99.魔将復活
その後も難航していた隊長のスカウトだが、何とかかんとか折り合いをつけて頭数だけは揃えたって感じ。
実力ではいまひとつでも、隊長の実力を知っていて1000人戦闘に興味のあるプレイヤーを集めたことで一応体裁だけは整った。
例の墓を通り、再び天騎士装備の間へ行けば、ちゃんと待っていてくれる護国の将軍と古の聖女。
そして何の感慨も無いかのようにあっさりと天騎士装備を手に取り身につける騎士殿と、剣の柄を手に取る隊長。
「さて、魔将ってのはどんな奴だろうね~」
待てど暮らせど、何にも出てこない。
「なんかこの場所は封印をしていただけであって、魔将が復活するのは外らしいですよ?」
……大急ぎで走って外に戻ると、薄暗い。
逢魔が時とはこういうことを言うのかと、日が没する寸前のような暗さに周囲を見渡すと、どうやら太陽が落ちたわけではなく、空に謎の物体が浮いていただけだった。
「アレは気持ち悪いの、大量の空飛ぶ虫が集まってるの」
ビエーラさんはそう言うのだが、残念ながら自分の視力では謎の塊にしか見えない。
しかし空では現状自分達の手の出せる敵じゃない。それこそビエーラさんの超射程攻撃くらいしか手はないだろう。
大砦の門上に隊長が陣取り、念の為他のプレイヤー達は門前に整列。
自分は中央、右は嵐の岬、左は騎士団。隊長と一緒に六華が遠距離攻撃による補助って事になる。
「一応、作戦は伝えた通り!敵の頭を叩くしかない。その為にはソタローと騎士殿を何が何でも前線に上げる。つまりこの場にいる全員がやる仕事は一つ。全力で突っ込め!後ろの事は考えるな。ただ死力を尽くして前に進めばいい」
自分の周りにはPKの人、騎士殿、ガイヤ姉さん。その他も戦闘力に定評のある人を片っ端からつけてもらった。
自分達が錐となって敵陣ど真ん中に穴を開けて進めって事らしい。それで挟み撃ちにあって消耗戦になろうが、敵ボスと直接戦闘することが大事だと。凄い無茶な作戦。
しかし、それでも今回集めた戦力じゃ正攻法で倒すのは無理と考えたのだろう。苦渋の決断に文句のつけようもない。
迂回作戦も考えたのだが、入れ替わりのメダルを持っているのは自分だけ。足の遅い自分が迂回する事は直線的に進む事とどっちが早いかと、天秤にかけた結果の賭け。
自分達の集団を見つけて合わせてきたのかどうかは分からないが、虫達が向かいに降りて来る。
空から黒い何かが零れ落ちるような様で、何となく世界の終わりや酷い汚染を想像してしまうのは自分だけだろうか?
降り立った集団がゆっくりこちらに近づいて来れば来るほど、うぞうぞと不気味な虫風の異形達。
所々に見える明らかな巨体とそれに乗る小さな影が、レギオン及びユニオンだという事か。
多分ユニオン級が巨体の虫。レギオンはそれに乗るヒトサイズの後ろ足二本で立つ小さな影。
それで数が合うが、ヒトサイズのレギオンって相当強いんじゃなかろうか?まともに戦える人が何人いるのかって感じだ。
一番後ろには輿のような物を背に載せたユニオン巨大虫。
あそこに魔将がいるんだろうなと、あたりをつけたところで、地の底から響くような低い低い音声が響き渡る。
「やはり、奴は死んだか……汝ら如きでは相手にならん。散れ」
「…………」
隊長も何か喋っているが、小さい声で全然聞こえない。
一応隊は組んでるので会話は出来るのだが、遠くの魔将に声を伝えようとしても無理っぽい。
「ふむ、意思の疎通が出来ないとは不便な事だ。ヒトの世の征服前哨戦と思ってやってしまうか。全ては力をお与えくださった邪神様の為に……」
流石魔将も元騎士だけあって忠誠心とかあるんだなとどうでもいい事に感心してしまう。
皆がいそいそと鞄から樽を取り出すのを見て、自分も慌てて用意。
もうやるしかないと言う事だろう。多分護国の将軍もこの戦いに参加したいだろうな~と思ったら、なんかでっかい骨の頭に乗って大砦の中から姿を現した。
どうやら骸骨になってしまえば瘴気の影響を受けないのか、全然平気なようだ。
「くふふふ!そんな!そんな惨めな姿になってもまだ、この世に未練を残していたのか!そうか……せめて我が手で引導を渡してやるのが情けと言うものか……」
「…………」
護国の将軍も何か言いたそうだが、そもそも何言ってるのかよく分からない。なんで1000人率いれるヒトってこう不便なんだ?
コレだけ大人数指揮するんだから、大きな声出したりとかなんかスキルとかアイテムでも補正があればいいのに!
そう言えば、ルークだけはNPCだけど、瘴気は大丈夫なのかな?
そしたら隊長の横で古の聖女様と一緒にいて、聖女様の力でうっすらフィールドのような物を纏っているから大丈夫なんだろう。多分。
「ふん!まあいいわ。長き因縁にケリをつけよう!」
「じゃあ、始まったから『行くぞ!』まずは樽爆弾コロコロ作戦から!」
一気に高まる士気に格の違いを見せ付けられつつも、作戦名がダサい!
しかし、まずは大ダメージからはじめようと、前線が一気に樽爆弾に火をつけて無視の集団に向かって転がす。
敵前線にぶつかり爆ぜる樽爆弾、巻き上げられた土交じりの煙が充満していく戦場。
流石にこの規模の戦闘は緊張する。