1.日常
MONOローグ~ブラック企業勤めのおっさんがVRMMOにはまった場合~のソタロー視点の話になります。
よろしくお願いします。
街中であっても容赦なく降り積もる雪。
【帝国】は本当にいつでも雪が降っている。そして当然ながら寒い。
最初から着ている初心者服の上から支給の胴当てにブーツにヘルメット、さらにコートを着込んで【巡回】任務をこなす。
すでに何回も歩いて見知った街中を決まった順路で巡り歩くだけだ。今まで揉め事に出くわした事すらないのだが、
何でそんな事をしているかっていうと、コレがゲームのクエストだから。
毎日日課の様にこなしてはいるものの初心者の小遣い稼ぎ程度にしかならない。
一応フルダイブVRこそ初めてだが、周りの友人たちがやってる流行のゲームくらいはやった事があるので、
いつもでも小遣い稼ぎの初心者クエストをやっていても仕方が無いのは理解している。しているがそれでも続けているのは……、
「おっソタロー君じゃん!クエスト続けてるんだな!関心関心!早く隊長を追い抜けよ!」
と【巡回】中でもかまわず話しかけてくるこの先輩プレイヤーの所為。正直胡散臭いが一応有名なクランのメンバー。有名人があこぎな騙しをしないだろうと今の所信じている。
そして自分と同時期にこのゲームを始めたプレイヤー達、
中でもこの【帝国】を拠点にする者は大抵その『隊長』目当て。
このいつの間にか現れたフルダイブVRゲームの一周年記念優勝者って言う、なんだかよく分からない栄光の一般人。
なんだかよく分からないとか言いながら自分がしっかり惹かれてるのだから、カリスマではあるのだろう。
しかし、隊長は何やら任務で外国に行ってしまってるとの事で、この人が秘密裏に次世代の隊長を育てようと、アドバイスをくれるのだ。しかし、
「早く追い抜くと言われましても、初心者クエスト繰り返してるのもう自分だけですよ?」
「まぁ、攻略なんかでも、何のうまみが無いってアレだけ大々的にうたってるからな。でも隊長もこのゲームのNPCもクエストした方がいいって言ってるんだからさ」
「まあ、いいですけどね。隊長はなんかNPCよりNPCみたいな人だって言う噂は本当みたいだし」
「ああ、本当だぜ!本当にクエストしかやらないんだ。それが仕事だからってさ。今他国に行ってるのも任務だから!って言うからなあいつ。ちょっとおかしいんだ」
「そのちょっとおかしい人が優勝しちゃったんですもんね」
「ああ、ありゃ勝てねぇ。うちもユニオン戦、レギオン戦と世話になったしな」
「ユニオン、レギオン?」
「ああ、20人で戦う魔物がユニオン級、100人で対応するのがレギオン級っていうおおよそのくくりな。戦闘フィールドで戦える人数はある程度制限があるんだが、少ない分には何も言われないし」
「プレイヤー100人で戦わなきゃいけないことがあるんですか?」
「ああ、そういう魔物が普通にいるんだよ。だからソタロー君の【兵士】職が重要になる。多人数戦の鍵は【兵士】が握ってるのさ」
「それとクエストにどういう関係が?」
「隊長いわく、ちゃんと仕事するから信頼されて、もっと大きな仕事を任せられるんだろって」
「はぁ、ゲームなのに何言ってるんですかね」
「でも隊長は本当にクエストしかやってないから、はじめの数ヶ月は剣すら持ってない初心者服オンリープレイヤーだったんだぞ。やるだけやってみろって、俺だって【座学】やってきたばかりだし」
「そうなんですよね。アンデルセンさんも何気にちゃんとクエストやってるんですよね。先を行く先輩プレイヤーが身を持って示してるのに、何で皆いなくなっちゃうんだか」
「まあ地味でしんどいのは分かるから、程々に狩りとか挟んで息抜きしながらやるのが一番いいとは思うけどな」
そして、アンデルセンさんが何処かに行ってしまうと【巡回】の続き。
一応事前にスキル<察知>は手に入れているので、曲がり角の度に警戒して人が来ないか確認し、
ちょっとでも熟練度を稼ぐべく使えるスキルは使っていく。スキルは使う程熟練度が溜まり育っていくって言うのはチュートリアルで説明された。
<察知>は気配を察するスキルなので、不意打ちに備えたり、障害物で見えない相手の場所を探ったり出来る。
個人的には障害物に隠れている相手を見つけるって言うのは凄い使えるんじゃないかと思ってるけど、どうなんだろう。
まだそこまで外のフィールドにいる魔物に慣れていないので、隠れた魔物に襲われたことなんかは無いんだけど、
魔物に奇襲を食らうなんてゲームの定番かな?とも思うし。
なんなら、コレだけ雪が降ってるんだから、雪の中から飛び出す敵にも対応できるか……。
それにしても何でこんな寒くて足場の悪い場所を隊長は拠点にしたんだろう?
自分は隊長の拠点だからなし崩しでここに来たんだけど、どう考えても不便な土地なんだよな。
でも自分にはちょうどいいのかもしれない。
昔から、何がしたいとか、夢とか聞かれると困ってしまう。
別に何もしたくないとかそんな事は決して無いのだが、幼い頃から誕生日やクリスマスに欲しい物を聞かれても答えられずに、両親に悲しい顔をされてしまう。
だからこそ、こんな不便な土地にいる方が、温かい物が食べたいなとか、温かい装備が欲しいなとか、
そんな普通の欲求が自分の中から生まれてくるのが新鮮で楽しい。
何となく自分の行動と思いが一致して足取りが軽くなり、そのまま任務を終えて任務票を【兵舎】に持って行き、報酬を受け取ると。
「今日の日課は終わったか?じゃあ行こうぜ!」
と、声をかけられる。