105.魔将と隊長思ったより意気投合
まるで強者の余裕とばかりに地に降り立つ魔将は、クワガタ。
なんかもうヘルムが完全にクワガタ意識。カブトムシがいる割りにクワガタいないなと思ったら、そういう事だった。
「さて、まず誰から屠るか……どうせ世界は邪神様の物になるとは言え、先に死にたい者などおるまい。それはそうだお前達愚かな者共はやたらつまらない小さな差異に順位をつけたがるのだからな。いいぞ順番を決めさせてやる」
「はい」
「ふむ、率先して愚か者共のために犠牲になろうとは、なかなか勇気のあることだ。騎士になるといい。そして我が部下となるなら邪神様の世界でも生きる場を用意してやらない事もないぞ?」
「いえ、そういう事じゃなくて、そのクワガタ冑は趣味ですか?それとも邪神から賜った物ですか?」
「邪神様だ!小僧。だが若いうちのちょっとした無礼くらいは許してやるのが年長者の努めか?長きを封印されて過ごしたわけだしな。この冑は邪心様に身も心も捧げる前から使っていた我を体現する象徴。この冑に目をつけるとは、ますます見所がある。お前ならカブトムシ型の冑位までは許してやってもいいぞ」
「……昔は虫型冑が流行ってたんですかね?」
「護国の将軍が言うには子供達の間だけ流行っていたらしいですね。冑のことはあまり気にせず。さっさと決着をつけちゃいましょう」
ルークが答えてくれた事で、すっきりした。あとはこの魔将を倒すだけ。
サイズはただのヒト型。ちょっと大柄な気もするがヒト範疇としておかしな事は全くない。おかしいのは冑だけだ。
「さぁ、小僧!邪神様に従うのだ!」
「もう一個聞いてもいいですか?なんで大砦を狙ったんですか?」
「ん?それは邪神様からのビジョンが、この大砦を橋頭堡として創世神に従う愚かな存在を抹消する計画なのだから仕方あるまい」
「じゃあ、空中から虫で襲い掛かった方が効率が良かったんじゃないですか?」
「ふん、そうは言うが、この大砦をどの様に使うかは明確になっていないのだ。出来るだけそのまま保全してお渡しした方が良いに決まってる。何より正々堂々と平原で雌雄を決するべきなのだ。それが騎士というもの」
やはり騎士である事にはやたらこだわりが強い。そしてクワガタヘルムを気に入ってる。それくらいしか分からなかった。
ちなみにあいつの仲間になるのは、ない!
虫けら扱いされて馬鹿にされて使われるなんて趣味は全くない!出来ればこの手で何とかしたいが、きっと効かないんだろうな~。
でも一発だけぶん殴ってあとは隊長にお任せもいいんじゃ……。
ゆっくりと魔将に近づいていく。
じわりじわりと距離を積め、ここ!という所で思い切り剣を振るがあっさりかわされてしまう。
「折角のお誘いですけど、カブトムシの冑はお断りです」
「ふん!ぬかしたな!ならば喰らえ!」
黒いエフェクトを纏った槍の一撃で、吹き飛ばされてしまう。
盾でちゃんと防御した筈なのに、全身バラバラになるような衝撃。
何とか立ち上がり、再び魔将の前に立ち、二つに割れたメダルの片方を掲げると同時に、魔将の槍の薙ぎ払い攻撃。
気が付けば自分は中間に作った陣地へ、そして遥か前方では魔将の槍を斬り払う隊長。
「ナーイス!ソタロー!後は渡した旗のタイミングだけ頼むよ」
残念ながらこの位置からは、隊長達の姿はよく見えないので、じりじりと再び前線に向かう。
その間にも聞こえる魔将と隊長の会話は、なんかおかしい。
「ほう、その剣を持つとはお前が指揮官か、今まで後ろで引き篭もっていたのか?ならば最後まで引き篭もっていれば、命を永らえた物を……」
「そういうアンタだって、引き篭もってたじゃん。ここぞという所までは黙って見てるのも上司の勤めじゃないの?寧ろやるべき事を指示した後からやいのやいの余計な事を言う上司は明らかに器が伴ってないよ」
「全く持ってその通りだ!一度信用し、任せたのなら最後まで見届けるべきだ!中途半端に口出しして上手く行けば上司の手柄、失敗すれば部下の責任で誰がついていくものか!」
「ところでその冑自分の感覚だとノコギリクワガタっぽいんだけど、なんか別の種類かな?」
「いや、ノコギリクワガタで間違いない!太陽すら掴めそうな勇壮な姿であろう!それとも貴様も馬鹿にするか!」
「いや、ノコギリクワガタはかなりいいと思う。ただ自分の趣味はヒラクワガタだ。ああいう直線にハサミが綺麗に揃ってるタイプの方が美しく見える」
「成る程な。分からないでもない!何故ここまで話の分かる男が敵となってしまったのか……」
「騎士はいい……騎士は格好いいさ。それは分かる。だがな、自分達の様なはみ出し者を受け入れるにはちょっと堅過ぎるんだよ。もっと実力がモノを言う国に移るべきだったな」
「くそ!お前も共に道を歩む事は出来ないのか!」
「ああ、少なくとも自分は部下を虫けら扱いしないし、邪神に従う気もない。残念ながら冑のセンス以外は相容れないようだ」
「そうか……ならば雌雄を決しよう。どうせ我を傷つけられる者はその剣を持つお前だけだ。存分に殺しあおう……」
ん~どういう展開?