ。
【古都】も都だけあってヒトは多いが、人混みの様な雑然とか猥雑とは程遠い。
しかし、この街は息苦しい程ヒトがひしめき合って、外の雪景色を忘れるくらい暑い。
「こりゃ、自分達は別の町なり村なり探した方がいいかな」
近くにいた部隊長達に意見を求めるとそこに、
「おっ来たな鉄壁の不屈!何か対術の為にここの中隊長級ボスを狩りに来たんだってな。勝っても気を抜かず寧ろ己を高めようってんだから、感心するしかないぜ」
雪原の豹が、待ち構えてたかのように現れるんだが、やっぱりこのヒトの出身地か。
「先日はお世話になりました。ところでこの辺に逗留出来る町か村を知りませんか?」
「おう!それで来たんだよ。一応この雪原はこういう物資集積所みたいな町がいくつかあるんだが……」
「この規模で町だったんですか!」
「ああ、荷物が多くてどんどん拡張してもすぐに埋っちまうんだ。だが外壁をちゃんと作らないと魔物に襲われるから、中々難しいところなんだよな。それでだ。お前達なら危険な村でも問題ないだろ?」
「まぁ……一応武装集団ですから」
「だよな!一応雪原の大元にあたる村があるからよ。そこに案内するぜ。その方が目当ての魔物にも近いし、都合が良い筈だ」
「大元の村って事は大昔貧しかった頃の生活を引き継いでるとか?」
「そうそう!俺も結局そこと血のつながりがあるんだが、皆<氷精術>の使い手だし、危険な村で未だに生活してるだけあって、皆それなりの使い手だぜ」
そうして腰を落ち着ける間もなく、また移動。
まあ【輸送】物資など置いていく必要も無いほど物に溢れた町だったし、別に問題ない。
雪原の豹が、道なき道を歩むスピードはかなり早い。
さすがこの地の出身者。闘技のフィールドがここだったら、勝てる気がしない。
何しろ自分は一歩進むのにも、どすっと足が埋まる。靴とスキル揃えてもこの調子じゃ、何をどうあがいても距離を詰められぬまま、術撃ち放題でやられる未来しか見えない。
「どうやったら、雪道をもっと速く歩けますかね?」
「いい靴履いてそれじゃ、あとは軽くなるしかないだろうな~」
「軽くなるって!ダイエットしたところでたかが知れてますよ」
「いや、なんか【馬国】の方には重さを操る精霊ってのがいるって聞いたことがあるけどな?」
重さって……重力も精霊が司ってたの?