130.盾を教えてもらえる事になった
なんか頭が熱を持ってボンヤリしていたが、お茶を出して貰って休憩していたら、楽になったと言うか平常運転?
すると、さっきの闘技の相手と中肉中背ながら、やたら雰囲気のあるお爺さんが店に現れた。
「物言いっすか?」
「ちゃうちゃう。弟子の戦いぶりを見てたんだが、ちょっとそこの御仁の事が気になっての」
すると中肉中背のお爺さんだけ近づいてきて、自分の事をしげしげと観察し始める。
「何か変な所ありますか?」
「うんうん、それだけ立派な装甲なのに盾まで持っていたら大変じゃろうて、なんで両手武器にせなんだ?」
「前の事になりますけど、河原の鼠にすら苦戦してた頃に少しでもダメージを減らそうと思って盾を持ち始めました」
「はいはい、そういう事かい。もったいないのぉ。折角それだけ鍛えられた肉体と装甲と盾があるんだから、もっと盾をうまく使わんと今日みたいな戦いの繰り返しになるぞい?」
「盾の使い方が、変でしたか……。生憎盾の師匠はいないので基本を学んだだけなんですけど」
「そうかいそうかい、もし嫌じゃなかったら儂が教えたろうか?<中盾>もそれなりに扱えるからの。お主攻撃を迎え撃つ使い方だったのぉ。受け止めたり、受け流したりせなんだら、もっと攻撃的に扱わんと隙だらけだぞ」
「え?そうなんですか?」
「そうさそうさ、実際受け止められて休まれたり、受け流されて体勢を崩されとったろう……。どの使い方でも出来れば盾使いとして申し分ないが、お主が盾で打ち込む、ぶつかっていく戦い方に特化してるなら、それはそれでやりようはあるぞ」
思わず、鼠のヒトの方を見ると、
「もし気になるなら行ってくるっす。そのヒトは有名な元【闘士】で身元もしっかりしてるから大丈夫っす。まさか上級【闘士】に勝てるとは思ってなかったっすけど、今回は運もあったっす。もっと実力をつけてもいい筈っす」
と言う事なので、上級【闘士】と師匠のお爺さんと連れ立って、出かける。
「おっ!さっきの【闘士】揃い踏みで、やっぱりやらせだったのか?掛け金返せ!」
何故か急に絡まれるが、どういう事だ?
「(オッズ表では俺の方が有利だったんだが、番狂わせで損した奴らだ。ほっとけどうせ口で絡んでくるしか脳の無い奴らだ)」
随分とリアルに作りこまれてるもんだなと思いつつ、文句をつけてくる奴らは放って置く。
放っておいたら放っておいたで、どうやら自分のファンらしきゴッツイ坊主でムキムキなおじさんが、胸倉掴んで片手でその男を釣り上げ何処かに連れて行ってしまった。
そして、着いたのは木でできた宿舎とその前が広場になっているだけのシンプルな建物。
「さてさて、普段儂はここで【闘士】達に戦い方を教えてるから好きな時に聞きに来ていいぞ」
「じゃあ、授業料とかって言うのは?お幾らくらいになります?」
「いやいや、老い先短いじじいの楽しみじゃ、別にいらんよ。多少は【闘都】から出てれば、蓄えもあるからの。それより盾の話をしよう。盾は何に使う物か知っておるか?」
「それは身を守る為に使うんじゃないでしょうか?」
「そうじゃそうじゃ、正解。何にも間違っておらん。それさえ分っておれば、自然と扱える物の筈なんだが、お主はなまじ装甲が固いから、盾をないがしろにしておる。だからもったいないと申した。盾は突撃する時ばかりに使うものではない」
「一応、危ないと思えば自然と持ち上げて使うんですが、どうしても攻撃に気持ちが割かれると言うか、相手の隙に打ち込まないといけない気がしてしまって……」
「そうかいそうかい。大きな盾って言うのは自分よりも仲間を守る為の物だったりもするが【闘技場】じゃそうもいかんものな。まず言っておくとそれだけ膂力があるんだから盾を腕に固定するのはやめておいた方がいいぞ。捻られると腕が折れるでな。あとは盾で殴る事だな。分りやすいだろ?押し合いはブロックタイプの方が有利、受け流すのはパリィタイプが有利と来たら、お主はひたするぶん殴るタイプだ」
「ぶん殴るタイプって、随分乱暴ですけど、それで身を守る事になるんですか?」
「うむうむ、当然の疑問だが、まずそんな大きな物を顔の前に突き出されたら当然視界が塞がって嫌なもんだ。更にそれこそ盾を引っ掛けられたり、武器を振るえない様に持ち手を徹底的に邪魔されたら誰でもいやんなる。そして一番はブロック妨害だろう。そんな大振りの重剣を振ったら当然狙ってブロックされて体が一瞬動かなくなる。だから盾で殴ってブロックを弾くのさ」
「盾攻撃の方が攻撃力低いのなら、よっぽどブロックされそうですけど」
「そうさそうさ普通はそう思う。だが盾をブロックした場合、硬直は適応されん絶対とは言わんがな。そもそもブロックを成立させるには相手の攻撃を完全に止めると言う条件がある。つまり盾で予め相手の姿勢を崩しておけば剣攻撃に転じた場合でもブロック成立されにくくなる訳だ。まあそもそも相手の攻撃を完全に芯で捉える化け物もそうはいないがの」
いや、いる。剣一本で確実に攻撃捉らえちゃう人がいる。
「よく……分りました。つまりこちらに伺えば、盾で殴る方法を教えていただけると?」
「そうそう。もしスキルの<盾技>に拘りが無いなら、術を教えてやってもいいぞ」
「それはありがたいです!是非お願いします!」
「うんうん、じゃあ<殴盾術>を教えてやろう。一個目の術は 獅子打 精神力を盾に込めて縁で殴るだけだ。分りやすくて簡単だろう」
「縁って言うのは本当に拳側だろうと、外側だろうと?」
「そうよそうよ。あとは使ってみ。悪い術じゃない。若い頃競い合った決闘王の奴をぶん殴る為に開発した術だが、お主みたいにガンガンつっ込む乱暴な者に使って貰いたかった術でな」
別に自分は乱暴と言う事はないと思うが、全く予想しない所から盾の術を得られたのは大きな収穫だ。