103.蟻地獄
敵の虫達は割りとそれぞれ種類毎にまとまっているようだが、お次も薄い羽を持った虫。
細い体に薄い羽の敵ばっかりで、ログアウトしてから調べようにももう特徴がよく分からない。
まだトンボみたいに羽が横に広がってればいいが、普通に後ろに羽を畳むタイプをどう見分けろと……。
まあでも飛ばないだけマシか。飛ばれたらそれこそ攻撃手段を失うし、敵のやりたい放題。
そう言えば、今更だけど魔将の目的って何だ?
やっぱり封印した天騎士及び聖女への復讐か、もしくは天騎士を倒して自分の事を証明したいのか、それともいっそ世界征服?
気になりだすと止まらない。何しろそれ次第で戦い方が変わってくるじゃん。世界征服目的ならわざわざここで戦う必要ないし……。
何の為に邪神の力を受けたのか、最も大事な事を聞きそびれていた。
「あの、魔将の目的は何ですか?このまま進んでしまってもいいんですよね?」
「ああ、そうですよね。一応自分も気になって確認したんですが、魔将はどうやらかなり直情的かつ安直な性格らしく、それで天騎士になり損ねたとか」
聞いてみたらルークが応えてくれるのだが、いまいち要領がつかめない。
「えっとどういう事でしょう?天騎士を倒せば天騎士になれるとかそういう?」
「いえ、もっと単純らしくて同格だと思っていた護国の将軍に追い抜かれたから、戦っているだけだそうです」
ん?じゃあ目的も何もない?本当に虫みたいな知能の相手って事?置いていかれて悔しいからやってやらぁ!みたいな?
「ふーん、そりゃ想像以上に危険な相手じゃん。理屈通用しないんじゃ、力づくでいくほか無いもんね~」
とは隊長の感想。
自分はそんなアホなヒトと戦うのかとちょっとげんなりしたのだが、ちょっと考え方が違うようだ。
飛ばない虫相手にジワジワと押し進めているが、敵は今の所焦る様子もない。
「ふむ、やはり我が敵と呼ぶには弱すぎるな。やはり虫けらと戯れているのが相応しい。精々あがくがよい」
だそうな。虫が好きで部下にした訳ではなく、ヒトを小馬鹿にするために虫を率いるって言う捻じ曲がった性格の所為で、天騎士になれなかったのだろう。
さぞかし誰からも慕われなかったに違いない。
「虫けらと戯れるしか能のない奴がよく言えたもんだな。緑の虫籠にぐちゃぐちゃになるまで詰め込んで、墓石代わりにアイスの棒刺して、墓作ってやるよ」
はい、そしてこちらの総大将はまんまと挑発に乗る人だったようです。
っていうか言ってる事が猟奇的過ぎて逆に何言ってるのか分からない。
「グヌヌ、かつてトンボに噛まれただけで、近場のトンボを皆殺しにし、山にトンボの墓を作った時と同じ大虐殺が始まると言うのか……昔から敵とみなした相手に手段を選ばない子供だったが……」
騎士殿は何か知っていそうだが、闇の深そうな話なのでスルースキル発動。
そんな時突然視界が揺らぎ、いつの間にか空を見ていた。
よくよく見ると下半身が埋り、砂に流されている?
自分と同じ状態のプレイヤーが辺に何人かいるが、どういう事だろうか?
徐々に砂に流されていくうちに、三角錐状の砂をどんどん引き込まれていることに気がつく。
そして、一番低い場所、三角錐の頂点には虫が一匹。
「蟻地獄か……」
思わず声に出して確認してしまったが、まさにそれ。表現でもなんでもなく蟻地獄型の虫魔物。
周囲のプレイヤーがざわめき、慌て始めるが指揮官の一人である自分が慌てふためいてはもっと混乱が広がってしまう。
なにより騒げば騒ぐほど、鋏で掴んだ石をぶん投げてくるので、大人しくして置いたほうが、絶対お得。
接敵した時のために体力を温存しておく。何しろ勝手に砂が運んでくれるのだからじっと流され、剣が届く範囲に入ったらぶった斬るそれだけの事。
力を溜めに溜め。
「ここかな?」
思わず一言発した瞬間には、上半身を捻りこみ一撃重剣でぶん殴り、更に盾で追撃。
頭部に付いてる鋏を向けてきたが、そんな物は蟹討伐で十分に見慣れている。
盾で地面をぶん殴り、盾なら沈まない事を確認して、盾の上に剣をのせ、更に這い上がって盾の上に立つ。
威嚇のように未だに鋏を向けてくるが、
鋼鎧術 空流鎧
両手で鋏を掴み捻じ曲げ、砂から強引に引っ張り上げ、多分体液を吸うためと思われる細い器官を膝蹴りで圧し折る。
そのまま甲殻がぐちゃぐちゃになるまで膝で蹴り続けていれば、いつの間にか動かなくなってしまう蟻地獄。
まあ幼虫だし、罠を仕掛けるのが得意なだけだったのかなと、それ以上の感慨も沸かない。
「蟻地獄発見して潰しましたが、生命力はそれほどじゃありません。冷静に対応してください!」
すぐさま自分指揮下の人達に指示を出し、自分はあり地獄の外から投げ込まれるロープに掴まって脱出。勿論盾も剣も回収している。
何とも準備のいいプレイヤーもいたものだ。
ちなみに蟻地獄の外に出たら、ワープできるPKの人が片っ端から蟻地獄を殺しまわっていたので、何の不安もなかった。