144.宰相派?
喫茶店で待っていたのはさっき闘ったばかりの【上級士官】?
「お疲れ様です。相手していただいてありがとうございます」
「そう堅くなるなよ!あれだろ?白竜様の楔を2つまで解放したんだろ?凄いな!ニューターの【上級士官】候補と聞いて興味があったから、早速一戦させてもらったが、筋力も中々のものだし、ちゃんと推すから安心しな」
「ああ……はぁ……ありがとうございます。ところで宰相派というのは?」
「あ?違ったのか?今の【帝国】のあり方に不満のある所謂改革派の事なんだが……白竜様と【帝国】統一の伝説は知ってるだろ?」
「ええ、まあある程度聞いたことはあります」
「本来は白竜様を中心に武家と、文の宰相家だった訳だ。それが【帝国】統一直前に白竜様が強大な敵と戦う為に姿を消し、今の皇帝家が中心になった事で、武に偏っちまったんだが、まあ【帝国】民には上手い事合っちまって、宰相派不遇の歴史になっちまったって訳だな」
「国務尚書には何度かお会いしましたけど、そんな不遇なんですか?」
「ああ、そりゃ宰相家の方々は国を富ませる事が国と民を強くする事になると主張しているが、今の軍中心の体制ではその発想は中々受け入れられない。ヒトが強けりゃそれで国も強くなるっていうな……」
「何となくその発想は分りますけど、それと自分が宰相派って言うのは?」
「あ~まず、宰相がソタローを気に掛けてるって言う噂が一つ。【帝国】民なら誰もが気に掛けている筈の白竜様復活に力を注いでる所が一つ。そして何よりその【帝国】のあり方を体現する様な筋力スタイルだな」
「筋力で何で宰相派って言われるんですか?意味分からないんですけど」
「なんて言うか、宰相派は現体制から見れば改革派なんだが、実際は国民感情に沿った伝統派でもある。白竜様を中心として文武を分ける事を目標としてるしな……そしてスタイル行動共に【帝国】らしさを体現してるソタローは国民感情に沿ってて結構人気があるって事だ」
「人気があるのはありがたいですけど、逆に現皇帝の体制は人気ないんですか?」
「ん~力を信奉する部分は国民の性格とあってるし、だからこの治世が続く訳だが、問題は東部西部の拗れだろうな。西部は商業が盛んで経済の発展著しいし【帝国】発展において重要な地域だ。何しろ【帝都】が西部にあって貴族達はその恩恵に浴してる訳だからな。そして西部風の細身の幹部が政治の中心に多い」
「まあでも【帝国】を富ませるには仕方ないですし、国を富ませたい宰相派とは相性が良さそうな状況ですね」
「うむ……実は宰相派は伝統派でもあるんで本来は骨太な東部風と相性が良い筈なんだが、国を富ませると言う目標がある以上後ろ盾は西部商人。皇帝派は東部農家出身が軍に多い所為で東部が後ろ盾になってる拗らせ状態なんだ」
「……軍中心の皇帝は東部が後ろ盾、国を富ませたい宰相派は西部が後ろ盾、ところが宰相派は実は伝統派で、皇帝派は西部寄りの幹部を多く抱えてる……何その状況?」
「意味が分らないだろ?その点ソタローお前は【帝国】伝統派そのもの。宰相としても是非欲しい人材だろうな。本来求める姿に近いのだし、東部人気を集めるにも有効だ」
「自分が宰相に付くことで宰相派が大きな力を持つとして、それで国のバランスが傾くほどなんですか?」
「……皇帝派に例の隊長が付かなければな……何しろ軽量高速で西部風のスタイルに【輸送】を中心として動いている以上西部商人も隊長を放っては置けない。それでいて東部輜重隊に所属して貧しく行き来しにくい東部の物資【輸送】をやってるんだから【帝国】全域の人気が高い」
「つまり今風の隊長と昔風の自分が【帝国】内の人気を二分してるんですか?……ちょっとショック」
「ま、まぁあくまで伝統的な姿かどうかって話だから、歳とかの問題じゃ無いからよ。それに国を傾けようとかそういう事じゃなくて、白竜様復活にもっと力を注ぐとか、軍中心の状況をもう少し変化させるとかそういう話だから、重く考える必要は無いぜ」
「ところで【上級士官】の身分にあって、なんで軍中心の体制を変えたいんですか?」
「ああ、うちの家系は元々西部も一番西。海岸沿いの出身でな船に乗って海の魔物を狩る海の戦士だった訳だ。【帝国】統一前はそこまで栄えていた訳じゃ無いらしいが、それでもあちらこちらへと自由に海を渡ってたらしい」
「はぁ……略奪とかですか?」
「流石にそんな事はしないんじゃないか?海の魔物はでかくて手強い。しかも北の海は落ちれば凍えかねない。海上の者は皆力を合わせたと思うぞ。それでな、実は【帝国】の更に北まで冒険に出かけたっていう言い伝えがあってだな」
「【帝国】の更に北?」
「ああ、普通は凍ってそれ以上進めないはずなんだが、北周りで【帝国】の外側を渡る水道があるらしい、うちの家系は代々その伝説を確かめようと言い伝えを残してるんだが、未だ許可が下りたことは無い」
「何ででしょう?行ける地が増えればそれだけ【帝国】も発展するだろうに……」
「まあそこが現体制の限界さ。あくまで現実の積み重ねを信じ求めるのさ。夢を追う事を許さないって言うのかね」
「個人で出来るような事業では無いんでしょうね」
「ああ、そりゃ無理があるだろうな。商人に金を出してもらおうにも、その冒険に何の利も無いんだぜ。何しろ北に続く水道があるって言うだけの話だ」
「北にお金になるようなものが埋ってるとかでは無いんですもんね」
【上級士官】の地位にいても夢を追うことが許されない土地柄。
勿論リスクだけあって、リターンの無い話に乗るヒトはいないかもしれないが、ゲームなんだし夢くらい追っても良さそうなものなのにな……。