呪われた歴史展
東京・上野歴史美術博物館。
今ここでは「呪われた歴史展」が開催されている。イギリスで始まったこの企画展は世界各国をまわっており、日本で8ヵ国目。どんなものが展示されているかというと…
古代ピラミッドから発見されたラーの鏡、これは太陽の力を集め、退魔の力を持つとされている。
ハンメル将軍のベッド、これは3度そのベッドで寝ると不幸になるという噂がある。
「崩壊」とタイトルのついたある伯爵邸の火事の様子を表した絵画、飾った家は火事により、この絵画を残して焼失しているのだとか。
どれもオカルトの域を出ない"逸話"をもつものばかりだが、美術品・芸術品としての価値はもとより、重要な歴史的価値をも持つ逸品ばかりだ。
この企画はどこの国で開催しても大当たりしていた。その中でも一番の目玉はダニエルスダイヤと呼ばれる913カラットもあるブルーダイヤ。所有した者が皆不幸になると曰くつきの、呪いのダイヤである。
このダイヤは研磨されたダイヤの中では世界最大級である。値段はとてもつけられたものではないが、ある宝石商によると、歴史性、輝き、希少性、カットの美しさなどから、軽く数千億円もの値が付くとされた。
数千億円。この小さな塊が数千億円。たいして宝石に興味のない者でも、いったいどんなものだろうとこの宝石の周りだけ常に人だかりができている。
中川美羽と総元達也はデートでこの歴史展に来ていた。お目当てはもちろんダニエルスダイヤ。多くの来場者の間で、もみくちゃにされながらもやっと最前列まで来ると、その大きさ、輝き、色の深さに圧倒された。
世界一のお宝だけあってか、2mくらいの距離までしか近づけない。
「わあ・・・」
二人して、二の句が継げない。
子どもの握りこぶしほどはあるだろうそのダイヤの輝きは、テレビや写真ではまったく再現しきれていなかったのだということを思い知らされた。
青く透き通って、しかし見れば見るほどその奥底に見通せない深みを帯び、複雑に乱反射する輝きは光だけではない何かを放っているのではと感じさせる。
時間にして数秒だっただろうか。押し寄せる人並みに押され、ダイヤが視界から消えた時、やっと二人は話し出した。
「見た?!ねえ!写真で見るよりきれいだったね!綺麗以上にさ、なんかこう、温かいっていうか、圧力っていうか…」
興奮しながら美羽が言う。
「わかるわかる!ヒーターのような!」
「ヒーターは言い過ぎじゃない?でも、そう。本当に温かかったのよね。なんだろ」
「照明じゃない?」
正直、俺はダイヤなどの宝石の価値は全く分からない。今日だって、美羽が来たいっていうから『見つけた…』来ただけだったのだが、実際目にすると迫力というか威厳というか、確かに圧倒されるものがあった。
思い込みによる錯覚と『気付いて…』言われれば…ん?…そうかもしれないが、確かに温かさを感じたし得も言われぬ力のようなものも感じた気がする。
「何か言った?」
「私?なんにも?」
そっか。
「あっちもみてみよう」
美羽が手を引く。幸せなひと時だ。
一通り見て周り、夕方。
「そういえば、ダイヤのところでさ。ダイヤから気付いてって聞こえた気がしたんだけど」
つぶやきながら達也はニヤリと笑う。
「ちょっと!やめてよ!そんなわけないでしょ。怖いこと言わないでよー」
美羽は達也の袖を引っ張り、体を寄せてくる。