141.【座学】の日
「ふむ……それでは【帝国】集団術の特異性について分る者挙手!」
教官がミランダ様に代わって仕切っているが、どうやら分かるヒトはいないみたいだ。
勿論自分も分からない。何しろ他国の集団戦の特徴をそもそも知らないのだから、どうしようもないだろう。
ペンギン戦を終えて、何気に次の楔の場所も分ったが、自分一人の戦闘能力で果たして最下層まで再び行けるのか不安だったので、一旦引き上げてきた。
何より集団戦についてもう少し学びたい気持ちがあったので、早速【座学】に参加。早速難しい質問に目を逸らす事しかできないのが今の状況。
「仕方ないぼうず共だね。隣の【鉱国】では全員で同時に身体強化術を使う事で、その効果を倍増。【馬国】では馬と一体になって自在に広範囲を走り回る。【砂国】では戦闘員達の恐怖心を減らし、好戦的にして混戦を得意としているね。【海国】は船と風を自在に操り、【森国】は罠や隠蔽からの奇襲を得意としてるし、【王国】は騎士を中心とした塊を振り分けバランスよく平原って言う障害物の無い地域で戦力を分散させて戦う。【教国】は敵を囲み集団で広範囲術を使ったりするね」
なるほど!と言いたいところだが、じゃあ【帝国】の特徴は?と言われてもよく分んない。
「ソタロー!お前はそれなりの階級なんだ。何か言ってみろ!」
教官の無茶振りが来てしまった。
「ええ……本来なら個人の筋力にモノを言わせそうなのに、集団戦の時はある程度武装や力を揃えるって事ですかね」
「ハズレだね。いい線はいってるけども、陣形を組む事だよ!形を整える事で、力を合わせ本来以上の力を発揮するのが【帝国】<戦陣術>の特徴さ」
「うむ、お互いがお互いを守り、タイミングを合わせて攻撃する事で大打撃を与える事こそ、【帝国】兵のあり方だな」
「じゃあ、その陣形の由来ってなんですか?何か必要があって出来たんだと思いますけど」
「いい質問だ!それは分らん。世界は広がり再び分断される事を繰り返してきた。どこから入ってきたものなのかはよく分っておらん。ただ遠い昔、大霊峰よりも更に東からヒトがやってきて伝えたものだと言われておるし、今の<戦陣術>の原型も残されておる」
「うむ、諸君がコレより一層鍛え上げ、歴史を背負うに相応しいと見なされれば受け継ぐ事もあるだろう。勿論今の<戦陣術>も多くの戦いの果て、編み出されたものだし、悪いものでは無い。しかし原型とはシンプルにして強力なモノ。力を求めれば、いつかたどり付く事になるだろう」
なるほど、より上級の<戦陣術>が【帝国】国内には存在するのか……。
つまり【帝国】プレイヤーで集団戦使いの自分は陣形使いだった訳だ。
そりゃ仲間をバラバラな状態で戦わせても、ぱっとしないのが自明の理。
勿論出来れば隊形をちゃんと組んだ状態で戦いたいのは山々だが、結局いざ逃げられたり、突っ込まれて崩されたらそのまま流れで、バラバラで戦ってた気がする。
隊形と陣形の意識をもう少し高めないと、上は望めないか……。
「じゃあ、陣形を組む上での注意点やコツはありますか?」
「それはそれぞれの感覚に起因する事が多いのぉ。例えば左右軍で分ける場合、どちらかが盾どちらかが剣という感覚の者がいれば、双頭の蛇の様にどちらで合っても相手の弱い部分に食いつき、それに従って役割を変化させる器用な者もいるぞ」
「基本は核となる隊をどこと捉えるかだ。勿論兵種毎に特徴の違いもあるので、戦況によって核を変える様な柔軟な者もいるが、自分の隊の特徴をどうのように捉え、運用するかは指揮官次第という事だ」
ぐぅ……難しい。ゲームに求められるようなレベルの話か?
いや……視点を変えればいいのか。ゲームの世界から一旦思考を外せば、例えばカードゲーム。
コストの安いキャラで速攻自陣を安定させる人もいれば、序盤耐えて後半の高コスト高火力一気に殲滅タイプの人もいる。
勿論、特殊効果を連携させるコンボが得意な人だっているだろう。
つまり、自分の感覚がどれかと言うなら……高防御かな?
何だかんだ自分が前線に立つのが一番仲間の士気上げに手っ取り早いし、素早く戦況を動かすのがそこまで得意な方では無い。
最前に出て敵の先制攻撃を受け止め、砕く。そこからジワジワ押し込むのがある意味一番やりやすいかもしれない。
……でもそうなると【重装兵】隊中心の戦いになる……勿論後方支援の【弓兵】【衛生兵】と、戦場に散らして奇襲や情報収集に備える【偵察兵】隊は腐らないが、【歩兵】の使いどころが問題になってくるのか?
ん~考えどころだな。
一旦耐えてからの、次の手が欲しい。
いや、逆に考えてみよう……先に手痛い一撃を与えておいて、一気に攻め込むと見せて、ゆっくり押し込むとか、どうだろうか?
考え始めると色んな妄想が止まらない。どんな状況が今後想定されるのか、勝手に思いついては消えていく。
集団戦……深いな~。何でこんな面倒な方向に進んじゃったんだ……。頭が痛い。