121.中堅人気【闘士】
ざっとだが都の様子を眺め、自分がどういう場所にいるのか把握することで、不思議と気持ちが落ち着いた。
依然お世話になった鼠のヒトの店に向かい、今回も闘技の受付をお願いする事にする。
「久しぶりっすね【帝国】のお仕事は急がしかったんっすね?」
「ええ、ちょっと立て込んでまして、落ち着くまで時間かかっちゃいましたけど、また闘技の受付お願いしてもいいですか?」
「勿論っすよ!それが生きがいみたいなもんっす。ただ一個許可を得ないといけない事があるっす」
「え?何かありましたか?」
「前回の戦いで、そこらの無名な新人や初級の【闘士】じゃ相手にならないと判断されたっす」
「ああ、そうなんですか?そうなると、どうなるんです?」
「いきなりで申し訳ないんっすけど、次からは中堅【闘士】とのマッチになるっす」
「そうでしたか。力試しの部分もあるし、全く構わないですよ」
「そうっすか!いい意気込みっす。ただ中堅ともなると予め闘技日程が組まれてたりするっす。予約にするかフリーで飛び込むか選べるっすけど、どうするっす?」
「ああ、じゃあフリーでお願いします」
「そうなると思ったっす!じゃあ、いつもの【闘技場】で待つっす」
言うが早いか店員さんに店を任せて飛び出してしまう鼠のヒト。店員さんは慣れてるのか全く動じない。
自分は普通に例の趣のある【闘技場】に向かう。相手が中堅となると武器を置いて戦うのは無理かもな。
そうなると自然と人気も下がるが、あまり気にしても仕方ない。
ガイヤさんと戦えるまで闘技を繰り返すのみ!それで辿り着けなかったら自分の実力不足だし、その分【訓練】に身が入るってもんだ。
店と【闘技場】は割りとすぐ近く、あっという間に控え室。
勝手に入ったけど、誰にも咎められなかったし、大丈夫だろう。
ちょっと待っている間、他の闘技者と思わしきヒト達にじろじろ見られるのは何でだろうか?
前回はそんな事無かった筈なんだけど、ピリピリする様なことでもあったのかな?
名前を呼ばれて会場に向かう。
大きく息を吸い吐き出している間に、相手が現れるがなんか凄い盛り上がり方だ。
あれか、やっぱり中堅ともなるとそれなりの数のファンが付いてるんだろう。
装備は鉄の胸当てに鉄の脛当て、隊長が使ってるような片手剣に程よいサイズの中盾、剣を持つ腕だけかっこいい良さげな防具をつけるのは【闘技場】のおしゃれポイントかな?
開始の合図と同時に、一気に両者距離を詰めて盾と盾がぶつかり合う。
軍配は自分に上がる。それはそうだ総金属で重量の重い自分の方が必然的に残るだろう。
倒れこんだ相手はよく見ると、足はサンダルだ。
何で末端にそんな弱い装備を……、まあ弱点を突かない理由は無いので、そのまま足を串刺しにしながら剣を地面に突き立てる。
呻く相手を無視して、術を発動。
壊剣術 天沼
からの、倒れている相手への追撃わざと言えばこれだろう。
武技 踏殺
鳩尾にがっつり入り、動きを止めたところに盾縁を使って相手の喉を潰す。
残念ながら拳士じゃない自分は拳で殴ってもダメージにならないので、踏み付けと盾攻撃しか方法が無い。
回転率の低い二つの技でひたすら殴る。
一回相手が抵抗しようとしてきたが、基本体重金属の自分には効かない。普通に<防御>でダメージを減らしあとは徹底的に潰す。
相手が光粒子になると試合終了となったが、流石中堅だけあってギブアップなんかしないで、最後まで抵抗してきた。
これが闘技かと【闘技場】の真ん中で天を仰ぎ、丁度中天に差し掛かった太陽を掴む。
それが、ガイヤ姉さんか、変人隊長なのかは分からないけど、もし本気の自分をぶつける時後悔しないように、今必死に鍛えないと……。
何故かシーンと音の無くなった会場に、何かやらかしたのかとそそくさと控え室に引き上げる。
ちゃんと鼠のヒトは控え室で待っていてくれたが、
「ちょっと思った以上っす。一旦店に引き上げるっす」
言われるがまま、店に引き返すが、いいのだろうか?
「いや~流石中堅だけあって手強かったですね」
「そうっすか?なんか一方的にしか見えなかったっす。しかし最後のは何だったすか?陽精に祈りを捧げている様に見えたっす。あの所為でなんか会場の雰囲気がおかしかったからさっさと引き上げたっす」
「最後のがいけなかったんですか?すみません何となく今後戦う強敵に思いを馳せてただけなんです」
「そうっすか!炎の巫女が目的だったらそんな事もあるっす。別に問題と言う事もないっすけど、相手は中堅とは言えかなりの有名どころ、あの会場の盛り上がりで分るとおり所謂人気【闘士】っす。それをアレだけ一方的に叩きのめしたらああなるっす。結局その剣は地面に突き刺しただけだったっす」
「いや、まあそれは流れ上、足を剣で突き刺した方が有利そうだったからで、特に意図があったわけじゃないんですけど」
「別に気にする事無いっす。多分人気はまた上がってるとは思うっすけど、あの会場にはまださっきの【闘士】のファンも多いから、もう一戦となると面倒かも知れ無いっす」
「襲撃されますかね?」
「流石にそんな自信があるものはいないっすけど、ちょっとしたミスやしくじりをつついてくるアンチはいるかも知れ無いっす」
「ああ、情報操作的な面倒くささですか……折角来たけど今日は引き上げた方がいいか……」
「いや、会場を変えれば何てことないっすけど、別のルールやフィールドに興味はあるっすか?」