132.重装相撲
[ここが『今世界で一番重い場所!』と言う事で!毎回参加者は少数ながら伝統あるイベントへようこそ!【闘都】中の重装ファンが押しかけるこのイベント!ルールは簡単!武器は使わず相手をサークルの外に押し出すか、足の裏以外を地面につけさせるだけ!あとは何でもしていいよ!]
「相撲じゃないか!」
「何の事っすか?このイベントは何だかんだ根強いファンが多いっす。格好つけずに全力の装備と全力の力でぶつかり合う本気な感じが受けるっす」
「ダメージくらうとかくらわないとか関係ないですもんね」
「ダメージで倒しても勿論ありっす。武器以外なんでもありだからこそ盛り上がるっす」
「じゃあ術使ってもいいんですか?」
「勿論っす。敵も使ってくるので当たり前のように使って欲しいっす」
まさか、物は試しで受けたイベントがこんな……フルプレート相撲だったなんて……。
それならいっそ本格に裸でぶつかり合った方がいいんじゃ無いかと思ったのだが、疑問符で返された。
闘技場は本当に土床に丸い俵?なんか編まれたリングが引いてあるだけで、他には何も無い。
普通に呼び出され、土俵の仕切り線で待つと相手が現れる。かなりの巨漢だし押し出すのはちょっと難しそうだな……。
そんな事思っているうちに、
[発気用意!のこった!]
完全に相撲じゃないかと思った瞬間立ち合いが遅れた。
先につっ込んできた相手を迎え撃つ形になったが、相手は巨漢。
自分はより低く構えて、足を掬う。
何してもいいって言うんだから、片足取ってひっくり返しても問題なかろうと思ったが、あまりに一瞬で決まった勝負に観客の声が出ない。
まずい事したかな……と思ったら、今度は大歓声。
「いや~良かったっす!こういう一瞬の勝負に緊張感が生まれるっす。一戦目としては最高っすよ」
鼠のヒトがこう言うんだから、大丈夫だろう。
完全に屋外で控え室なんて気の効いたものなんて無い土俵。
しかし、妙に観客の熱気が伝わってきて、自分が他の取り組みを見ていても結構楽しい。
2戦目は対照的な小兵。試合を見る限り素早い動きで翻弄するのが得意な様だ。ならば……。
[発気用意!のこった!]
鋼鎧術 空流鎧
カウンター待ちの相手にこちらは術でバフをかけていく。
あえてゆっくり近づき、相手の肩に手をかけたところで、相手もこちらのプレートの継ぎ目に手を差し込んでくる。
そこからは一瞬で相手の奥襟を取り、肩と肩をぶつけるように振り回すと、思ったより軽かった相手はあっという間に背中を地面に付き、自分の勝ち。
悔しげだが、一礼して土俵を下りる様はとても清清しかった。
ここまで来ると出場者が少ない事もあいまって、ぱっと見強者か場慣れした相手ばかり。
3戦目でやっと体格が合う相手だと思ったが、前二戦見る限り、かなりパワーのあるタイプなので、どうしようかと思案している内に始まってしまう容赦のなさ。
何なら発気用意できてないよ!
シンプルに強すぎるつっ込み。体勢が低く頭から来るそれは、必勝の構えと言ってもいいのかもしれない。
鋼鎧術 天衣迅鎧
だが、足場のいい場所でただのつっ込みは自分に効かない。
腹に頭突きでつっ込んできてすぐに右脇をさされ、投げられそうになる。
ならば自分は頭ごと抱え込み、
武技 鉄擁
そのまま膝蹴りを連発。片足上げるたびに押し込まれそうになるが、蹴り倒す事だけを考えてボコボコに膝を打ち込むうちに、崩れ落ちた相手。
相手が両手をついたので、自分の勝ち。3戦もやると疲れてきたかなと思ったら、ご飯タイム。
「このイベントの時は【森国】のお米を食べて腹を重くするのが伝統っす!」
そう言って差し出されるのは山盛りの米と味噌汁、焼き魚。種類は分らないが開いて干したと思われる肉厚の魚が何とも脂が乗っててご飯が美味い!
ご飯の後は準決勝。
[鉄壁の不屈VS霊峰の不動!]
呼び出しの後に『発気用意』で勝負開始。
不動はその名の通りデカイ!多分今日の大会で一番デカイ!自分より頭二つは大きく横幅も倍ではきかない。
なので組み合わずにひたすら逃げて、膝を蹴り飛ばす。
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 空流鎧
鋼鎧術 多富鎧
相手の張り手攻撃が飛んでくるが力任せの大振り、そんなキレの無い攻撃で自分を捕らえられると思われては困る。
徹底的に不動の左膝だけ狙い続け、ぐらついた所を左足の小指の辺りを思い切り踏み潰し、バランスを取る為に伸びきった腕を抱え込んで引きづり倒す。
こうして決勝進出。よく考えたら相撲って総当り戦だからトーナメントの時点でおかしいよな~とも思いつつ、呼び出しを待つ。
[鉄壁の不屈VS鋼の肉体騎士]
どうしよう、凄い頭の悪そうな名前の相手なんだけど、見た目ほっそり系だぞ……。
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 空流鎧
鋼鎧術 多富鎧
コンボでバフをかけていると、相手も同様に何がしかのバフを徹底的にかけて強化している。
そして自分が摺足で、じりじり間合いを詰めていくと、
「ふんふんふんふんふん……」
高速で張り手を連発してくるが、声が妙にイケメン?
武技 激突
下がったら負けだと体ごと押し込む。
読んだ様に一歩下がり、打点をづらした敵が今度は真っ直ぐ飛んでくるような頭突き、
鋼鎧術 耐守鎧
折りたたんだ右腕で頭突きを受け止め、相手の押し込みが止まった所で、反撃のミドルキック。
そのまま頭を抱え込むように、
武技 鉄擁
だが相手もさるもので、自分の胴体を万力のような力で締め上げて圧し折りにかかってきた。
体を密着され<蹴り>が出せないままお互い締めあう状況、唯一自分に出来たのは、
武技 鐘突
抱え込んでる頭に頭突きする事だけ、しかし同時に万力のような締めで自分の生命力もジワジワ削れていく。
しかし、何発目かの頭突きで急に締めが弱った隙を突いて脱出。
すぐさま頭突きでダメージが溜まっていそうな頭にハイキックを見舞うと同時に踏み込まれ、
あっという間にひっくり返されてしまった。
そこで試合終了。結果は準優勝。
鋼の肉体騎士が冑を取って顔を見せて話しかけに来てくれたのだが、やっぱりイケメンって言うか【教国】顔。
「いい取り組みだったよ鉄壁の不屈君!君の術は氷の貴公子【帝国】のホアン君の流れを感じたが知り合いかい?」
「ホアン師匠をご存知でしたか!」
「やぱっぱりそうか!彼の弟子ならきっともっと強くなるね。また会おう!」
何かあっさり爽やかに立ち去っていくイケメン。
「あのヒトは【教国】出身ながら、もっと暑苦しく汗臭いマッチョになりたいからって【王国】に来て体格のハンデを乗り越えて騎士になった努力のヒトだから結構人気あるっすよ」
そんなこんなちょっとおかしな闘技をしている内にも隊長肝いりの【帝国】東部輜重隊にも指令が下っていた。
隊長捕縛指令。逃げる隊長を追えるのは【帝国】前線部隊の精鋭部隊だけ、と言うのが表向きの理由。
でも自分の知る限り【帝国】最速は隊長だ。どうやって追いかけるというのだろうか?