111.修行新天地
「ここが【闘都】か……」
本当は【帝国】でやる事がまだ山ほどある。白竜復活に、諸々任務。もしかしたらレギオン級魔物討伐なんかも頼まれるかもしれない。
でも今は自分の力不足を痛感している。魔将戦……明らかにトッププレイヤー達超人のクエスト。
あんなに早く力強く動く敵相手に今後も戦えるのか、否。
騎士殿はあの後すぐに困ったヒトを助けるべくまたどこか旅に出てしまった。
隊長は相変わらずのマイペースで【輸送】任務に。
PKのヒトはPKが趣味らしいので、ちょっと敬遠中。
となれば、ガイヤ姉さんしか他寄る辺はない!
とは言え、いきなり訪ねて相手してもらえる相手じゃないのも重々承知している。何と言っても誰もが知るトッププレイヤーだし。
なれば相手してもらえるようちゃんと正規の手段を踏むべきだ。つまり、この【闘都】で対人戦を繰り返し、ガイヤ姉さんと戦えるまでランクを上げる他無い。
とはいえ、ヒトが多く、闘技のルールもよく分からない。なんか適当にどこかの【闘技場】行って戦わせてくださいって、言えばいいのかな?
途方に暮れて、街の片隅ヒトの少ない場所で座り込んでいると、
「どうしたっすか?」
なんか鼠みたいなヒトに話しかけられた。
小さい丸眼鏡をかけた鼠の顔の顔だけ獣ののヒト?
「なんか困ったような顔で佇む若人がいたら声をかけるのが大人の役目っす。もし要らぬお世話なら、立ち去るっす」
「あっ!いや困ってます」
「いいっすよ。自分は今時間あるっすから若者の話を聞くのにやぶさかじゃないっす」
「あの実は、強くなりたくてこの街に来たんですが、ガイヤさんと戦える様になるにはどうしたらいいですか?」
「炎の巫女っすかそれなら【養成所】で【訓練】するのが一番いいと思うっすけど、すでに腕に覚えありって感じっすね。【闘技場】で戦いたいだけなら、受付の方法くらいは教えてあげてもいいっすよ」
「すみません、お手数ですがお願いしてもいいですか?もし自分の腕が通用しなかったら、それで素直に引き上げますので」
「そうっすか?多分大丈夫っすよ。ランカーは大変かもっすけど、それなりに戦えればこの都で食いっぱぐれる事はないっす。ところで、どちらの出身っすか?それ次第でリングネームとかキャラクターとか変るっす」
「【帝国】ですけど、キャラクターってなんですか?」
「へ~~【帝国】人で腕が立つヒトは人気あるっすよ。漆黒将軍って言うニューターの幻の一戦は今でも語り草っす。もし多人数を率いれるなら、将軍とかつけると絶対人気っすけど、実力が伴わないと大変なことになるっすね」
「いや、じゃあ将軍って名乗るのはやめておきたいです。何しろ実力をつけに来たので、分相応の身分でやりたいですね」
「そうっすね~全身鎧で当たり前に動いてるし、動く鎧リビングアーマーとか?どうっすか?」
「別に鎧が本体って訳じゃないんですけど……確かに師匠は重装備と重剣の師匠なので、そっちに特化してますが」
「重装備に重剣……『リングの破壊者超重人』ってのはどうっすか?」
「リング踏み抜いちゃいそうですよね。さすがにそこまで重くないと思うんですけど、あと多人数戦はそれなりです。敵が多いほど身体能力に補正がかかるので」
「ひゃ~なるほど!じゃあ、鉄壁の不屈ってのはどうっすか?あえて二つ名を重ねてみたんすけど!多分コレしかないっすね!じゃあ腕試しに丁度いい試合組んでくるっすから、あのちょっと小さめの【闘技場】で待つっす」
「え?なんかボロそうだけど大丈夫?」
「ボロそうじゃなくてボロいっす。ただ由緒ある【闘技場】で小さいながらも趣があるっす。変なギミックもないし【闘技場】初心者には優しいっす。腕試しで目立っても仕方無いっすから、新人や渋い戦いが好きな玄人ファンの評価を貰うのは悪くないと思うっすよ」
「え?ファンの評価?」
「そうっす闘技は娯楽っすからファン次第で報酬は大きく変るっす。勿論実力が高ければそれだけで人気も出るっすが、戦闘スタイルによって偏ったファンが多く付いて、その分賞金が増えるシステムっす。受けても受けても倒れないそんなのが好きな人もいれば、とにかく一発大きいのが当るかどうかの博打ファンみたいなのもいるっす。明らかに悪役の様なヒトにファンが付く事も……」
「じゃあ、ある程度自分に付いてくれたファンに合わせた戦いが出来ればその分報酬がよくなるかもしれないと」
「そうっすね。その為の腕試しっすから余り気負わずやるっす」
ん~お金より、今は戦闘経験なんだけど、まあ気負うなって言うんだから、やってみるか。
「じゃあ、お願いします」
言うが早いか、ぴゅーっと消えてしまう様は隊長を思わせるすばしっこさ。
親切なヒトがいたもんだなと思いつつも、ぼろい【闘技場】に入っていくと、土の地面と漆喰か何か、古風な白い土壁の建物。
それでもマメにメンテしているのは分かる、自然な小奇麗さっていうのだろうか?。
周りにいるヒト達が出場希望者なのか、観客なのかも区別も付かないまま、立ち往生しているとさっきの鼠風のヒトが再び姿を現す。
「早速一戦決まったっす。自分の見立てでは余裕で勝てる相手っすが、様子を見てじっくりやるっす。くれぐれも緊張は禁物っす」
それだけ言って、建物の奥、簡素な控え室に連れ込まれてしまう。