13.ルーク
そこからはスキルや新装備に慣れる為に【訓練】をみっちりと積む。先輩【兵士】は本当に面倒見がよく、どんどん戦い方を教えてくれる。
正直な所ここまでNPCと余り関わってこなかったので、AIの会話能力と戦闘技術に驚きしかない。
何しろ自分の能力に合わせて徐々に戦闘力を引き上げて行くような上手さに一体何を参考にこんな技術を作り上げたのか逆に怖い。
「あれだな、ソタローはちょっと視野が狭いな。もう少し見えない位置に対する想像力が大事なんだわ」
「ええ、装備変更してから盾や重装備の影で今迄見えてたものが見えなくて、大外から振ってこられると分からないんですよね」
「まあ見えないものを見ようとしたら、あのスキルだぞ。分かるだろ?」
「<察知>ですかね?アビリティを設定して、他のスキルと合成すれば……」
「そういう事だな!さらに<感覚強化>も組み合わせると、より広い範囲や死角を補ってくれるから、よく考えろよ」
とまあ、こんな具合ですぐにでも使えそうな情報を惜しげもなく教えてくれる。
そして、貢献ポイントが溜まったら次は<戦技>でも取得しようか、それなら【巡回】でも行って魔物狩ろうか話し始めたら、
「あ~!!先輩じゃないですか!こんな所で何してるんです?もう【士官】なのに禄にヒトも率いずにサボりですか?あっ因みに自分はサボりじゃ無いですよ!東部輜重隊が当分お休みなので【弓兵】隊の【訓練】代わりにちょっと【巡回】してただけです。まああの異常なほど歩き回る隊長の下にいたら物足りないですけどね~。それは仕方ないです」
急に現れて立て板に水で話しはじめるNPC。
なんかちょっと見た感じ、王子様にしか見えないフワフワ金髪の……女の子?ちょっと小柄で背中にクロスボウを背負ってる。
【帝国】の【弓兵】がクロスボウを使うのは良く見かけるけど、顔の造形がとにかく他のキャラクターと全然違う。別にエフェクトも何も出てないけど、キラキラって言葉が良く似合う。
何故こんな所に恋愛ゲームのキャラクターみたいな子が現れた?しかも話しぶりからすると【兵士】で部下もいるっぽい?
「あ?ルークは相変わらず喋るな。俺はアレだよ……前線の空気を偶に吸いたくなるんだよ!【兵士】なんだからいつでも気を引き締めねぇと!」
「あ~!そんな事言って~!絶対管理の仕事面倒くさくなったんですよね!分かるんですよそういうの!隊長いなくなって張り合いなくなりましたか?でももう隊長は【特務上級士官】様なんだから、今回の任務が終わったら【上級士官】って言われてますよ。先輩もがんばらないと面目が立たなくないですか?」
「うるせぇな!もうとっくに立ってねぇっつうの!」
「あの~」
「あ!新たに配属されたばかりの【熟練兵】と見ました!そうでしょ!分かるんですよそういうの!」
「そりゃ北砦に見たこと無い顔がいたら、そうだろうが!ここは【熟練兵】の適正見る場所にもなってんだから」
「そりゃそうですね~懐かしいですね~今や【特務上級士官】様になっちゃった隊長の下で任務に勤しんだ日々」
「毎日鬼のように歩きまわされて、大量の物品管理させられたんだろ?しょっちゅう愚痴ってたじゃねぇか……」
「ああ、どうもソタローって言います。その隊長って集団戦の大会で……」
「そうです!あの祭りで隊長と共に戦った【弓兵】隊の指揮官が何を隠そう自分です!ルークです!【熟練兵】のソタロー君は【重装兵】希望と見えるけど、どう?弓に興味は無い?あるよね!じゃああっちで早速……」
「アホ!ちゃんと適正見られて【重装兵】やってんだから邪魔するなっつうの!」
「あの失礼ですけど、ちょっとこの辺りの方と見た目の造形が……」
「え?そうですか?余り気にしたことないですけど?」
「ああ、【教国】本国の血が混ざってるんだろ?でもまあ、うるさい所以外は別になんも変わらないぞ」
「誰がうるさいってんですか!全く皆がむすっと黙りこくってるから場を明るくしようとですね!」
「あと、多分女性ですよね?」
「多分ってなんですか!れっきとしたレディですよ!」
「ああ、女だが別に【帝国】じゃ珍しくないぞ。やる気があれば農家の次男でも三女でも軍で働くのは認められてる。戦うのが苦手なら内勤でもかまわん。でも大抵は管理仕事なんかやりたくないから女でも普通に戦えるから気をつけろよ。俺の嫁さんも軍で会ってるから、まあ強いこと強いこと」
「そうですよね~先輩の奥さんって女傑ですもんね!【歩兵】の中でも有数の剣士である先輩に盾斧で斬りかかって先輩の鎧ボコボコにしたとか!」
「聞かれたらお前もボコボコにされるぞ。今でも早朝の薪割りはかかさねぇから、頭から股まで二つ裂きだな」
「凄い奥様ですね。それで【巡回】の方はどうします?知り合いの方が来たなら自分は別の任務でも……」
「あっ自分も行きますそれ!正直【弓兵】隊の【訓練】だけじゃ体がなまっちゃうんですよね~。やっぱりあの頃の緊張感がないと!【弓兵】隊20人で隊長に矢を射掛けて、一発も体に当たらなかったら飯抜き!飯抜きは困るから、死ぬほど接近戦の【訓練】にまで参加させられて……、ショートソード使いになってからって言うもの振りが早い事早い事……、目に見えない武器で攻撃されるあの恐怖……やっぱりあの頃は嫌だ!」
なんか急に賑やかになってしまった。