140.ペンギン決着
気持ち悪くなる程の浮遊感。
しっかりペンギンにくっ付いていても自分の体重が一瞬失われるような感覚は、根源的な恐怖を感じさせる。
そのまま、何かに衝突した衝撃とその次の瞬間には息が出来ない事にパニックになったが、どうやら湖を突き破って、水中に引きづり込まれた様だ。
そのまま、泳いで遠くまで引っ張られていくのかと思いきや、イワトビペンギンは必死に上に向かっている?
あっという間に、再び湖上に上がってしまったが、何があったというのだろうか?
湖上に上がるなり、何とか自分を引き剥がそうと必死なイワトビペンギンだが、そうは行かない。
鋼鎧術 天衣迅鎧
更に負荷をかけて、イワトビペンギンを足止め。
高まる筋力でギリギリとイワトビペンギンを締め付け、必死に耐える。
気持ちはもう、こなきじじい。
既に足を持ち上げられなくなったイワトビペンギンは、翼で自分をはたく事すらできない。
ただただ暴れているが、自分には何の影響も無い。寧ろこうやってくっ付いているのが一番安全だ。
ふと、気が付くと一本の矢が湖上の氷に突き立った。
そして、そのままその数は増え、イワトビペンギンに攻撃を加えている。
動けない相手に一方的な攻撃、やはり自分はこのままじっとしていた方が良さそうだ。
仲間達がイワトビペンギンを囲み、一斉攻撃を仕掛け、焦っているのであろうイワトビペンギンの動きは激しくなっていくが、自分の所為で片足が動かず、逃げる事も出来ない。
どれ位経ったろうか、妙に温かいなと思ったら自分の周りが真っ暗で、どうしたものか……。
意を決してペンギンの足を離してみれば、どうやらペンギンの体に埋ってしまっているらしく、回りはフワフワ。
唯一硬い氷の地面を這うように進むと、急に目の前が明るくなり、ペンギンの下から這い出せたのだと、自覚する。
ひたすらペンギンにくっ付いただけなのに、妙に全身が疲れたのでそのまま空を見るように仰向けに倒れ、右腕を目の上に乗せてそのまま過ごす。
「お疲れ様ソタロー!」
そう言ってスルージャが、剣と盾を持ってきてくれたので、立ち上がり、それらを納める。
既に隊員達がペンギンの<解体>を始めていたので、座り込んでその様子を眺め、そう言えば特典と思い立ち鞄の中を確認。
黒いタキシード風サーコートが一つ増えていたので、多分これが特典だろう。
まさかに、特典のファンファーレを聞き逃すほど、集中していたとは……。
そりゃ疲れるな~と思う反面、今迄いろんな人の世話になってきたなと、知っているプレイヤー達の強さを噛み締める。
……水があるって事は、この辺にも楔があるのかな?
ちょっとボーっとした瞬間に、大事だが今の状況にはちょっと面倒な事を思い出してしまう。
まあ、ここに関しては一人でも来れる場所だし、後日探索しに来よう。
何しろ疲れた。ゲームなのにこんなに疲れるものなのかと思うが、何にもやりたくない気持ちでいいっぱいだ。
しかし、仲間たちはそんな事無いらしい。
ペンギン<解体>チームとは別に、湖に穴をあける部隊が発生している。
「うおー!釣れましたよソタロー!これで揚げた魚が食べれますね!」
そうだった……湖の小魚を揚げて食べる約束してたわ。
疲れた体に鞭を打ち、湖上中央の島まで足を引きずっていき、火と鍋と油と小麦粉をセット!
さあ、誰からでも来いや!
と、気合を入れた所で、どんどん人差し指程度のサイズの魚をひっきりなしに持ってくるので片っ端から、揚げて皿に乗せて渡していく。
夢中になって湖の小魚を上げている内に、状況に気が付いたのか近隣の町村のヒト達も集まってきて、魚釣りを始めるのだが、
誰か揚げる方も手伝ってよ!
そんな事を思っていたら、おばちゃんたちがやってきて、
「はいはい、お兄さん!私たちに代わってアンタもお食べ!若いんだから沢山食べれるだろ!」
そう言って、持ち場を追い出され、大量の揚げた小魚を押し付けられた。
サクッと軽い歯ごたえに不思議な甘みのある魚。
疲れた体に脂が沁みるな~。
ワイワイと湖上の中央に集まってくるヒト達を眺めながら、魚をサクサクとやる。
こんな時に大人はお酒を飲みたくなるのかなと思いながら、ボンヤリ過ごす。
これ食べたら今日はログアウトして休もうと思いつつ、今回の戦闘と仲間について思いを馳せ、
まず戦いとしては中央の島まで、連れ出せたのは成功。
しかも自分が囮だったので、損耗もかなり少ない状態で始められたのが良かった。
重装である自分が囮と言うのは一つの有効な手段だと覚えておこう。
問題は折角島上まで連れ出せたのに、囲みこんで倒す術がなかった事。
単純に囲むだけじゃなく、動きを封じたり攻撃を集中して大ダメージを与えるなり、何か他にも方法が必要だろう。
そして仲間達だが、皆優秀だ。多分何やっても一角何じゃないかってくらい。
【兵士】としての能力は勿論高いし、仲間として頼もしい事この上ないが、チャーニン以外は一応やりたい事があるわけだし、クラークはまあ【兵士】として十分に熟練してから【狩人】って言う流れなのかもしれないけど……。
ふむ……やはり、軍が全ての受け皿ってのはどうなのかな~……。
小魚の揚げ物も食べ終わったし、宿に泊まってログアウトするか。