119.邪神の尖兵2戦目
壁沿いに歩き、下へ降りる道を探す。
「多分ここから先は異形化した魔物が増えると思います」
「これだけの瘴気が立ち込めてると、そうかもしれないね。上に湖があって、排水できそうな水やら穴やら繋がっているって事は、水棲生物系かな?」
「そこはお楽しみなの。それより暗いけど二人は大丈夫なの?」
「自分は一応大丈夫です。はっきり見えなくても輪郭だけは確認できますので」
「僕も夜間【偵察】任務とか、伝令任務の為に夜目が利くスキルを取得してるから問題ない」
そうして、三人で進む水路。
さすがに三人で進むとちょっと狭くも感じる通路だが、頼もしさはその比じゃない。
自分のスキルに引っかかる隠れた魔物をあっさり誘い出して殲滅。
異形の魔物だろうと怯まず<解体>するビエーラさん。
前回も暗くて何となく形で把握していたが、やっぱりベースはザリガニとか魚とか蟹だった。
ちなみに装備にダメージを与えてくる蟹泡は、注意するまでもなくビエーラさんが遠距離で処理。
「うん、中々いい素材が取れるの。白く漂白して使うの」
「そんないい物なんですか?」
「そりゃ装備は魔石で強化できるよね?魔素で変質した魔物の素材は変質が進むほど、強力なるらしいよ。クラーヴンの受け売りだけど」
「でも最後には邪神の尖兵になっちゃって消えちゃうから、どこか限度はあるんでしょうね~」
そんな話をしながら進める余裕の環境は、前回とは大違い。
何ならカモノハシを倒したばかりなのに全然元気な夫妻は狩れるだけ狩って、素材集めにいそしんでる始末。
二人共能力的には遠距離と<騎乗>高速移動でどちらかと言うと屋外向きのスキル構成の筈?何でこんな狭い場所でも軽々狩りできるんだ?
そして気がついたら最下層、一気に広がる視界。
周りを壁に囲まれた円形の底は、逃げ場のない闘技場。真ん中には黒い塊だが、
前回のようなタダの不定形では無さそうだ。
「水棲生物を取り込みすぎて、ヤゴになっちゃったみたいだね」
「魔将に引き続き、何で虫!水棲生物の筈なのに!」
「ヤゴは鰓があるから水棲生物なの?」
まあ愚痴を言ってても仕方ない。〔竜の歯片〕と〔竜の鱗片〕を取り出し、剣と盾をに変えて構えて近づく。
当然ながら夫妻は邪神の尖兵と戦う手段を持たないので、待機。ここからは自分だけの戦い。
寧ろここまで消耗を最低限に出来たのは二人のお陰だし、いつも本当にお世話になってる。
さすがにここで、失敗するわけにも行くまい。大きく息を吐いて、ヤゴ形の邪神の尖兵の前に立つ。
ヤゴと言えば、肉食虫だし、噛み付いてくるか、口で突き刺してくるのか、頭部に集中していたのが間違いだった。
足元から急に伸びてくる針に足を刺し抜かれ、足を地面に縫い付けらた。
痛みに驚いて、下を見た瞬間に今度こそ頭上から攻撃。
それは殆ど勘と言うか相手の動きから察知して、盾で受け止める。
それよりも足を刺し貫いてる針だ。何かすっごい痛い。何だこれ……。
力づくで強引に足を持ち上げ、足裏を適当に剣でさらえば、針も折れたのか消えた。
そして、真っ直ぐ敵に走り寄ると、次から次から自分のいた場所に針が突き出す。
止まるに止まれない状況の中、相手の横を通すり抜け、適当に細いそれこそ針同然の足を斬っていく。
ヤゴ形の右半分の足を全部斬ると、そのまま横倒しになるが、針の止まる様子がない。
そのまま走り続け、円形のフィールドを逃げ続け、何となく避けるコツを覚えてきたので、再び接敵。
胴体を斬りながら走る。ながら攻撃!
無理をしないように走り続け、タイミングを見つけてはながら攻撃で、徐々にヤゴ形の体積を減らしていく。
斬れば斬るほど蒸発して体積が減っていくのが邪神の尖兵の分かりやすい所。
無限再生だが、肉体の量は有限って事なので、何となく作業の終わりが見えてて助かる。
逆に問題が一つ。体積が減るほどスピードアップしてて、そろそろ足の遅い自分じゃ追いつかれてしまうって事。
仕方ない、思い切って足を止め盾で足元を塞ぐ。
何かあたった気はしたが、地面から出てこれないっぽい。
その間に、一回斬りおとした胴体側の足を再生させて、頭上から向かってくるヤゴ形。
体を小刻みに震わせてると思えば、背中側がそげて、黒いぶよぶよの雨が降ってくる。
足下から貫かれないように、また移動しながら盾で頭上を守り、そのまま敵に突っ込む。
もう接近戦で決めるしかない。全身が触れるだけでダメージの敵なんておかしいよ本当!
核がどこにあるか分からないが、ひたすら斬りまくる。
途中で左足を貫かれ、再び固定されてしまうが構っていられない。
手の届く限り、斬って体積を減らす。
そしてやっと喉元に現れる魔石目掛けて、剣を突き刺せば、弾けて蒸発する邪神の尖兵。
何だかんだ今回も、必死で剣を振り回すだけになってしまったが、地味に攻撃をくらい続けた長靴は無事だ。
前回みたいに全部何でもかんでも取り込んで溶かす敵ではなかったのかな?
まあでも、油断は出来ない。あの雨だって盾で受けなかったらどんな効果があったか分からないし。
「お疲れ様なの」
「お疲れ様です。多分奥に出口があると思います」
ゲームなのに何故か荒い息をつきながら、邪神の尖兵が塞いでた奥への道を進むと、やはり氷の壁。
触れば氷が砕け、外の明るさが目に沁みる。
外にたら、そこは湖のほとり?
辺りを見回すと対岸に置いてきた中隊のメンバーらしき集団が見える。
ビエーラさんに確認してもらうと、確かにチータデリーニさんがいるとの事で、
地下をぐるぐる巡った上げく対岸に出てしまったらしい。
【黒の森】を歩き慣れてるビエーラさんの先導で何とか帰れたが、本当に隊長が根こそぎ森の魔物狩ってなかったらもっと大変だったかもしれない。