108.魔将決着
-隊長-
「さて、剣のサイズも手ごろになった所で、勝負をつけようか」
もう何を考えてるかも分からない魔将に話しかけたが、言葉は一応通じるのかこちらに身構え、一歩で距離を詰め、全く無駄のない動きで剣を一閃。
右手から直接延びる剣は騎士殿が使うハンドアンドハーフソードサイズだが、片手で当たり前のように軽々振っている辺、もう人間辞めちゃったのだろう。
しかし自分もかつて使い慣れたロングソードサイズの剣で受け止め、今度は弾き飛ばされないように堪える。
ブロックは何とか成立したが、余りの重さに反撃が出ない。
魔将と同時に動き出し、今度は自分の胴薙ぎを軽く後ろに飛んで躱す魔将。
でもそこにはちゃんと騎士殿が待ち構えて、盾を使った突撃でこちらに跳ね返してくれた所を垂直斬り。
やっぱり言葉は理解しているのか、さっき騎士殿はもう追いつけないといった傍からこうやって補助してくることに驚いているようだ。
まあね、自分の奥の手<戦陣術> 背水の陣 は大幅なステータスアップが見込めるから、スピードタイプじゃない騎士殿も何とか参戦できるでしょう。
問題は戦場の混乱だな。
まさかここに来てスライムの特性を持った虫でプレイヤーを追い回すなんていう嫌がらせをするとか、相手の嫌がること考えるのが上手いよな~。
まあスライムだったら取り込まれてすぐに死んじゃう筈だから、あくまで強酸攻撃と無限再生だけの劣化スライムだけど。
多分宝剣があれば倒せるんだろうが、そんなの持ち歩いてる人なんて、そうそういないもんよ。
……なんかソタローが変な剣取り出して倒してるわ……そう言えば邪神の尖兵倒したって言ってたな。
自分は宝剣返しちゃったわけで、こうなるとやっぱりこれソタローのクエストの可能性が高い。
なんなら、天騎士の装備も重装備だしソタロー……。
よく考えたら自分の剣もはじめ明らかに長すぎたし、1000人用じゃなくて100人用だった?
うん、そうだきっと!自分が指揮して全体動かしながらソタローが魔将倒す筈だったんだ!
やっちまったな~。完全に役割分担間違えちゃったな~。
まあ仕方ない。ここまで来たんだから自分がちゃっちゃと終わらせて、さらっとボス特典ソタローに渡して有耶無耶にしよう。
お酒飲んで全部忘れちゃえばいいって事!
そんな事を考えている内にも魔将との攻防は続く。
どんどん削られていく士気だが、集団戦可能な人員による士気回復で何とか、保っている。
しかし、同時に既に恐慌が発生して動けないプレイヤーも増えてきた。
ジワジワと減る剣の長さで状況が分かってしまうのが焦りに繋がってくるが、ここは冷静に対応しよう。
自分がそんな事を考えていると敵にも共鳴するのか、魔将の動きも少し変わってきた。
なんか妙に時間稼ぎを狙ってる。
自分の剣をかわし、更に騎士殿の攻撃も最小限に抑えて、とにかく攻撃チャンスを作らない。
こっちの士気切れを狙ってるのか?表情は分からないのに妙に余裕を感じるのは何か考えがあって、上手くいってるからなのだろう。
それでも全てを上手くかわす事はさせない。じりじりと追い詰める。
魔将の生命力が切れるのが先か、こちらの士気が切れるのが先か。
間合いを詰めて足払い、魔将の体が浮いた所に騎士殿の剣が振り下ろされ、動きが止まった所に一太刀。
追撃で一薙ぎした所に、虫が飛んできて自爆。
強酸でクラーヴンに作ってもらった装備の耐久力が一気に落ちるが仕方なし。
どうやら騎士殿の天騎士装備には影響がないのか、魔将を追撃してくれていたお陰で、一瞬の怯みの隙を狙われずにすんだ。
逃げる魔将を追うように只管攻撃。
気がついた時には剣はショートソードサイズに……、何故か妙にあざけるような雰囲気の魔将に、
「自分は元々ショートソード使いなんだから、ここからが本番だっての!」
小回りの効くサイズになった剣で喉、膝と腿の隙間、肘裏、鎖骨の内側と装甲の薄そうな場所を徹底的に突き込む。
嫌がる魔将は両手で自らの体をガードしながらひたすら下がり続ける。もはや時間稼ぎしか頭にないのだろう。
遂にダガーサイズになった剣だが、
「自分はダガーも得意だっての!」
逆手持ちに変え、魔将を斬り刻む。攻撃してこないのなら怖くも何ともない。
なんなら一回くらい攻撃してくれた方が、隙が出来て助かるのにな……。
一瞬の思考が動きを鈍らせたのだろう。一気に間合いを広げダガーじゃ到底届かない位置まで逃げられた瞬間剣が消える。
すなわち味方の士気の消滅。あとは恐慌状態で棒立ちで死ぬのみか……。
「逆転の旗!」
ソタローが黒い禍々しい旗を立てて、いつの間にか随分近くに立っている。
ちゃんと覚えてたんだな~。あとは旗のタイミング任せるってさ!
「ナイス!ソタロー!」
全員の士気が戦闘開始時まで復活し、延びた剣身に貫かれる魔将。
「自分の方が一手多かったな。それじゃお休み」
そのまま魔将を滅多斬り、今度は逃がさないように完全集中してバラバラになるまで斬り続け。
気が付いたら煙になって消えていた。
「うん、最後の断末魔すら聞かずに滅するとかやっぱり外道なんですね」
ソタローの言い様がかなり酷いんだが、それだけ集中してたんだから仕方ないじゃん。
頭の中でファンファーレが鳴り、今回はと言うと、
ボス討伐
まあシンプルにそれよね。最後に出てきて滅多斬りにしただけだしさ。それ以上貰ったら怒られるわ。
貰ったのは騎士盾。
中世西洋でおなじみの涙型と言うか逆三角型の中盾。やっぱり予想通り自分には無用の長物。
これはソタローの物だろう。
ソタローはなんか格好良い冑を手にしてまじまじと見ているが、この盾も一緒に使ったら良い。
「ソタローおめでとう。これは自分からね。1000人戦の記念」
うん、なんか適当にフワッとした感じで、渡せたし大丈夫だろう。
「え?え?え?隊長?こんなの貰っても!」
「じゃあ、自分はお酒飲んで飯くって寝る」
そう言ってさっさととんずらだ!何しろ間違って他人のクエストクリアしちゃうとか恥ずかしすぎる!